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鋼鉄戦士と工匠技師  作者: 雪ノ音緋奈子
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異世界へようこそ!

「うわっっと」

「きゃああ!」


 いきなり地面に投げ出され盛大に尻餅をついていると、俺の頭上からリーゼロッテも降ってきて押し潰される。


「おい重いぞ」

「うるさい!」


 頬に強烈なビンタを受け、今までには無いある違いに気付いた。


(ビンタが痛い……?)


 普通のビンタでこんなに痛むのは大人になってからはおおよそ初めての経験だ。

 リーゼロッテが特殊なアイテムでも使用したのだろうか。ジロジロとリーゼロッテを観察するが、特に普段と変わった様子はない。


「な、なにジロジロと見てるのよ」

「いやなんでもない。強烈なビンタだと思ってな」

「お父さんの娘だから当然でしょ。フンッ」


 いきなり機嫌を悪くさせてしまったようだが、いつものことか。

 リーゼロッテを無視し、自分の頬を抓ってみたり色々試した時点で漸く原因を解明した。


「大変だリーゼロッテ。俺の身体が鋼鉄じゃなくなってるぞ」

「え、嘘?」

「残念ながら本当だ触ってみろ、ほら」

「うん」


 そう言いながら猛々しく張り詰めた股間を、グイっと前に差し出す。

 気が付くと俺は宙に舞っていた。どうやら間髪入れず顎をアッパーで殴られたようだ。

 気絶しそうな程の痛みが体中に走るが、いよいよこれで自分の肉体が特別じゃなくなったことを悟る。

 宙返りで体勢を整え、リーゼロッテの眼前に立つ。


「すまん冗談だ」

「わかってるわよアンタ馬鹿だから」


 リーゼロッテは呆れ果てながら俺の身体を触り状態を確かめていた。

 鋼鉄の肉体の時には感じなかった、くすぐったさが全身を襲う。

 男に触られたことがないのも勿論だが、当然女に触られたのも初めてなのでどうしていいのかわからない。

 あまりのくすぐったさに身を捩りながらリーゼロッテの手を止める。


「ほら、もういいだろ」

「あら、まだわからないわよ?」

「ええ……?」


 しばらく身体をベタベタ触ったところでようやく飽きたのだろうか、リーゼロッテは身体を触るのを止め辺りを見渡し物思いに耽っているようだ。

 俺も同様辺りを見回すと辺り一面が霧に覆われており驚愕する。


「おい、リーゼロッテここどこだ?」


 今更だが見知らぬ場所に放り出されていることに困惑し質問をするが、返事は一向に無い。

 集中をしてて耳に入らないのか、それとも無視されているのかは分からない。

 沈黙の気まずさに物事を考える振りをする。


(返事をしてくれないなんて酷い……拗ねるぞ……ッ!)


 子供みたいな考え事をしながらも現在の状況を模索する事も忘れない。地面に手を押し当て砂と石を分析する。

 おもむろに砂と三個の石を口に運びながら優雅に舐めあげる。


「ぺろっ……これはただの砂と石ッ!」


 こんな事を繰り広げているが誰からのツッコミも入らないので虚しくなり、口の砂をハンカチで拭いながら石を握り締める。


(なにをやってるんだか俺は……)


 落ち込みながらリーゼロッテに視線を戻すが先程同様に考え事をしているようで、俺に構ってくれる余裕は無さそうだ。

 この状況で敵に襲われたら守護者としての役割を果たせないかもしれないと思い、身体能力を確かめる為に石を遠投してみる。


「――ふっ!」

 

 両足を大地に根を張るようにイメージをしながら握り締めた石を三点に向かって射出する。

 弾丸の如く放たれた石は空気を裂きながらも、数秒後には衝突音を伴いながら着弾した。

 着弾から少し遅れて、多少の傷みを腕と腹部に感じはしたがこの程度なら気にする必要はないだろう。

 危惧していた身体能力の衰えも然程の違いは無いように思えた。


(これなら守護者として護り抜く事は可能かな。俺は手足で頭はリーゼロッテだ、後はコイツに任せよう)


 結論付けながらリーゼロッテの行動に注視することにした。

 綺麗な横顔を眺めていると心が奪われそうになり、心臓がドキドキしたが頭を左右に振る。


(いけないいけない、これが吊り橋効果というものか。恐ろしい)


 吊り橋なんて無いし、恐怖に感じる出来事すらないが吊り橋効果のせいにして自分の気持ちを誤魔化す。

 気恥ずかしさと視界が悪く気分が悪いので八つ当たり同様に、振りかざした腕で前方の霧を薙ぎ払う。


 一瞬の沈黙のあと視界が急激に明るくなり、辺りを見回してみると少し離れた先に町のような、建造物に似た物を確認した。

 まだアレが何かはわからないがどちらにしても、ここがどこなのか理解する為には行ってみる必要がある。

 リーゼロッテは未だに何かを思考しているようだが現状は行動を優先する事にし、肩を揺さぶり声を掛ける。


「おい、町みたいなのがあるぞ!」

「ほんと!?」

「まだ分からないけど行ってみようぜ!」

「ええ、わかったわ」


 俺達は建造物に向かい歩を進めることにしたが厄介な事になった。

 先頭をリーゼロッテに任せ、後方は俺が歩く事にし周囲を警戒する。

 前方には特に警戒するものも無く殺気も感じないが背後からは強烈な殺気を感じていた。


(この針を突き刺すような嫌な感じ……怒らせちまったかな)


 先程投げた石礫を直撃させたうちの一人だろうか。

 三人の内二人は仕留めれたようだが、一人を仕留め損なったらしい。

 付かず離れずの距離を保ちながら俺達の後をついてきている。


(あまりリーゼロッテに心配をかけたくないんだがなぁ)


 この調子だとそんな悠長な事を言っている場合ではなくなるかもしれない。

 何時背後から仕掛けてくるのだろうか、背後のみに全神経を集中し歩行していると声を掛けられた。


「ねえ、もしかしたらだけどここお父さんが話してた混沌世界なんじゃないかな……?」

「何だって?」


 自分の耳を疑った。何故俺がオッサンの探検していた混沌世界にいるのか訳がわからないからだ。

 しかしここにいれば親父が結晶に執着していた理由がわかるかもしれない、俺に付与しようとしていた理由も。

 様々な思考が一瞬で頭によぎる。


「お父さん言ってたの、混沌世界は瘴気や霧に包まれてる部分があって全体が薄暗いって。ピッタリ当て嵌まらない?」

「まぁ確かにな」

「それにね、混沌世界に行ける鍵は大会で優勝する事で手に入れれるって言ってたわ」

「優勝はしたけど鍵なんて貰ってないぞ? 神に誓ってもいい」


 普段は絶対に神に誓うことなんてしないが何故かこんなどうでもいいことで神に誓ってしまう。

 俺の中の神は親父なので非常に複雑な気分になる。


「いやねー。鍵ってそういう意味じゃなくて御札の事よ。入ってたでしょ?」

「あ、ああアレの事か紛らわしいなあ」

「ごめんごめん、でもあの御札ね? 文字は解読出来なかったけど転移魔法陣のそれと似てたのよ?」

「転移魔法陣……?」


 聞き慣れない言葉に頭が混乱する。一体何のことだろうか……一般常識なのかな?


「うん、転移魔法陣って対象者を別の場所に移動させる事が出来るの。異世界にも天界にも魔界にだって」


 それをするには複雑な手続きと正式な魔法陣の構築、その他諸々の要素を組み合わせてようやく出来るらしいがそれはどうでもいい。

 このままだと俺が世間知らずだとバレてしまうほうが問題だ。


「あ、ああ。その転移魔法陣のことか……当然知ってたぞ! まさかあの御札がそれだったなんてなあ!」

「うん、だからここがね混沌世界なんじゃないかと思ったの」


 世間知らずだとバレないように偽装工作をすることにした。


(少し白々しかったからバレちゃったかな……恥ずかしいぜ)


 リーゼロッテの顔を覗き込んでいるが純真無垢な表情をしている様子を見ると恐らくバレてはないだろう。

 単純なやつで助かったと心の底から思う。


「そっか、じゃあここが多分混沌世界なんだろうな。だったら人間離れしたアイツらにも納得が行く」

「アイツらって何の事?」


 私が振り返り背後にいた鋼鉄戦士と視線を合わせた途端それは起こった。

 静止した時の中、鋼鉄戦士の首が宙に舞い上がり、切り離された胴体が鮮血を撒き散らしながらゆっくりとスローモーションで、私に向かいながら倒れてくる。

 何が起こっているのか私には検討も付かない。脳が情報を処理しようとするのを本能的に阻止しようしたけど間に合わない。

 生温かくぬめった血が私の頬に飛び散った瞬間。


「いやああああああああ!!!」


 時間が動き出し、混沌世界に絶叫が響き渡った。

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