シャンリールの町
「おい、うるさいぞ」
目に涙を浮かべながら大声で叫んでいるリーゼロッテの頭を軽く叩く。
「ふぇ……? ア、アンタなんで生きてるの……?」
「いやいや、こんなのが俺に見えるのかよ」
地面に転がっているモノに向かって指を向けながら答える。
そこにはチンケな身体と、切断されているブサイクな顔をした首が落ちていたがどうみても俺には似ていない。
こんなのに似ていた日には、「化物!」「ゴブリン!」と誹謗中傷をされても仕方がないと思わされる容姿なのだから。
「た、確かに似てないわね……」
「だろ? 酷い話だぜ」
「でも、この切断されている首はなんなの?」
「ああ、これは背後から俺達を狙ってた奴の首だな。凄いスピードで襲ってきたから首を刎ねたんだ」
「首を刎ねたって……物騒ね」
「殺気出してたし仕方ないだろ、手加減出来なかったからな」
「それなら仕方ないわね」
「おう」
先に敵に対して襲撃をしたのは俺なんだがこれは黙っておく事にし、リーゼロッテに説明をした後に襲ってきた敵の亡骸を観察することにした。
パっと見俺達の世界では見たこともない亡骸がそこにはあり、頭には角が生え、口には鋭利そうな牙もあり、極めつけには胴体のお尻に尻尾が生えている。
「こ、これ何の生物なんだ……カオス過ぎじゃね……?」
「そ、そうね、私達の世界では見たことないわよね……」
このやり取りでリーゼロッテも謎の生物の風貌にドン引きをしているのが伝わってきたので少し安心する。
しかし問題はここからだ、俺の予想だとアレがある筈なのだが今の所どこにも見当たらない。
(だとすると身体の内部にあるのか……?)
考えるや否や身を乗り出して亡骸の頭部に手を押し込み内部を弄る。
ヌチュヌチュと生暖かく気持ち悪い感触の中を泳ぎ続けていると、指先が眼球部分からズボッと突き出て目玉がゴロリと落ちる。
「ゲッ」
「きゃああああ!」
今まで不快そうな表情で俺の解体作業を見ていたリーゼロッテがここぞとばかりに叫ぶ。
叫び声を聞きながら冷静に腕を引き抜き、次は胴体を漁りに向かう。
「ちょっちょっと、アンタ何してるのよ」
「何って探してるんだよ」
「何を……?」
「見つかるまで待っててくれ」
軽く言葉を交わし再び胴体へと腕を押し込む。
幾ら男だろうとこの何とも言えない感触は味わいたくないのでさっさと済ませたいが肝心の物が中々見つからない。
内臓の海を指で掻き分けながら泳いでいると、やがて心臓付近で硬い何かにぶつかる。
(コレか!?)
意中の物かは見ない事には判別出来ないので、強く握りしめ一気に身体から引き抜く。
ドロぉっと溢れ出る血肉と共に出てきた腕を見るとそこには光り輝く何かが握られていた。
「おい、リーゼロッテこれ! 結晶じゃないのか!」
「え、結晶って?」
「オッサンが話してただろ、混沌世界の魔物が持ってる結晶があるって!」
「! これがそうなの!?」
「わからねえけど心臓部分にこんな結晶普通ないだろ?」
「そうねえ~……やっぱり混沌世界なのかしら?」
「多分な」
「ふーん」
「じゃ、こんな物騒な世界で立ち話してたらまた襲われるかもしれないし先に進もうぜ」
「うん!」
再度リーゼロッテを先頭に目的地に向かい歩き出し、手元の結晶を覗き込む。
リーゼロッテにはわからないかもしれないが、この結晶を手に持ち何となく確信していた。
結晶の事が妙に懐かしい気がし手に馴染む。まるで昔から自分の身体の一部だったように。
(親父は何でコレに執着したんだろうか……)
実物を握ってみても理解をするには到底及ばず、リーゼロッテに視線を向けると結晶を物珍しそうに何度も振り向き見つめながら歩いていた。
そんなリーゼロッテを見て、ふとこの結晶をプレゼントしたくなり、手持ちのハンカチでキュッキュッと綺麗に汚れを落とすことにした。
「リーゼロッテ、これやるよ」
「え?」
空に放り出した結晶が弧を描くようにリーゼロッテの手の平へと落ちていく。
「少し早い誕生日プレゼントだ」
「へ? アンタ私の誕生日知ってるの?」
「いや知らない、あと一年以内には来るだろ」
俺の返事を聞くや否や、派手に倒れるリアクションをしているリーゼロッテがいた。
「あ、アンタねえ……てっきり知ってるのかと思っちゃったじゃない!」
「知るわけ無いだろいい加減にしろ! で、何時なんだ誕生日」
別にコイツの誕生日が何時なのか気になる訳ではない。会話の流れから知らないのが気に食わないだけだ。
(今から聞き出して別の誕生日プレゼントも用意してやるかなんて思ってるわけじゃないからな!)
脳内の自分に必死で語り掛けながら、チラリと視線を向けるとニヤニヤ不気味に笑いながら俺を見ているリーゼロッテがいた。
「んーー誕生日知りたい?」
「ああ、お前が記憶喪失になったりしたら俺が知ってないと教えれないしな」
「ふーーーーん、まあいいわよ。誕生日はね今日なの」
事も無げに教えてくれたが果たして今日とは如何に……嘘をつかれているのだろうか。
「あのなあ、流石に今日ってのは嘘だろ。365分の1だぞ?」
「なによー、本当だってばー」
「……マジ?」
「うん、マジも大マジよ」
「……何か適当なプレゼントでごめんな」
「いいわよ、これ綺麗だし嬉しいもん」
「そっか」
会話も程々に歩いていると町によく似た風景が目と鼻の先にまで迫っており、リーゼロッテが走り出しようやく町に着くことが出来た。
町の入口には看板らしきものが打ち立ててあり『シャンリール』という文字が書き込まれていた。町の名前だろうか。
俺にも読める文字だということは混沌世界は俺達の世界と一緒の言語だということだろう。
「ねえ、ここシャンリールって書いてあるよ」
「ああ、町の名前みたいだな」
「そうだね、じゃあ早くいこう?」
「ああ、わかった」
町の中から十数人の気配を感知したが、漏れ出る殺気が皆無な事を確認し足を踏み入れた瞬間、一番大きな屋敷の扉が開く。
扉の奥からは人影が見え、徐々にこちらに向かってくるようだ。
人影はフードを被っていて顔はよく見えない。殺気を放っている様子は無いが油断は出来ない。
リーゼロッテを背後に回し、人影に向かいゆっくりと歩み寄り、お互いの距離が10メートル程に接近した時だった。
「止まってください!」
いきなり大声で静止するように言われてしまい、背後にいるリーゼロッテと顔を見合わせながらも一時停止をする。




