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ローズカンパニー  作者: 夜月
第一幕
3/21

3

「お嬢様方、大事なお話がございます」

朝食も終わり、リビングに落ち着いてからソフィさんが切り出した

「旦那様は、まだ意識の無い状態ですが、ご無事です。しかし・・・旦那様の会社から多額のお金が盗まれました。ハウゼンさんも、行方不明に・・・」

お金が盗まれました?

ハウゼンさんが行方不明・・・?

「それって・・・」

ハウゼンさんが、持ち逃げしたってこと?

それとも、襲ってきた犯人に・・・

「他の従業員は、怪我はしましたが死人は出ておりません。ただ・・・」

とても言いづらそうだ

でも、予想はつく

「お金が無くなってしまったので、もう雇うことができません。これからの生活も、厳しいでしょう」

「そんな・・・」

「これから、弁護士の方がいらっしゃいます。詳しくは、その時に・・・」

お金が無くなった

我が家にも、金庫にいくらかはあるだろう

しかし、四人生活するだけで精一杯

お父様も、いつ回復するか分からない

入院費だってかかる

それに、会社はどうなるのだろうか?

「ねぇ、姉さん。父さんの会社はどうなるの?父さんの仕事は・・・」

先日投げかけたが、答えの返ってこなかった質問を、もう一度姉さんに聞いた

「・・・宝石商よ・・・だだ・・・」

宝石商?

それだけ?

最後、何か言いかけていたがよく聞こえなかった

「ねぇ・・・」

「そろそろ弁護士の方がくる時間ですね。迎えに行ってきます」

話を途絶えさせるように、ソフィさんは言って部屋を出た

私には言えないのね

ただの宝石商では無いと言うの?

「おとうさんにはあえないの?」

ふと、おとなしく座っていたユイナが言った

「弁護士さんとのお話が終わったら、みんなで病院に行きましょうね」

ふわりとユイナに笑いかける姉さん

そんな姉さんを、私は疑惑の目を向ける

何を隠しているの?

父さんが襲われた事と関係があるんじゃないの?

疑問は絶えない。でも、姉さんはきっと教えてくれない

ガチャ

悶々としていると、ソフィさんが弁護士さんと戻ってきた

弁護士さんは、すらっとしたまだ若い男性だった

メガネをかけた、冷たい目が印象的などこか人を寄せ付けない雰囲気のある人だ

ソフィさんは、弁護士さんを私たちの向かいのソファに案内した

あらかじめ用意していた紅茶を差し出す

「さっそくですが、本題に入らせていただきます。時間も惜しいので」

親指と中指でメガネのサイドをクッと上げ、直ぐに仕事にとりかかる

真面目で、無駄な事が嫌いなのだろう


弁護士さんの話は、こうだ

昨夜、強盗に襲われた父さん

会社で保管していたお金だけでなく、宝石類も全て奪われたらしい

父さんと一緒にいた従業員数人も、同時に負傷したと

お金と宝石類が全て奪われたため、会社を存続させるのは不可能

保険には入っていたが、負債は膨大・・・

そのため、従業員はみな解雇

負傷した従業員は、こちらが多少なりとも医療費を払わなければならない

つまり、私たちは膨大な借金を背負うことになったのだ

「この家にある資産を借金返済に当ててもらいます」

「うちにあるお金と品物を売るのですね?」

「その通りです。この家は・・・歴代の社長との契約上売却はできません。しかし・・・」

資料と私たちを見比べる弁護士さん

また、メガネをクッとあげる

「とてもじゃないですが、足りないでしょう。どちらか・・・遠い街に行っていただきましょうか」

遠い・・・街?

「それは・・・売られるってこと?」

動揺が隠せない。震える声で問うた

「いいえ、少し違います。借金を返済するまで、遠い街で働いてもらうだけ。返済が終われば、戻ってきて構いません」

「私か、ロザリーのどちらか・・・」

「そちらの小さなお嬢さんに働くのは無理でしょうからね。出来れば・・・あなた」

冷たく、鋭い目が私を捕らえる

「わた、し?」

「ええ。長女は、末っ子の面倒、父親の面倒がある。ならば、あなたしかいません」

確かにその通りだ

それに、姉さんやユイナを出稼ぎにいかせるくらいなら・・・

「・・・分かりました」

「ロザリー!」

「お嬢様!」

姉さんとソフィさんの声が重なる

「ロザリーお嬢様!なりません。それなら、わたくしが」

「あなたも、この家にはいられない。あなたも、従業員なのですから。従業員は、みな解雇となってます」

ソフィさんの言葉を遮る。とても、冷たい声

「いいえ。わたくしはこの屋敷に残ります。給料なんていりません。レイチェルお嬢様が産まれる前から、わたくしはここに居るのです。見捨てるだなんて・・・」

「そうですか・・・ならば、お好きに。あなたはロザリー、と言いましたかな?」

「はい・・・」

やや不機嫌そうに、私を再び見つめる

「出発は出来るだけ早い方がいい。借金の額は、膨大だ。明後日はどうかな?」

「明後日!?」

あまりにも急すぎて、大きな声になってしまった

明後日だなんて、早すぎる

「少しでも早く働いて、稼いだ方がいいだろう?詳しくは、その時に話しましょう」

「場所だけでも、今分からないんですか?」

泣きそうなのを堪えているのか、姉さんが震える声で言った

「手配もまだ整っていません。明後日分かるでしょう」

その後、家具などの差し押さえの話をしていたが、私は全く耳に入ってこなかった

明後日・・・

私は知らない遠い街に出稼ぎに行くのだ

何をするのかも、街の名前も分からない

まだ、父さんにも会えていない

不安で胸が張り裂けそうだ

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