少女ミリィーナ
「止まったぞ!」
「ありがとうございます! 早速ですが町に来た目的を教えて頂いてもいいでしょうか!」
「目的は特に無い! この世界の事を知りたくて情報を集めているだけだ、知っている事があったら教えて欲しい!」
「…………」
大声でやりとりをしていると相手がいきなり押し黙ってしまう。
離れた場所から会話をする慎重ぶりといい、どうやら俺達を警戒しているらしい事が窺える。
そうせざるを得ないだけの理由がこの世界にはあるのだろうか。
(あんな強いモンスターが蔓延っているんだ、仕方の無いことかもしれないな……)
この世界の住民達の生活を考えると少しばかり同情をしてしまう。
先程俺達を襲撃してきた敵が沢山いるとなると気持ちも滅入ってしまう筈だ。
沈黙の中、会話をしていた人物がフードを下ろし素顔を俺達に披露する。
流れるような艶やかな髪にピンと伸びた尖った耳、透き通った瞳をした少女らしき女性が立っていた。
声を聞いた瞬間から中性的な雰囲気は放ってはいたが、まさか女性だとは思いもしない。
「驚かせてごめんなさい、僕の姿に驚いたでしょう? 貴方達とは種族が違うみたいなので」
「いや大丈夫だ。こちらこそいきなり町に押し入ってしまってすまない」
「いいえ、貴方達は僕達に害を加えに来たわけではないのでしょう?」
「ああ、害は加えない約束する。この世界の事を教えて欲しいだけなんだ」
「そうですか、では立ち話も何ですので僕のお家にご招待します」
「いや、それは悪い女の子の家に押し入るわけにはいかない」
「あはは、気にしなくて大丈夫ですよ。お家には母親もいますので」
さすがに出会って間もない女性の家に招待されるのは少し憚られるが、相手は気にする素振りを見せない。
俺がどう断ろうか悩んでいると背後から助け舟が出される。
「いいじゃない、私疲れたからお邪魔しようよ」
「えっ」
助け舟ではなくどうやら泥船だったようだ、なんて遠慮のない女性なんだコイツは。
「この子も立ち話してたら疲れちゃうでしょ? ならお邪魔して寛ぎながら話したほうがお互いに取って最良じゃないかな?」
「う、うーん」
こんな風に言われてしまっては断ることなど出来そうにない。
確かにこんな小柄な子に立ち話をさせてしまうのは些か可哀想な気もしてくる。
「本当に気にしなくて大丈夫ですよ、久々の来客で嬉しいですから」
「そうか……じゃあお邪魔させてもらうぞ」
「はい!」
こうして俺達は少女の家にお邪魔をさせて貰うことになったが、リーゼロッテの家に続いてまたしても豪邸に通される事になる。
俺にとっての豪邸が皆には普通の家なのではないだろうかと思わず混乱しそうになる。
内装は至って普通だが所々に高級そうな壷や絵画が置かれている。
長い渡り廊下を歩いていると行き止まりの通路と部屋の扉が見え、そこに向かい少女が歩いて行き俺達もそれに続く。
室内に入ってからというものの誰一人としてすれ違うこと無く、持て余された家なのだろうと推察する事が出来た。
三人とも無言で歩いているとようやく部屋の前に辿り着き、コンコンコンとノックをしてから扉を開け入室をする。
部屋にはベッドや机などが置いてあり、明らかに個人の寝室だとおぼしき物が沢山置いてある事に気付く。
(ここ誰かの寝室じゃねーの?)
何故寝室に通すのかの意図はよくわからない、普通は客室とかに通すものではないのだろうか。
これだけ広い屋敷なのに客室が無いということはないだろう。
それともこの世界はお客様は寝室に通すのが礼儀なのか……わからない。
「なあ、ここって誰かの寝室か……?」
思わず失礼な事を聞いてしまうが気になってしまったから仕方ない。
「はい僕の部屋ですよ。何かありましたか?」
「い、いや何でもない」
あまりにも堂々と答えられてしまい逆に申し訳なくなる。最近何故か女性の寝室に入る機会が多い気がする。
これが世間で言うところのモテ期という奴なのか?
有りもしない妄想を脳内で繰り広げつつ余韻に浸る。
「あの、この世界の事を話す前にお名前を伺ってもいいですか?」
そういえば未だに名前を語っていなかったようだ、今更ながらに失礼な事をしたなと反省をし少女の目を見つつハッキリと返答をする。
「遅くなって悪い、俺の名前は鋼鉄戦士だ。よろしく」
「私の名前はリーゼロッテ、よろしくね」
「僕の名前はミリィーナです、よろしくお願いします!」
ミリィーナと名乗った少女は元気よく挨拶をし、俺達の傍により握手を求めてきた。
最初に出会った慎重で用心深い態度とは打って違い、朗らかで人懐っこい表情に俺達も自然と笑みを零す。
「早速本題に入りますね。この世界の全貌はわかりませんが僕達はエルフという種族で、この町近辺に住んでいます」
「エルフか……小説の中で読んだことあるな」
「うそ! エルフって実在したの?」
俺達の反応はそれぞれ違ったが、どうやらリーゼロッテが知る限りでもエルフは架空の種族という認識らしい。
「はい、貴方達のエルフが僕達の事を指しているのかはわかりませんが……」
「俺の知ってるエルフは耳が尖ってるから多分お前達の事を指してるんじゃないかな?」
「なるほどぉ……」
ミリィーナは興味深そうに耳をぴょこぴょこと揺らしながら俺達の話を聞いていた。
声を出す度に反応して動く耳がとても可愛らしい。
「俺達は人間っていう種族だけどわかるかな?」
もしかしたらこの世界にはエルフと先程俺が対峙した化物達しかいないのかもしれない、そう思いながら質問をした。
「はいわかります。極稀に私達の町にもやってきた記録がありますから」
「そうなのか」
どうやら俺の考えは杞憂だったらしいが記録という言葉に少し引っかかりを感じる。
「記録ということはミリィーナが実際に人間に会ったのは俺達が初めてなのか?」
「はい、なので少し不安でしたが話してみるといい人達なので安心しました!」
屈託のない笑顔を俺達に向けるミリィーナを見てエルフは純粋な生物なのだろうと感じた。
人間全てがいい人なのかと問われれば間違いなく答えはノーだからだ。
ミリィーナに出会ったのが全人類で一番善良な俺で良かったと心から思う。
「ミリィーナそれは違うぞ。俺はいい人だがこっちのリーゼロッテはとんでもない悪人だから気をつけろ!」
「えええ、そうなんですか!? わかりましたああ!」
そして素直に俺の言葉に従ってくれるミリィーナ。うん素直なのは実に素晴らしい。
感涙しそうになっていると真横で拳を握りしめたリーゼロッテに頭を殴られてしまう。
「いててってて」
「もう馬鹿! 信じちゃってるじゃない!」
俺に怒涛の怒りをぶつけ自らの潔白を証明しようとするリーゼロッテだったが暴力に手を出してしまっては説得力に欠けているような気がする。
四白眼になっていたリーゼロッテだったが、わざとらしい笑顔を作るや否やミリィーナに向き直り声を掛ける。
「ミリィーナちゃん。私もいい人だから安心してね?」
「は、はい……!」
しかし時既に遅し。ミリィーナは俺の背後でビクビクと震えながら返事をしていた。
「ミ、ミリィーナちゃん……」
涙目と震え声になっているリーゼロッテを見ると俺の胸も痛くなる。
「すまないミリィーナ。さっき言ったのは冗談でリーゼロッテは優しいから安心してくれ」
「えええ!? わかりました! 失礼な態度を取ってごめんなさい!」
すかさず身を翻しリーゼロッテに謝る姿はとても好感が持てた。
俺がニッコリと微笑んでいると、涙目だったリーゼロッテは頬を赤く染め、微笑みながら目線をミリィーナに合わせて両手をギュッと握りしめる。
「ありがとう、ミリィーナちゃん。よろしくね」




