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それから、私はいつものように仕事を終えた
リリーにユリウスさんの事を聞こうと思ったけれど、何故か今日は見かけなかった
タイミングが悪いなぁ・・・
「はぁぁ・・・」
ため息をつきながらキッチンに入ると、見慣れた後ろ姿が見えた
小柄な身長に、赤髪のツインテール。リリーだ
「なんだリリー。いたんじゃない」
そう声を掛けるが、反応がない
「?リリー、どうしたの?」
再び呼びかけると、リリーはゆっくりとこちらを振り向いた
「・・・!?」
すぐには分からなかったが、違和感があった。リリーと全く同じ背格好や髪型や顔立ちだが、目つきが違う
ややタレ目で、前髪もよく見たら横に流されている。リリーは猫のようなツリ目で、綺麗に眉毛の位置で切り揃えられている
この子は・・・リリーじゃない・・・?
「あの、あなたは・・・」
この子、もしかして何日か前に見かけた子・・・?
「・・・マリー・・・・」
「え・・・・?」
「マリー・・・・マリアン・・・・だから・・・」
マリー?もしかして、名前?
リリーと良く似た女の子は、小さな声で途切れ途切れに名前を教えてくれた
それにしても、マリーか。名前も似ている
ガチャっ
どう会話していいのか悩んでいると、クリストハルトさんが入ってきた
「おやおやこれはマリーさんではないですか。お久しぶりです・・・と、ロザリーさんは初対面ですか?」
動揺していた事が見て取れたのか、クリストハルトさんはそう切り出してくれた
「最初は驚きますよね。リリーと良く似ていますから。彼女はマリー。リリーの双子の妹ですよ」
「双子・・・・」
なるほど。そう説明されて、納得した。リリーも妹がいるなら教えてくれたら良かったのに
「マリーさんもメイドの一人なんですよ。外での仕事が多いので、殆ど屋敷にはいらっしゃいませんが」
「そうなんですね。それにしても、よく似てますね」
マリーは、リリーとは見た目が瓜二つでも、性格は全く違うみたいだった
声も小さいし、あまり喋らない
雰囲気からしても、活発な子だとは思えない
物静かな、大人しそうな子だ
「・・・・おなか・・・すいた」
小さな声でそう呟くと、ふらふらとした足取りで厨房の奥へと消えていった
ちょうど夕飯時だし、ジェンさんが夕飯の支度を終えた頃だろう
ふらふらと消えていったマリーを見届け、私は先ほど気になった事を聞いてみた
「あの、クリスさん。ユリウスさんをご存知ですか?」
「!?ユリウス、さんですか?」
私がユリウスさんの名前を出すと、一瞬目を見開き、あきらかに驚いた表情をした
な、なにかまずかったのかな・・・?
「ロザリーさん、ユリウスさんにお会いになった事があるのですか?」
一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつものにこやかな表情に戻ったクリストハルトさん
なんだろう、この違和感
ここの人たちは違和感ある人ばっかりだわ・・・
「はい、何回か。先ほども大広間で会いました」
「そうだったのですね。いずれきちんとお会いする事があると思いますよ。その時に本人から直接お聞きになって下さい」
「はぁ・・・」
そう言ってにこやかにかわされてしまった
うぅん。ますます謎は深まるばかりね
また夜中に散歩していたら会えるかしら?
疑問を抱きつつも、私も2人に続いて厨房の奥へと向かった
その夜
私は寝巻きの上に肩掛けを羽織り、外へ出た
またユリウスさんに会うためだ
まずは裏庭に向かってみたが、見当たらない
今日は散歩してないのかな…?
だいぶ暖かくなってきたとは言え、夜はまた肌寒い
組んだ腕をさすりなから庭を一周する
「うぅん・・・・今日はいないみたい」
私はユリウスさんを探すのを諦め、部屋に戻る事にした。その時
ガサッ
「ん?」
庭に落ちている小枝でも踏むような音がした
「ユリウス・・・・さん?」
恐る恐る、音のした方を見る。しかし、誰も見当たらない
気のせいだったのかな・・・?
「うぅ・・・寒い」
風も出てきたし、気のせいだろう。そう思い、私は早足に自室へと戻った
この後に起こる事件など、想像することも出来ずにーーー




