イメチェン
授業終了のチャイムが鳴ると同時にオレはティッシュで涙を拭いていた・・・。
伊藤「は?てゆーかアンタ泣いてんの?」
伊藤が興味深そうに隣から覗き込んでくる。
オレ「いや、泣いてねーよ!目にゴミが入ったんだよ・・・。」
伊藤「あははっ!ウケる!てゆーか、なんで泣いてんの?」
オレ「いや、だから泣いてねーって!」
完全に鼻声で泣いてたのがまるわかりの状況にも関わらず、オレは断固として否定した。これが男のプライドという奴だろうか。
伊藤「ふーん。まあ別に言いけどさ、アンタさっき一条くんから何渡されたの?」
オレ「・・・雑誌。」
伊藤「見せて。」
オレ「やだ。」
伊藤「いいから早く。」
オレ「はい・・・。」
伊藤はギャル女子高生のグループの中でもボスクラスだから下手に逆らうと後が恐ろしい。敵に回したらクラスの女子全員を敵に回すことになるかもしれない・・・。
オレは伊藤に一条くんから借りた雑誌「月刊イケてるうつのみや」を机に出した。
伊藤「ふーん・・・。」
伊藤は興味深そうにパラパラと雑誌のページをめくっている。
オレ「あのー・・・もういいでしょうか?」
伊藤「うん!いいよー。」
オレ「・・・・。」
オレは伊藤から雑誌を受け取り、一条くんから借りた雑誌「月刊イケてるうつのみや」を机の中に戻した。
伊藤「さっき授業中、アンタにやにやしながらその雑誌みてたっしょ?エロ本か何かかと思ったわ!笑」
オレ「いや、そんな本読まねーし、持ってないし。」
伊藤「てか、一条くんはそういうの読まなそうだよねー。」
オレ「ああ・・・そうだね。」
伊藤「愛川は何でそんな本読んでんの?」
オレ「え?いや、別に・・・。」
伊藤「一条くんに貸して貰ったんでしょ?」
オレ「・・・そうだけど。」
伊藤「まさかイケメンになりたいとか?笑」
オレ「ち、ちげーし、ただイメチェンしよっかなーとか思ったから読んだだけだし!」
伊藤「どんな風にイメチェンするの?」
オレ「・・・・・。」
おいおい・・・ちょっと待てよ!なんなんだコイツ!なんでこんなにいきなりグイグイ質問してくんだよ!もしかしてオレの事好きなんじゃないだろうな?
いや、確かにボスギャルクラスだけど細くて綺麗で可愛いよ!確かに可愛いけども!てゆーか、女子とこんなに喋ったの初めてだし、ちょっと待ってくれよ!
オレ「・・・え?どんな風にって?」
伊藤「ん、何系にするん?」
オレ「・・・・・。」
おいおい!何系ってなんだよ!ラーメンか?ラーメンなら豚骨ベースの家系が好きだが・・・。
そもそもイメチェンとは言ってみたものの何をどうしたら良いのか自分でも分からねーよ・・・。どうする!?オレ!
オレ「あー・・・それ考えるから参考にする為に一条くんから雑誌借りたんだわ。」
伊藤「ふーん。」
よっしゃ!乗り切った!我ながら完璧な受け答え!華麗にスルーしたぜ!
オレ「じゃあそういう事で・・・。」
伊藤「てゆーかさ、アンタ結構一条くんと仲良いよね。」
オレ「え?ああ・・・まあね。中学同じだったから。」
伊藤「一条くんてさー、今付き合ってる彼女とかいんの?」
オレ「いや、多分居ないんじゃね?」
伊藤「ふーん。そっかあ・・・。」
オレ「どうして?本人に聞いてきてあげる?」
伊藤「わ!バカやめろ!そういうのマジいらないから!///」
伊藤が顔を真っ赤にしてテンパっている。人がせっかく親切に聞いてきてあげようと思ったのに一体なんなんだこいつは?
オレ「え?どうして?」
伊藤「もう、そういうのいいから!一条くんから借りた雑誌読んでなよ!///」
オレ「あ、はい。」
なんだかよくわからんが、伊藤の事はそのまま放っておいてオレは一条くんから借りた雑誌「月刊イケてるうつのみや」をもう一度最初から読み直す事にした。
学校の授業よりも今は自分にとって大切な事を学ぶべきだ。オレは読んでて死にたくなるようなレベルの雑誌を隅々まで目を通した。
そう、全てはイケメンになる為に、モテる男子になる為に、可愛い彼女を作る為に・・・。
気が付けば一日の授業も終わり、放課後になって居た。
・・・夕焼けが眩しい。
窓から外を見ると一生懸命男子や女子が部活に励んでいる。まさに青春だね。ちなみにオレは何処の部活にも入部しなかった。団体で活動するよりもソロで帰宅する方がオレには似合っている。
もしも仮に、恋愛部という部活があったら入部していた事だろう。
ていうかそういう部活があったら面白いのに・・・。
そんな事を考えていると気持ちが清々しかった。
一条くんに借りた雑誌を読破したオレはモテる男になった気がした。
今まで知らなかった事が知識としてオレの中に吸収された瞬間でもあった。
一条「おーい!まこっちゃん!」
振り返ると一条くんがイケメンスマイルで廊下から顔を覗かせて居た。
オレ「あ、一条くん!」
一条「どうした?一緒に帰ろうぜ!」
オレ「うん!」
オレはカバンを背負って一条くんの元に歩き始めた。急いで自転車置き場でママチャリにまたがり、一条くんと一緒に帰った。
その帰り道・・・。
オレ「一条くん、今日貸してくれた雑誌ありがとう!すごく勉強になったよ!」
一条「それはよかった!まこっちゃんイメチェンすれば絶対彼女できるって!」
オレ「でも、イメチェンて結構お金掛かるよね・・・。」
一条「お金をあんまり掛けなくてもイメチェン出来るよ!」
オレ「え?マジで?」
一条「服とかはお金掛かるけど最初は眉毛と髪型変えるだけでも雰囲気変えられるよー。どうせ制服着るんだし、服よりまずは髪型と眉毛変えた方が良いよ。」
オレ「髪型と眉毛か・・・でもどうすればいいの?」
一条「美容室でやってくれるよー。分からなければこんな風にして下さいって雑誌見せたり、ネットで髪型の画像見せたり。」
オレ「床屋じゃなくて美容室?美容室って女の子が行くお店じゃないの?」
一条「美容室って聞くと何となくそんなイメージだけど男も普通に美容室行ってるよ。オレも美容室行ってるし。」
オレ「えー!そうだったのか!一条くんも美容室行ってたんだ!」
以外だった・・・。
男は床屋、女は美容室というオレのイメージが崩壊した瞬間でもあった。てか美容室ってどんな場所なんだろうか?やはり綺麗なお姉さんがいっぱい居て囲まれてしまうんだろうか?
いや、待てよ?聞いたことがある。
確か美容室は女の人が働いている・・・。もしかしたらそこから新しい出会いが起こるかもしれない・・・。
女性店員「いらっしゃいませ!今日はどうなさいますか?」
オレ「あなたの好みにして下さい」
女性店員「かしこまりました。私の好みですね?」
オレ「ああ・・・頼む。」
・・・30分後。
女性店員「お待たせしました!いかがでしょうか?」
オレ「どうかな?」
女性店員「ドキッ///とても良くお似合いだと思います!」
オレ「本当に?」
女性店員「は、はい・・・すごくかっこいいです///」
オレ「ありがとう」
女性店員「あ、あのー・・・///」
オレ「ん?」
女性店員「好きです///」
オレ「え?」
女性店員「あ、あたしと付き合ってください///」
オレ「いいとも」
なんて事に!なんて事に!いや、あるかもしれない!あるかもしれないっしょ!可能性はあるかもしれないっしょ!これ美容室に行くしかないっしょ!!うっひょおおおお!!
一条「まこっちゃん」
オレ「うお!!!」
一条「・・・大丈夫?まこっちゃん?」
オレ「大丈夫!全然大丈夫!オレマジで大丈夫だから!」
・・・驚いた。
急に現実に戻ったオレは一瞬自分が死んだかと思った。
一条「もし美容室行くならオレが行ってるお店紹介しようか?」
オレ「先生、是非お願いします!」
こうしてオレは人生初の美容室に行く事になった。全てはイケメンになる為に・・・全てはモテる男になる為に・・・。
この試練を乗り越えればきっとオレは生まれ変わってイメチェンしてかわいい彼女が出来る!ラブレターが下駄箱から溢れ出してくる!そう思っていた。
そう、あの悲劇の美容室に行くまでは・・・。
夕焼けは美しく、そして燃えるような真っ赤な太陽がオレの進むべき道を真っ赤に照らし出していた・・・。
まるでこれから起こる悲劇を暗示しているかのように・・・。