翡翠石
無事にリーゼロッテとミリィーナの仲直りが解決したのを確認してから話題を戻す。
「ミリィーナ、俺達はこことは違う別の世界から来たんだけど帰り方しらないか?」
「もしかしたら力になれるかもしれないです。この世界へはどうやって来たんですか?」
耳をぴょこぴょこ弾ませながら興味深そうに聞いてくるミリィーナに対して、この世界に来た経緯を包み隠さず話す事にする。
ミリィーナは腕を組みながら、頭を縦に振りながら話を聞いていたが、年不相応な立ち振舞に思わず笑みが溢れる。
不必要な事を除き、全てを伝えるとミリィーナは椅子から立ち上がり、突然俺の身体を弄り始めた。
「えっおいミリィーナ!?」
「ちょ!? ミリィーナちゃん!?」
俺とリーゼロッテが驚愕していると、ミリィーナの魔手が服にまで迫ってきており、ガバっと脱がされてしまう。
気分はさながらか弱き乙女。
されるがままに身を委ねていると何時の間にやら全裸にされており、リーゼロッテの視線が痛い。
恋人にだって見せた事のない裸身を二人の女性に同時に見られてしまうのは正直恥ずかしい。
恋人が居た事実は無いのだけれども。
「OH……もうお嫁さんにいけない……」
落胆しながらポツリと呟くが起こったしまった出来事を変える事は出来ない。
頭を切り替えていこうと思ったが、ふと突飛な事実に気付く。
ミリィーナは目的があるみたいだし俺の裸を見ているのは最悪仕方ないが、リーゼロッテが俺の裸を見続ける必要はないんじゃないだろうか?
例えるならば、リーゼロッテの着替え現場に偶然遭遇した俺が、ニヤニヤとスケベな顔をしながら、
不可抗力だから仕方ないと悪びれる様子も無く、そのまま着替える様を堪能しているようなものだ。
ノーリスクで道徳の欠片も感じられない非人道的な所業。
(許せねえ……今度着替え現場に遭遇したらそのまま凝視し続けてやる……!)
決して声には出せない下心満載の復讐をする事を胸に誓った。
「あ、ありました!!」
下種な事を考えていると、身体を弄っていたミリィーナが声を上げ、俺達に見えやすいように腕を上げながら手に掴んでいた物を見せていた。
「これはあのときの御札か?」
「あ、本当ね」
「そうです! これがあれば帰れますよ!」
「本当かミリィーナ!」
「はい!」
「やったなリーゼロッテ!」
「うん!」
唐突な展開に喜ぶ俺とリーゼロッテ。そして何故か暗い顔をするミリィーナがいた。
帰れるというのに何でそんな顔をするのだろうか? 気になった俺は声を掛ける事にする。
「どうしたんだ?」
「えっ、どうかしましたか?」
「お前暗い顔してただろ」
「あはは、バレちゃいましたか」
俺に気付かれてしまったからだろうか、ミリィーナはバツの悪そうな表情で苦笑いを浮かべた。
何か訳があるのだろうと、自分から話してくれるまで急かさず待つ事にする。
皆が一斉に押し黙り沈黙が流れ、気まずい雰囲気になるがそれでも俺は押し黙る。
数瞬後にミリィーナが沈黙を破るために口を開く。
「あのですね、僕お友達がいないんです。それでリーゼロッテさん達が帰っちゃうと寂しいなぁって思っていたんです」
「そうだったのか、気付かなくてごめんな」
「ミリィーナちゃん……」
気丈に振る舞うミリィーナがとても小さく見えた。今まで色々我慢してきたり苦労してきた事があるのだろう。
友達がいない事を告白する辛い気持ちはよく分かる。俺もリーゼロッテに出会うまでは友達という友達は居なかったからな。
「あ、でも話す人達はいるんですよ! 僕以外には子供がいないだけなんです!」
同情の眼差しでみていた俺の視線に気付いたのだろうか、慌てて訂正をしている様子が愛らしい。
俺達は軽く頷きながらリーゼロッテの頭を撫でる。
しかし完全一人ぼっちだった俺とは違うようで少し安心をする。
「ミリィーナ、俺達は友達だろ?」
「私も友達だと思ってるよ」
「え、本当ですか?」
こんなに可愛らしい少女なのに友達が出来ないのはあまりにも理不尽。
現状を打開するべく柄にもない事をする。
「おう!」
「うん!」
「わあ、ありがとうです!」
感涙している小柄なミリィーナを傍に引き寄せ肩を抱く。
こんな事を俺達の世界でしようものなら、セクハラだの痴漢だの謂れのない罵詈雑言を浴びせられるだろう。
しかし、ミリィーナに関して無用な心配は要らない。
「よく考えたら帰れる方法も見つかった事だしもう少しここでゆっくりしていこうかな?」
俺の意図を察して貰う為にリーゼロッテに視線を向ける。
「そうね、色々話したいこととか聞きたいことあるし!」
「本当ですか!?」
どうやら合図に気付いてくれたようで、この世界に留まる旨の発言をリーゼロッテから引き出す事に成功した。
こういう察しの良い所は普通に助かる。さすが相棒だ。
「おう! 男に二言は無い!」
「わーい!」
最初のしっかりした雰囲気とは打って変わり今の無邪気な様子は純粋に子供のそれと同じだ。
エルフとはいえやはり子供。こちらが本来の姿なのだろうと推察する。
「なあミリィーナ、あの御札での帰り方だけ教えてくれないか?」
水を差すようで悪いがやはりこれは聞いておかねばならないだろう。
いつ何が起こるのかわからないのだから。
「はい、あの御札はこの世界と、リーゼロッテさん達の世界を転移魔法陣で繋いでるんです」
「やっぱり転移魔法陣なのね」
「そうです。この魔法陣は私達が得意とする分野で魔法陣を解析・構築をする事によって元の世界の座標を割り出す事が可能なんです」
「ほおー……よくわからないけどすごいな」
「あはは、ありがとうございます!」
「で、ここからが本題なんですけど」
そう言った途端ミリィーナの歯切れが悪くなる。
「どうしたんだ?」
「えっと、本来だと魔法陣が起動する動力源があるんですけど、鋼鉄戦士さんの魔法陣は動力源がないんです」
「ま、まじ? 動力源がないとどうなるんだ?」
「帰ることが出来ません」
キリッとした顔をしながらキッパリと言い放たれてしまう。ここまで来て帰れないとかそんなばなな。
「具体的にどうにかする方法はあるのか……?」
「ありますよ! 翡翠石と呼ばれる鉱石があるんですがそれを組み込む事によって起動できます!」
「そうなのか! それはどこで手に入れればいいんだ?」
どうやら方法はあるようだ。ミリィーナが最初の段階で慌てていなかったので恐らく町の道具屋か何かで買える安価なものなのだろう。
そんな風に予測をしながら質問をする。
「それが……魔物が持ってます! 僕達で言う心臓に当たる部分に翡翠石があります」
「それって!」
「ああ!」
解を持ち合わせていた俺とリーゼロッテで頷き合う。
懐から先程プレゼントした結晶を取り出したリーゼロッテが優しく手に取りながらミリィーナに手渡す。




