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ローズカンパニー  作者: 夜月
第一幕
4/21

4

弁護士さんが帰ってから、私たちは四人で父さんの病院に向かった

包帯をあちこちに巻かれていたし、顔にもガーゼが貼られてとても痛々しかったが、ぐっすりと眠っているようだった

そんな父さんに、ユイナはしがみつき離れようとしなかった

「お嬢様たち、ユイナお嬢様はわたくしが側にいます。少し、散歩でもされてきてはいかがですか?」

そうソフィさんに言われ、私と姉さんは病院の庭を散歩することにした

暖かい日差しに優しい風が吹いている

話したい事があるのに、二人とも無言で並んで歩く

病院の裏側に入ると、ベンチが置いてある場所に出た

数人入院患者らしき人がいる

ここは、患者の憩いの場のようだ

「姉さん、座らない?疲れちゃった」

木の陰に置いてあるベンチに姉さんを誘う

こうして二人でゆっくり過ごせるのも、今日と明日だけ・・・

ベンチに腰掛け、私はゆっくりと口を開いた

「姉さん・・・心配しなくてもいいのよ?私、きっと元気にやっていけるわ」

「ロザリー・・・・ごめんなさいっご、ごめんなさい・・・」

「姉さん」

私に縋り付きながら、泣き出す姉さん

こんなに取り乱した姉さんを見るのは、はじめてだ

「私が、本当なら・・・私がっ」

「何を言っているの?弁護士さんも言ってたように、姉さんはユイナと父さんの世話があるじゃない。私が行かなきゃ・・・そうでしょ?」

「違う・・・ごめんなさいっロザリー・・・」

違う?

「ロザリー・・・辛くなったら、逃げ出してもいいのよ?私も、働く。みんなを養えるように・・・あなたがまた勉強出来るように」

「それは・・・難しいわ」

四人養って、借金返済に入院費・・・

厳しい。私が出稼ぎに行くしかない

「姉さん。私、きっと無事に帰ってくるわ。だから、心配しないで?ユイナ達をお願いね・・・それに、手紙も書くわ。ね?」

泣きじゃくる姉さんを慰めるように言う

そう、手紙がある

それに、借金が完済出来れば帰れるのだ

それから、姉さんが落ち着くまでしばらくベンチで休むことにした

咲き始めて色とりどりの花が、とても美しく揺れていた


次の日

とても慌ただしかった

業者がやって来て、家具の差し押さえをされた

売れる物は、全て持っていくらしく、広く豪華な屋敷が、無駄に広いだけの虚しい屋敷になっていく

「ぜんぶなくなっちゃうの?」

「仕方が無いのよ・・・ユイナ。さみしいけど、我慢してね」

高価な絵画、骨董品、銀食器、豪華なドレス

次々と持っていかれてしまう

「あっ、そのドレスは・・・」

玄関でその様子を見守っていたときだ

淡いピンクの、清楚なドレス

亡くなった母のお気に入りのドレスが、外に運び出されようとしていた

それだけではない

姉さんとお揃いで仕立てたイースターの衣装

お気に入りの小説

思い出の詰まった物、全て持っていかれてしまう

胸が押しつぶされそうだ


「差し押さえれるものは、ほぼ屋敷から出しました。残りの家具は明日。・・・それから、あなたです」

弁護士さんは冷たくそう言った

今日、資料をみながら業者に指示する姿も、とても冷たかった

「あなたの奉公先も明日確定するでしょう。荷物は、最低限に収めること。早朝に迎えに来ます。それでは」

そう言って、弁護士さんは帰った

明日、私はこの屋敷を去る

殆どの家具や物がなくなってしまい、がらんとした無駄に広いだけの屋敷

この屋敷だけでも残せただけ、まだ良かった

家族の住む家

私の帰る家はある

それから、私は部屋に戻り荷造りをした


四人揃っての夕食は、これが最後

だからだろうか。私の好きなものばかりが並んでいる

テーブルも椅子も持っていかれてしまったから、床に座るしかない。でも楽しかった

「今夜はとっても豪華ね!ねぇ、ユイナ?」

「うん!」

私はなるべく明るく振舞った

みんなを、不安にさせないように




夕食のあと、寝支度をしていた時

コンコン

「はい?」

「おねぇちゃん」

枕を抱えたユイナと、姉さんが私の部屋にやってきた

「よかったら、一緒に眠らない?」

「・・・うん!」

私のベットはそれなりに広いが、やはり三人ともなれば窮屈

なので、ぴったりと寄り添った

他愛ない話をし、姉さんに優しく頭を撫でてもらいながら、私は眠りについた

今、この時に幸せを噛み締めながら

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