二人のギャンブラー
「今何て言ったの……?」
「お前は可愛いって言ったんだが?」
もう一度言うと今度は茹でダコのように真っ赤になり、リーゼロッテは押し黙ってしまったがこうなればこっちのものだ。
(フフフ、初い奴よのー。これで誤魔化せたな、やったぜ!)
そんなリーゼロッテを余所目に美人に視線を戻してみるが、先程の場所には見当たらなかった。換金所に目線を向けると現在進行形で換金をしている彼女を見つけた。
しばらく見ていると彼女の換金だけが一向に終わらない。何かがあったのだろうか? 疑問に感じていると職員が大きな布袋を担ぎながら彼女の元へと歩み寄り、ペコペコとお辞儀をしながら手渡していた。
重そうに引っ張りながら歩いている様の彼女を見て、ふと頭の隅に何かを感じた。少し考えているとようやく違和感の正体を掴む。
(俺に大金を賭けて倍率を押し下げたのアノ美人か!!)
ようやく合点がいくが、同時に悔しさも込み上げてくる。一体幾ら賭けたらあんな大金になるのだろうか。
(軽く見積もっても100万単位か……)
世の中にはお金持ちもいるものだなと思いながら自分の順番を待つ。
待っている間にお前のお陰で大損こいたぜ!など多数の観客から罵声を浴びているが気にしない。
(そんなに言わなくてもいいじゃないかー、傷つくよ―)
気にしない素振りをしながらも内心では滅茶苦茶傷付いていた。
背後を振り返りリーゼロッテを見ると先程よりは幾分冷静さを取り戻していたようで「アンタ達に何がわかるのよ」と小さく呟いていた。
俺への罵詈雑言に対して腹を立てているようだが、ポンポンポンと頭を撫で落ち着かせることにする。
小さい小声でリーゼロッテにだけ聞こえるように「ありがとな」と呟くとようやく落ち着きを取り戻し笑顔になっていた。
そうこうしているうちに換金の順番が回ってきたので、俺は受付にチケットを差し出した。
「おめでとうございます」と事務的に言葉を発しながら俺のチケットを受け取った職員は電卓を使い、払い戻し金額を計算していた。
195万と電卓に表示された通りにお金を運び俺に手渡しをしてきたので、ニヤニヤ微笑みながら受け取りある質問をぶつけることにした。
「少し質問があるんだが、大会が開催される直前に鋼鉄戦士の倍率は200倍を超えていた筈なんだがどうしてこんなにも下がったんだ?」
俺の問に対して職員は少し考えながらも大会優勝者という理由で、手元の端末を操作し理由を探ってくれた。
何ていい職員なのだろうと思いながら職員の言葉を待っていると、ようやく原因が解明した。
職員曰く「大会が始まる直前に二人の観客が大金を賭けていますね」という事らしい。
二人という言葉を聞いて頭に?マークが浮かぶ。
(俺に大金を賭けたのはさっきの美人だけじゃないのか……?一体誰だ……?)
再び怒りが込み上げて、机に拳を叩きつけ歯軋りをしていると背後にいた筈のリーゼロッテが隣に現れ、受付にチケットを渡していた。
「おい、何してるんだ?」
「何って、換金してるのよアンタと同様に」
「いやいやいや、お前はオッサンに賭けてるんじゃねーのかよ」
「お父さんじゃなくてアンタに賭けたのよ」
サラッと突拍子もない事を言い出し言葉を失う。何故初対面だった筈の俺に賭けているのだろうか?
リーゼロッテを眺めているがサッパリわからない。
当の本人は髪の毛を指でクルクルと弄りながら、受付の対応を待っていたがクルリと俺の方に振り返る。
「ごめんね」
彼女は申し訳無さそうに頭を地面に下げながら謝る。一体何を謝る事があるのだろうか。
「俺とお前の仲だろ、気にするなよ」
これからもパートナーとして行動していく予定の相手だ。何に対して謝っているのかは不明だが許すのが男というものだろう。
リーゼロッテは申し訳無さそうに下げていた頭を上げ、少し複雑な表情をしながらも笑顔を向ける。
詳しくは判然としないが元気になってくれればそれでいい。そう思っていると受付の人が大量の布袋を引き摺りながらリーゼロッテの元へと歩み寄る。
(お、おおおお? 一体これはどういうことだ?)
受付の人はリーゼロッテに対し引き摺っていた布袋を譲渡するや否や、受付場所へと戻っていく。
視線をリーゼロッテに向けると、俺に向かって手招きをしているので、静かに歩み寄る。
「ねえ、重たいからこれ運ぶの手伝って」
言葉と同時に差し出したのは先程の布袋だ。ズッシリとした存在感は一瞥しただけで相当重量だとわかった。
多少腰を痛める可能性も無くはないが持ち運ぶ事は造作も無いだろう。しかし持ち運ぶ前にこれだけは聞いておかねばいけない。
「持つのは構わないが。おい、この中身は……なんだ?」
俺とリーゼロッテの視線が交錯する。普通に予想は出来るがコイツ本人の口から聞きたい。
じっと見つめていると観念したかのように口を開く。
「あのね、換金したお金が入ってるよ」
「幾ら?」
「3億シール以上ね」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事を言うのだろう。
他人から見たら締まりの無いさぞや滑稽な顔をしているのだろうと思うが、肝心のリーゼロッテは至って真面目な顔をしていた。
なんとなく想像は出来ていた事だったが一言言わずにはいられない。
「俺の倍率下げまくったのお前かい!」
「う、うん。ごめんね……」
「まあそれはいいけどさ、どうして俺に賭けたんだ?」
「うん。試合開始する前にお父さんがね、今から控室に向かって来る男が試合参加者だったらその男に1000万賭けろって」
「それで俺に賭けたのか?」
「うん」
余りの出来事に驚愕する。まだ俺の姿形も見てない段階でそんな思い切った事をするとは。
気配を感じ取っていたのはわかっていたが、並大抵の芸当じゃない。
少なくとも大切な身銭を切る以上、俺は絶対にそんな真似は出来ない。
しかし疑問が残る。
「お前、俺の名前どうやって知ったんだよ」
「うん、だから聞いたでしょ? 初対面の時に名前」
「あ……」
確かに股間を攻撃されたときに聞かれた気がしなくもない。
しかし俺に賭ける為に名前を聞いたなんて誰が思うだろう。
「ね? 思い出した?」
無邪気な表情で聞いてくるリーゼロッテに少し心が揺らぐ。普通に可愛くて困るんだが。
しかし俺はここで負けるわけにはいかない。
「でもさ、オッサンそれ下手したら八百長じゃね?」
「お父さんの何処が八百長なのよ! 普通に本気出してたじゃない! 戦ってたアンタならわかるでしょ?」
「ま、まあ確かにな」
「ほら、八百長じゃないでしょ。私だって賭けてるときお金ドブに捨てちゃうな―って思ってたんだから」
「俺はドブかいな!」
強烈なツッコミを入れるが気にも留めず、グイグイと大金が入った布袋を押し付けてくる。
試しに軽く持ち上げてみるとズシンとした重みに身体が引っ張られる。
「重すぎだろこれ!」
「3億シールあるからね、うふふ」
嬉しそうな微笑みを浮かべているのを見て、思わず強奪したくなってしまう。悪い癖だ。
バレないようにコッソリと100万シール程抜き取ることにしよう。




