魔槍の一撃
「ッッ!?」
抉られた部位からは『プシャア!』と鮮血が流れだす。出血量自体は大したことじゃないが、皮膚を抉られたという事実に驚愕する。
自慢ではないが親父にしごかれた以外での出血は今までに経験をしたことがない。僅かながら動揺しているところに二撃目が繰り出される。
キラッと光り輝く刺突の軌跡を確認することは出来ず、反射的に避けつつシュプラグリスから距離をあけ、視線を向ける。
「んん!?」
驚いた俺の視線の先には巨大な槍を持ったシュプラグリスが立っていた。ゆうに五メートルを超えてそうな大槍。
槍の穂先に注視すると鋭く研磨されているであろう刃に血が滴っているのを確認できた。俺の皮膚を貫いたのはこの槍なのだろうか、それならばある程度は納得できる。
いやいやいや、王者が武器使うとかあり得なくね? なんて事を思ってしまうのは俺だけなのだろうか。いや違うと信じたい。
(確かに武器を使っちゃ駄目なんてルールねえけど……卑怯じゃね……?)
しかも武器を使っておきながらも堂々と仁王立ちしている。さも当たり前だとでも言わんばかりに。しかし普通の槍でここまで身体を傷付けることは出来るのだろうか。
そう思っていたが一つの事実と符合した。リーゼロッテが話していた工匠技師……!
つまりあの武器はシュプラグリスが錬成した可能性が高いということだろう。自身で鍛えた武具を持ってくるとは恐るべし。
(あの武器に触れるのは不味いな……どうしたものか)
近付き過ぎても槍の餌食になるし、至近距離で攻撃を食らわしてもダメージが無い。まさに八方塞がり。
しかもあの武器どっから取り出したんだ? 異空間から取り出したのだろうか? 考えてもサッパリわからない。
こういう時に外界の知識に疎いと困る……親父には戦闘関連しか教えて貰えなかったからなあ。
シュプラグリスを注視するように対抗策を考えていると、肩にわずかな裂傷を見つける。
その傷は何時からあったのだろうか? 記憶にはないが皮膚が抉られたときにカウンターで繰り出した一撃が通用していたのか……と思案しているとシュプラグリスが地面を踏み込んだのを視認する。
直後に槍の間合いに捕らえられ穿たれる。瞬身移動を乗せた神速の一撃。地面を蹴りだしてからコンマ一秒にも満たぬ静止の世界。
『ブッシャア!!』
身体を貫いたシュプラグリスの槍は鮮血を会場に撒き散らす。出血の余りグラリと片膝を突く俺と同時に『ドゴゴゴーンッ!』という衝突音と地割れが会場に起こる。
槍は俺の身体に突き刺されたまま、持ち主だけを行方不明にさせていた。
会場の観客はざわつき事の顛末を気にしているが、当然ながら何が起こったのか気付けた観客は誰もいないだろう。相対していた俺達を除いては。
左手で槍を握りしめながらその場に立ち上がる。溢れだす血液を他人事のように眺めながら突き刺さったままの槍を引き抜く。また奪われて使われたら厄介なので柄の部分を先端で折り、刃だけを懐のポケットに回収しておくことにする。
「いててっててええ!」
当然ながらもの凄く痛いし、血が流れ続けている。このままじゃあ失血死しかねないと呑気に思いながらも腰を丸め左脇腹の風穴を覗き込む。
ジーっと覗き込んでいるとリーゼロッテらしき人物と目があった。心なしか目が潤んでいるように思える。その後怒ったような複雑な表情になり、腕を上下に振り始めた。
一体なんのジェスチャーなんだと思いながらも覗き込むのをやめ、後ろを振り返りガッツポーズをすると数秒後、少し恥ずかしそうな素振りをしながらもガッツポーズを返してきた。
「なんだかんだでアイツも心配してくれてたのかね」
そんな風に感じながら脇腹をさする。まさかこの大会で身体を貫通する事態になるなんて思いもしなかった。
怪我を負わずに倒そうかとも思ったが流石に虫が良すぎたようだ。しかし身体を犠牲にしたお陰で驚異的だった槍を奪うことが出来たのだからそれで良しとしよう。
シュプラグリスを吹き飛ばした方向に視線を向けると未だに砂埃が舞い、ガラガラと岩が崩れ落ちていた。
俺の読み通り攻撃の瞬間は異空間バリアを張ることが出来なかったようで、強烈な一撃を腹部へと叩きこみはしたが、さすがにアレで気絶するとも死亡するとも思えないんだがな。
と思っていた矢先に砂埃の奥に人影が見えた。フラフラと歩いている様は王者とは言い難く奴隷のように見えた。が、その瞳にはまだ闘志が宿っている。




