優勝の賛美
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「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は観客席から飛翔しヒヨコ目掛け走りだしていた。背後にはリーゼロッテが控えており、既に瘴気は会場の大部分を侵食していた。
このまま放っておけば間違いなくリーゼロッテは巻き込まれるだろう。仮の守護者としてそれだけは避けたい。何故ならアイツの事が大切だからだ。
刻一刻と瘴気は肥大化し、それに合わせヒヨコも軌道を修正しつづけている。
チャンスはおそらく一度きり。全身の力を収束させた闘気の塊を右拳に収束させる。普段よりも力が湧いてくる。
守る者がいるから出せる力なのか?と思いながらふと脇腹を見ると貫通された筈の傷口が塞がっており驚愕する。
何故治癒しているのかは分からないが、この状態なら全力を出しても身体は反動に耐えられる。
ヒヨコに接近し全力の一撃を打ち込もうとしたときだった。想定以上の速さで拳がヒヨコに穿たれてしまった。まじかよ。
穿たれた一撃はヒヨコを蒸発させ、閃光を放ち一直線にシュプラグリスの魔具を貫いた。
いや、正確にはシュプラグリスの魔具とオッサンの腹部も貫かれていた。うわあ……痛そうだなと思いながらも瘴気が晴れていくのを確認する。
粉々に砕けた魔具はサラサラと崩れ去り、シュプラグリスの腹部の穴をより一層際立たせていった。
直径十cmほどの傷を負いながらもシュプラグリスは意識も呼吸もしっかりしているようだ。伊達に王者を名乗っていたわけではない。
死なれても困るので急いで手当をする為に駆けつけようとするが手で征されてしまう。
後ろを振り返ると、リーゼロッテが会場に飛び降りこっちに向かっている様子が見えた。オッサンの元に駆け寄るのだろうか。
「お父さん!これ飲んで!」
「ああ、すまん」
瓶に詰められた謎の液体を娘から手渡されるとシュプラグリスは躊躇いも無くグビグビと飲み干した。なんだろうあの液体怖いなあ。
俺とリーゼロッテが固唾を飲んで見守っているとオッサンの傷が瞬く間に修復していき、目が点になった。
一体どういう原理なのだろう、見たところ秘薬なのだろうか。長年生きてきたが見たことも聞いたこともない。
傷が完全に修復するのを待っているとオッサンは立ち上がり、俺の目の前に立ち塞がりこう告げる。
「お前の勝ちだ。娘をよろしく頼んだぞ」
「ああ。って何で知ってるんだよ」
何故か娘との事を知っているオッサンにツッコミを入れる。物凄く恥ずかしい結婚するみたいじゃないか。
「娘からきいたんだから当然だろう」
「アイツ……」
深い溜息を吐く。そしてどうでもいい事のように語っているが、父親として俺なんかに娘を任せるのは心配じゃないのだろうか。
俺が親だったら絶対嫌なんだが。
そうこうしているうちに状況を見ていたアナウンサーが俺の優勝を告げ、トロフィーと副賞を手渡してくる。
副賞は分厚い封筒だったが中身は何となく想像出来る。ぐへへ。
観客の熱い声援を受けながら舞台を降りるが何故かリーゼロッテが腕を組んで一緒に歩いている。
(こんな大勢の前でやめてくれ、恥ずかしいじゃないか)
羞恥心を抑えながら控室に戻る途中、背後からついてきていたシュプラグリスに声を掛けられる。
「十年前の真実を知りたいか……?」
「ああ、一体なにがあるのか教えてくれ」
純粋に気になっていた事なので大人しく教えて貰うことにした。娘に話を聞かれそうだがオッサンに気にする素振りはない。
まあ俺も別段気にしないけどな。
しばらく押し黙っていると重たい口を開いたシュプラグリスは過去を懐かしむように話しだした。




