追憶の記憶(2)
「それでだ、エンドランスも一目惚れをしたようでな。シア・ソフィーヌの守護者になると言い出したので非常に困った。自由気ままな所は本当にお前とソックリだったな」
親父も一目惚れとかビックリだ、一体どんな女性だったのだろう。
「彼女曰く行く宛も帰る場所も無いということだったので結局我達三人で旅をすることになったが、女性には余りにも危ない世界だったので一旦帰る事にし現世へと戻ってきた時に、エンドランスが言い出した」
過去を懐かしむオッサンの顔が突如、眉間に皺を寄せ苦痛に歪んだように見えた。
「『決闘をして負けたほうがシアの事を諦めよう』とな。こんな時にも自分な有利なように条件を提示するのだから質が悪い。しかし本気だった我はその勝負を受け、ありとあらゆる武具を用いてエンドランスと戦った。結果は惨敗だったがな」
悔しそうな悪鬼の形相を浮かべるオッサンに少しドン引きする。なんてバカな奴らなんだろうか。
「大人しく負けた我は引き下がる事にした。元々彼女はエンドランスの事を好きなのは見ててわかったからな。そうして二人は付き合いだし一年後に産まれたのがお前だ、鋼鉄戦士」
真剣な表情になったオッサンの言葉に驚愕する。思わずリーゼロッテの頬を抓り夢じゃないか確かめるが痛そうに怒っているので現実なのだろう。
双方からボコボコ殴られ蹴られるが気にしない。親父と母さんの馴れ初めを知り、少し頬が緩んだような気がした。
「エンドランスは子育てを彼女に任せ、我と共に混沌世界で冒険をしていた。今まで以上に結晶に執着し、我の素材集めも捗り色々と順調だった。ある日の事だ、エンドランスから結晶を人間に付与する方法を教えてくれと頼まれた」
母さんの事はまるで記憶にないが、一度でいいから会ってお礼と共にリーゼロッテを紹介したかったなと思う。
「何故そんな事を聞くのかと問うと『息子を鍛えるためだ』とエンドランスは言っていた。そして我は交渉技師の力を使い、身体に付与出来る加工を行った。しかし付与する方法は加工した結晶を直接身体に叩きこまないと駄目だったがな。お前の父親の虐待はそれが目的だ」
俺への虐待の理由が唐突に明かされる。
ええ……そんな手荒な方法止めてくれよと少し恨んだ。
「お前の身体が鋼鉄になったのはそれが原因だと思う。そして結晶の加工が済んだと同時頃にシアが死んでしまい、悲しみ泣いた。シアの未練を捨てる為に我は結婚をし娘を授かった」
オッサンから母さんの事を告げられ、少なからずショックを受けた。
死んだと親父から聞いてはいたが実は離婚等をしただけで生きているかもしれないと思っていたからだ。
まぁオッサンの未練がましさが一番ショックだが。
「お互いに娘と息子が出来たとき、エンドランスと約束を交わした」
『お互いの子供を最高の交渉技師と守護者に育て上げよう』
「この約束を果たすために我の全てを娘に伝授した。何時しか現れるエンドランスの息子の為にだ。その時から我は混沌世界に潜るのを止め娘と共に過ごすことだけを考えた」
「そうだったんだ……」
事実を知ったリーゼロッテが横で静かに俺の気持ちを代弁してくれていた。
しかし妙な因縁もあるものだ。奇しくも俺たちは親の期待通りパートナーになってしまったのだから。
「それからエンドランスとは大会でしか会っていなかったがアイツは何故かわざと我に負けるようになった。理由は最後まで明かしてはくれなかったがな」
本当に何故親父はわざとそんな事をしたのだろうか。泣く程悔しかったのではなかった筈じゃなかったのか?
「悔しかった我は大会にルール加えた。手加減を禁止し、参加者はお金を自分以外には賭けれないようにして全力で戦わせるように環境を整えようとしたがどれも無駄でアイツはワザと負け続けた」
あ……無駄というかよくわからない大会ルールはこの為にあったのね……
少しだけオッサンに同情したが、自分で賭けたお金の事を思い出し、同情は即座に消え去った。
「数年後、エンドランスは初めて試合に息子を連れてきたが、そこで事件が起きた。お前も知っているアレだ」
「ああ、殺害事件だな……俺はあの時の真実が知りたいんだ」
今でもあまり思い出したくない出来事だが、あの時の真実をオッサンなら知っているのだろうか?
期待を込めた眼差しでオッサンを見つめていると顔を逸らされてしまった。頬はわずかに紅潮していたように見えたのはきっと俺の気のせいだろう。
もしやホモなんじゃなかろうかと思っているとオッサンが口を開く。
「悪いが何も知らないぞ。あの時点でお前達の力は我を凌駕していたからな。どちらが強いのかハッキリ言ってわからなかった」
オッサンの発言に肩を落とす。俺の知らない事実を知っている親父の親友ならあるいはと思っていたが。
しかし、そんな俺の様子を見てシュプラグリスが語り出す。
「だがお前の父親が死んだとは今でも信じられない。何度でも立ち上がる強い男だったからだ。目的を果たすまでは死んでも死に切れないと話をしていたしな」
「目的……?」
親父に目的などあったのだろうか。俺を虐待するのが趣味みたいな雰囲気を醸し出していただけに未だに信じられない。
尚もシュプラグリスは語る。
「ついぞ目的を教えて貰ったことはないがな。もしかしたら親友だと思っていたのは我だけだったのかもしれない」
そんな風に語るオッサンの背中はとても小さく見えた。王者の風格も今では消え去り、哀れみの感情さえ抱く。
リーゼロッテも同じ感想を抱いたのだろうか、視線を地面に落とし俯いていた。
見兼ねた俺は「そうだ、賭け金!」と大声で叫ぶ。
「賭け金?」
親子二人は同時に言葉を発したのを見てさすが親子と思いながら、何とか辛気臭くなった空気を一蹴することに成功する。
俺は懐にしまっておいたチケットをゴソゴソと引っ張りだし、親子の眼前に突き出す。
「ほら俺が優勝した賭け金! 自分の有り金賭けたんだよ!」
「ああ、それの事ね。一体いくら賭けたのよ?」
リーゼロッテが俺の賭けた金額を眼で追っているようだ。
(ククク、俺の全財産を注ぎ込んだ金額に恐れ慄くといい)
意地の悪い表情をしながら見ていると、リーゼロッテの肩がプルプルと震えているのがわかる。
どうやら普通の子供には刺激が強すぎたようだ、悪いなリーゼロッテ。
大人と子供の格の違いを見せつけられショックを受けているリーゼロッテの肩にポンポンポンと手を乗せている時だった。
「アハハハハハハ!」
リーゼロッテの屈託のない笑い声が俺の鼓膜を破る勢いで響き渡る。




