出会いと始まりの物語
鋼鉄戦士と工匠技師
俺の名前はランスロット。
そこらにいる普通の青年だ。イケメンだけどな。
いま、俺の足元には無数の魔物が転がり砕け散っている。イケメンの俺と比べて雲泥のブサイク具合だ。
ついでに1人の少女も倒れているが、コイツはどうでもいいか。
そして俺の目の前に仁王立ちしているこいつは間違いなくレジェンド級の魔物だろう。先程の雑魚とは大違いな体躯。
睨まれているだけで心の臓が震えてくる。しかしコイツを倒さねば俺が殺される。
最低でもこの少女だけは助けたいところだが……。
どうしてこんな事になっているのかって気になるだろ?
突然だが俺もかなり戸惑っている。一体どこから話せばいいかわからないので簡単に振り返ってみることにしよう。
~遡ること2日前~
ここは全世界、覇者頂上決戦の会場だ。
ここに来るのは10年ぶりぐらいだろうか、あまり変わってはいない。
前回、俺が試合に出たときから俺の身体は見違えるように変わった気がする……主に肉体が。
一回戦で相手を死傷させて以来、俺は各メディアに追われ続けては逃げる日々を繰り返していた。
しかしそれも今日でおしまいだ!
何故なら俺は今日、この場所で前の名前を捨て鋼鉄戦士として生まれ変わるからだ!
苦節10年、骨格や体格、見た目に性格をコツコツ、コソコソ改造しつづけ今では誰も俺が人を殺してしまった、マスクザ渡辺と気付かないだろう……。
いよいよこのマスクともお別れのときだ……。
この10年間苦楽を共にしてきたマスクだが、今日この瞬間、俺はマスクを脱ぎ捨てる!
俺にとってマスクとは命そのものだ、脱ぎ捨てるのは口惜しい……。
というわけで最後にこのマスクの臭いを嗅ぐことにした。
「くっ、少し臭う!だがそれがいい!」
強がりをしつつ、試合のエントリーをするために受付へと進む。
「すみません、今日の試合にエントリーしたいのですが」
「はい、わかりました。お時間ありませんので名前だけ教えていただいてよろしいですか?」
っ、危ない危ない。危うく締切に間に合わないところだったみたいだ。
呼吸を整えて、自分の名前を語り出す。
「えと、マスクザ……いえ鋼鉄戦士でお願いします」
つい昔の名前を出してしまうところだった、こんなところで名前を騙ろうものなら、たちまち警察に捕まってしまう。
有名人は辛いなあ……。
「鋼鉄戦士さんですね。確かに承りました。ではトーナメントが始まりますので控室にて待機していてください」
「はい、ルールとかは10年前からとくに変わっていませんか?」
ま、俺にはルールがあろうがなかろうが関係ない、ただ相手を倒すだけだ。
「えと、ルールがそこの板に載ってますので各自で確認してください」
「わかりました、ありがとう!」
ふぅん、どれどれ。すかさず俺はルールを確認するために板に近づく。
~覇者頂上決戦トーナメントルール~
・相手を全力で倒すべし手加減をしたものは極刑
・相手を死に至らしめたもの、理由問わず永久追放
・賭け金を自分以外に賭けるのを禁ず(小文字)
「前回とあんまり変わってねえなー」
そんな事をぼんやりと呟いていたが、永久追放という文字をみてゾッとする。
俺が相手を殺してしまったときは、こんな項目なかった筈だが……。
(まあ、あの時にはこんなルール無かったし出ても問題ないか)
勝手に納得して、チケット売場に歩を進める。
覇者頂上決戦では誰が優勝をするのかで賭けをする事ができるんだが、困ったことに出場選手は自分以外に賭ける事は出来ないルールになっている。
「これも全力で戦わす為の措置なんだろうな……」
自分以外には賭けれないので、俺は鋼鉄戦士のチケットを有り金全部はたいて買うことにした。
俺の倍率をみると現段階で200倍以上のようだ。
数値は最終締切まで変動するのであまり気にしても意味ないんだがな。
「これ俺が優勝したらドエライ金額になるんだが会場側払い戻し出来るんかね……」
こんな事を他人に聞かれたら笑われそうだなと思い、苦笑いをする。
「買うものも買ったし、控室にて待機するかね……」
そう呟き控室に向かうため、歩を進めていると少女とぶつかった。
「いて!」
「あいたたたあっ」
普段ぶつかっても痛みをほぼ感じないのにおかしいなと思い、下をみると少女の拳が俺の股間に突き刺されていた……。
突き刺さっているというより、拳がのめり込んでいた。
そんな事を冷静に考えていたが、ふと我に帰ると、
「きゃああああああああああ!へんたいいいい!」
「いってえええええ!」
トーナメント控室手前にて、二人の大音響が入り交じる。
いや、本当股間への攻撃は死ぬほど痛いわ……。
「あんた!何で私の指を股間に突っ込ませてんのよ!変態」
痛みで茫然自失していると謂れのない誹謗中傷をされている気がした。
「は、はあ!?好き好んでこんな痛い思いするわけねーだろ!ドMか!」
痛みでろくに動けないが言葉を振り絞り反論することにした。
「私のせいだっていうの!?あんた最低!」
「こっちのセリフだ、ぼけなす!」
明らかに被害者は俺の筈なのに、なんでこんな理不尽な事を言われにゃならんのだろう。
世の中は不思議だ。女尊男卑の世界反対。
「痴漢しといて許せない、あんたトーナメント参加者でしょ?お父さんに突き出してやる!」
「いやいや、参加者だが物騒だな、おい」
そして何故か痴漢扱いされた挙句、父親に突き出されそうになるとはワケワカメ。
「私のお父さん、この大会の連続防衛チャンピオンだから慄えてなさい」
いきなりお父さん自慢をされたものだから、俺も挑発的に言葉を返しておく。
「ははーん、じゃあ今この場で突き出さなくても決勝戦で戦えるじゃねーか」
「あんた、お父さんと決勝戦で戦えるつもり?バカなの?」
そして俺が煽り返されていた。が、相手をするのもそろそろ疲れたので適当に受け流すか。
「決勝戦で戦えるかどうかは知らないが、トーナメントなんだから運が良ければ初戦で当たるだろ」
「……それもそうね、じゃあアンタが無様に負ける様を観戦させてもらうわよ」
相手も俺と相手をするのが疲れたか、俺の意図を察したのか話を切り止めようとしていた。
んじゃあ疲れたので控室に入るかな。
「んじゃあ、俺はもう控室に行くわ、じゃあな」
俺が去ろうとコイツの横を通り過ぎた直後、後ろから声をかけられる。
「待ちなさい、アンタの名前は?」
「マスクザ……鋼鉄戦士だ」
危ない、また名前を間違えそうだった。
「……ふぅん、マスクザ鋼鉄戦士ね……」
「いや!マスクザはいい間違えただけだ!」
少し驚き慌てて訂正する。俺が悪いわけだが、この女なかなか酷い勘違いをする。
「……まあいいわ私の名前はリーゼロッテ!覚えておきなさい」
「……気が向いたらな」
俺は一言だけ返事をし、歩を進めそのまま部屋へ入室した。
「あの男たしかにマスクザって名乗ったけど……まさかねぇ……顔はちょっとカッコ良かったけど……」
「別にあんな男カッコイイなんて思ってないんだから!はっ!急いで観客席に戻らなきゃ!」
お父さんの試合を見逃さないためにも私は急いで特等席に戻ることにした。