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男性に連れて行かれた先は、ロンドン郊外にある膨大なお屋敷だった
今までに見たことのないような、とてつもなく広い庭
綺麗に手入れされた薔薇、豪華な噴水
きっと・・・このお屋敷のご主人はとんでもなく上流階級の貴族なんだろうな・・・
そんなところで、これから私は働くんだ
私を案内してくれた男性は、マイクと名乗ってくれた
「まずは、君の部屋に案内しよう。それから、屋敷のルールを説明する」
「はい」
マイクさんの後に付いていきながら、屋敷の中を見渡す
壁には高級な絵画。いたる所に骨董品。そして、花瓶に生けられた薔薇
庭にも薔薇が咲き誇っていたし、ここのご主人は薔薇好きみたいね
「まず、庭の薔薇には絶対に触らないこと。優秀な庭師がいるからな。君はメイドだから、掃除だけを毎日してもらう。それから、三階の一番奥の部屋。北側の部屋には絶対に近づかないこと。それから、こちらから指示を出すまで屋敷から出てはならない。手紙を送ることも許さない。外界とは完全に遮断する。以上だ」
一度にそんなに言われても、早すぎる
それよりも・・・
「ち、ちょっと待って下さい!」
「なんだ?」
「外界と遮断って!?家族に手紙を出してはいけないの?」
「ダメに決まってんだろ?ここはローズファミリーの屋敷だぞ。君の性格や内情が分かるまで、信用できない。もし、ここの情報を漏らされたら厄介だからな」
マイクさんは足を止め、睨みつけながらそう言った
物凄い威圧感
「ローズ・・・ファミリー?」
よくわからない名前だ。薔薇?
しかも、なんだかマフィアみたいな名前
「はっ?」
何言ってんだこいつって顔をされた。あからさまに
え、ちょっとバカにされた?
「っ、ここでは有名な名前かもしれませんが・・・私は遠い街からきたんです。知らなくて当然よ!」
「強気だな。まぁ、ここで働くならそれくらいの根性がないとな。ここは、ローズファミリーの屋敷。ロンドンでは名の知れたマフィアだ」
「え・・・なっ、マフィ・・・ア・・・?」
「そんなことも知らされていないとはな。哀れな・・・あのぺてん師に騙されたか?しかし、クラウンの姓を持つ娘が・・・まぁいい」
なんだか、色々引っかかる
ぺてん師とかクラウンの姓がどうとか
私の今の状況・・・たくさんの謎が隠されているみたいじゃない
でも、今の言い回しだと、この人は何か知っている
ここに居れば、父さんを襲った犯人が分かるかもしれない
しかしマイクさんの言葉は、私を精神的に追い詰めるものばかりだ
でも、家族のために耐えるしかない
「さぁ、ここがお前の部屋だ」
まず案内されたのは屋敷の地下室。その地下室の端にある部屋だった
中は、古いベットと書き物机のみがある狭い部屋だった
今まで、セミダブルのふかふかなベットを使っていた身としては、かなりのギャップだ
使用人だから仕方ないんだけど・・・
「仕事着はそこのクローゼットに入っている。サイズが合わなければいってくれ。君は・・・一人部屋だな。普通は相部屋なんだがな。この地下室にある部屋、この隣に並ぶ部屋だが、そこは全て使用人部屋だ。執事が一人、メイドが君の他に三人、コックに庭師がいる。執事はこことは違う階だが、困ったことがあればそいつ等を訪ねるといい」
ちょ、だからなんでこの人説明するときこんなに早口なの?
一気に話すからついていけないんだけど!
「荷物を置いて少し休んだら、さっそくキッチンまでくるように。そこでまた説明をする」
「はい・・・」
マイクさんは、そう言うと部屋を出て行ってしまった
「はぁ・・・」
もう夜中なのに、まだなにかあるのね
説明説明って・・・
とりあえず、ちょっと休憩してからキッチンに行こう
ドサっと荷物を置いただけで埃が舞う床
そんな部屋ってだけでも嫌気がさすのに
・・・キッチンってどこよ
大事な説明が抜けている・・・
「・・・・はぁ」
私は大きなため息をつき、部屋の外へと出た




