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ジャンク・ヤード  作者: ヒルナギ


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36/39

ドロップ

夜が、降りてこようとしている。

ゆらゆらと、ゆらめくように。

天頂付近に固まる深い藍色をした闇が、落ちてこようとしていた。

その闇は、空の中でぶらぶらと震えながら。

真紅に燃え上がる西の空と、暗い闇に閉ざされた東の空の中間で。

深い藍の空は、ふらふらと揺れて落ちてくる。


おれは、それをビルの屋上で大の字になって、眺めていた。

西のほうには高層ビルが、立ち上がった闇のように暗い影となって、聳えている。

そのビルが落とす影が、黒い河のように地上を這い回った。

そして、その漆黒の墓標みたいな高層ビルの向こうに、真紅に燃える太陽が沈んでいく。

おれには、その聳える高層ビルがなぜか牢獄の鉄格子のように、感じられた。

おれは、燃え盛る夕日を受け地上に落ちる影に、閉じ込められている。

夕日は、血を流す心臓のように脈打っているが、高層ビルの影に隠れており見ることができない。

その赤い夕日に呼応するように、おれの腹でも炎が渦巻いていた。

おれは、そっとその痛みの炎に手を添えてみる。

そして、その手を目の前にかざした。

それは、西の空で燃え上がる太陽よりも、赤く染まっている。

おれの腹からは、血が流れだしていた。

牢獄の鉄格子のように、地上を閉ざすビルの影の間を、おれの腹から流れる血が赤い河のように屋上を染めている。

おれのおんなが、おれの腹を9ミリパラベラムで撃ち抜いたせいだ。

ベレッタを構えたおんなは、悲しそうな顔をしておれにこう言った。

(さようなら)

嘘を吐くのが、好きなおんなだった。

嘘をついているときは、いつも機嫌がいい。

けれど、本当のことを語ることは、必ず悲しそうにする。

だからとても、嘘を見抜きやすかったが。

上機嫌なおんなを嘘つき呼ばわりする趣味は、おれにはなかったのでいつも放置していた。

けれど、ベレッタを構えたおんなはとても悲しそうだった。

だから、その別れの言葉は本当なのだ。

その「本当」がおれの腹をぶちぬき、苦痛の花を咲かせている。

西の空に沈みゆくあの太陽のように、真っ赤な花がおれの腹に咲いていた。

命が流れ出していくのが、判る。

ああ、もうすぐおれの命は、溶けきってしまう。

そう、なめつくした、ドロップみたいに。

おれの命は、溶けきっていく。


空の中心は、深い藍色に染まっている。

それは、ゆらゆらと、揺らめきながら落ちてきて、地上に夜をもたらす。

黒よりも深く死に近い藍が、ぶらぶらと震えながら。

おれの命に、夜をもたらす。

夜が、降りてくる。


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