追憶の記憶(1)
「我は二十年以上昔から大会に出場していた。初出場の時は小さき侵略者シュプラグリスなんて呼ばれていたこともあった。もう知っているかもしれないがお前の父親は我の親友だったんだ」
オッサンが過去を語りだし小さき侵略者シュプラグリスなんてネーミングを聞いた瞬間、思わず吹き出しそうになったが親父の事を話しだしたので真面目に聞くことにした。
横には昔話を聞き入っている純真無垢(?)な少女が俺の手を握りしめている。少し痛い。
「お前の父親エンドランスと初めて話を交わしたのは大会だった。我が大会を五連覇した後だっただろうか……今回も優勝して六連覇になるものだと誰もが疑っていなかった。無論我自身もだ」
初めてオッサンの口から親父の名が語られるが何とも不思議な気分だ。親父の名前を語った時のオッサンはまるで恋する乙女のように目をキラキラと輝かせていた。
もしかしてそっちの気があるのだろうか、有り得そうで恐ろしい。余計な事を考えていると話は更に続いていった。
「気付けば我は地面に倒れていた。何をされたのかもわからなかったが真っ青な青空が我の敗北を教えてくれた。六連覇の夢は儚く散り、エンドランスの事を多少恨んだ事もあった」
この話を聞いた時思わず『まさか』と口走ってしまう。親父が優勝してた事を知らなかったからだ。では俺が知っている優勝出来なくて涙を見せていた親父は一体なんだったのだろうか。月日が経ち衰えたのか、それともシュプラグリスが強くなりすぎたのだろうか。
悩んでいるとお構いなしに話は進んでいく。
「しっかり言葉を交わしたのは、我が六連覇を阻止されたその夜の事だ。飲み屋でヤケ酒を飲んでいるときだ」
オッサンの過去の情景と親父が優勝出来なくて泣いていた光景が頭の中にダブり、妙な懐かしさを感じてた。
「『俺は工匠技師を探している。お前の力を貸してくれ』とエンドランスに話しかけられた。お前にも黙っていたが我は工匠技師だ、公式には発表したことがないが知っていたか?」
リーゼロッテにチラリと視線を送り、ゆっくりと頷き返す。
「そうか。エンドランスもお前と同様に何処かから我の噂を聞き出して助力を求めてきた。当然最初は断った、憎い敵だったからだ。しかしエンドランスの話を聞いているうちに我の気は変わった」
一人で生きてきたような親父が誰かに頼る姿はまるで想像もできない。俺が産まれる前の親父と産まれてからの親父に一体なにがあったのだろうか。
「エンドランスは『俺が素材を集めてお前が作る。作って貰う代わりに俺はお前の守護者になる。今まで取りにいけなかった素材も手伝ってやる』と我に告げた。自慢ではないが我は工匠技師としては破格の強さだった事もあり、中堅の工匠技師&守護者が潜れないようなダンジョンも一人で攻略出来ていた。しかしそんな我でも攻略できない場所があった」
オッサンの話を聞いているとどうも親父は交渉上手というか中々饒舌なようで、昔のイメージとは随分と食い違う。しかし親父がオッサンのの守護者?
冗談も程々にしてほしいと思うが真剣な眼差しを見るととても冗談を言っているようには見えない。
「現世とは大きく異なる世界『混沌世界』と我が呼んでいた場所だ。邪悪なる魔物達が蔓延り一人ではとても手に負えなかったが、エンドランスの手助けさえあればと考えたのが事の始まりだ」
――混沌世界
初めて聞く単語に心が踊る。
「そして我はエンドランスの提案を呑み、共に混沌世界で旅をすることになった。我とは違い生粋の冒険者だったエンドランスは事も無げに魔物を屠り、蹂躙していた」
さすが親父だと思わざるを得ない。
「混沌世界で魔物が落とす結晶のみにエンドランスは執着していた。我は結晶を譲り、その他の素材だけを貰い続ける毎日が続き、二ヶ月が過ぎた頃だろうか。一人の女性と出会った」
「そっちの世界にも人間がいるのか?」
そんな劣悪な環境に普通の人間が住めるとは思えないが、思わず口を挟んでしまう。
「そうだ、それまでは誰一人として出会った事は無かったがな。彼女は自分の事を『シア・ソフィーヌ』と名乗り、我達へと歩み寄ってきた。美しく綺麗な髪にツヤのある肌、全てを見通すような凛とした瞳に我は一目惚れをした」
「ブッ!!」
突然の一目惚れ宣言に吹き出してしまう。リーゼロッテが飛沫まみれになってしまい双方から睨まれてしまうが気にしない。
飛沫を拭きとってあげる為に、リーゼロッテのポケットからハンカチを取り出しササっと拭き取る。
リーゼロッテが感謝感激でプルプルと震えているのを確認し、俺は優しいなあと自画自賛をしていると「ブッ殺すぞオラア!」とオッサンから罵声を浴びせられ萎縮する。
「ご、ごめんなリーゼロッテ。許してください」
自分が悪い事は分かりきっていたので素直に謝ることにした。
「はぁ……怒られるのわかってワザとやってるでしょ? アンタって本当にバカよね……」
呆れながらも許してくれたのだろうか、どうやら俺の地位はバカという事で決定しつつあるらしいが事実なので否定はしまい。
オッサンはまだ怒りながら独り事を呟いていたが、娘の様子を見て話を再開する事にしたようだ。




