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まるでホテルのような、広くて綺麗なキッチン。しかし
「・・・・・・」
そんなキッチンに入るとシェフらしき人が、酒瓶を持ってシンクの中で寝ていた
「グァー・・・グァー・・・」
変ないびき・・・
ってか、何故シンク?
せめて台の上とか、床とか・・・いや、それもダメよね
「だれ?」
呆然とみていると、横から声を掛けられた
声のする方をみるが、見当たらない
「どこを見ているの?上よ、うーえ」
うえ?
言われたとおり、上を見上げると
調味料の並ぶ棚と天井の間に女の子が寝そべっていた
「なっ」
「あんた、だれ?」
繰り返し女の子は言う
「わ、私はロザリー・クラウンです。今日からここで」
「ああ、あんたが」
言い切る前にふぅんと、上から下まで見られる
いったい何回目だろう・・・こうして見られるのは
私も女の子を見つめる
赤い髪のツインテール。見た目は、私より年下に見える
前髪をキリッとしたつり目と眉毛か見える位置で切りそろえている
女の子の服装を見れば、メイド服だった
メイドさんが着る服を着ているってことは・・・この子も使用人ね
「・・・あの・・・マイクさんにここに来るよう言われたんです」
「そう言えばそうだった。あたしはリリアンあんたと同じメイド。そこで寝ている酔っぱらいは、シェフのジェン。よろしく」
リリアンさんは、名乗り終わるとひょいっと棚から降りてきた
なんて身軽な・・・まるで猫みたい
正面に向かい合うと、私より背が低くてより幼くみえる
「明日、朝5時に起床。5時半には仕事開始だかんね。わかった?」
「あ、はいっ」
5時に起床?早すぎる・・・
厨房の時計を見れば、もう夜中の11時だ
「あんたの仕事は・・・」
またジロジロと私を見ながら、何やら楽しそうにみてくる
「玄関掃除して、大広間の床磨いて、皿洗い、洗濯。それから・・・」
「リリアン」
凛とした声がキッチンに響いた
振り向くと、利発そうな女性が腕を組んで立っていた
「それはあなたの仕事よ。新人への指示は私がします。あなたはさっさと部屋に戻りなさい」
「は〜い」
女性にそう言われると、リリアンさんは拗ねながらもキッチンを出て行った
「あなたがロザリーね?」
「は、はい!」
キッと睨むように見られ、思わず恐縮してしまった
「メイド長のベルーナです。よろしく」
「ロザリー・クラウンです!よろしくお願いします」
この人がメイド長か・・・厳しそうな人
「では、ロザリー。さっきリリアンが言っていたように、明日は5時に起床。その時にそこの飲んだくれがまだ寝ているようなら、まずは叩き起こしておいて。それから、リリアンには気を付けなさい。以上」
「わかりました・・・」
そして、ベルーナさんもいなくなった
私も部屋に戻ろう・・・
もうクタクタだわ
これから、この屋敷で住み込みで働く
逃げ出したい気持ちを抑えて、家族の為に頑張らないといけない
キッチンから部屋への足取りはふらふらだった
疲れた・・・
埃っぽい部屋のベッドに倒れこむ
私は出来るだけ何も考えないようにしながら、不安を押し殺すように、私は眠りについた




