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リリーと市場へ出掛けてから、私は数日置きに一人でお使いへ出されるようになった
これは信頼されてると言うことなのだろう
ありがたい事だ。しかし、逃げようにも私が稼がなければ家族は飢えてしまう
手紙のやり取りを禁止されているから、家族が今何をしているのか、無事なのかさえもわからないのだ
そう、どの道逃げることに成功しても、帰る家が分からないのだ
それに、相手はマフィアだ。見つかったら何が起きるかわからない。危ないと分かっていながら危険な行為出来ない
買い物カゴをぶらぶらさせながら、賑やかな市場を歩く
いつもと変わらない風景
ふと、その中で気になる人影を見つけた
この前の男の子だわ
勢いよくぶつかっておきながら、暴言を吐き、それまた勢いよく逃げて行った男の子
物陰に隠れながら、辺りをキョロキョロと見渡している
「どうしたのかしら」
不審に思い、その様子をみていると
「あっ」
男の子は、果物屋の店主が客の相手をしている隙にリンゴを一つ盗んだのだ
迷いの無い手付きだった。まるで当たり前のような
男の子は、そのまま店主に気付かれる事なく、まるで猫のように素早い動きで男の子は暗い路地へと消えて行った
あれって・・・泥棒よね・・・
一瞬の出来事に驚いてその場で立ち止まってしまった
でも、この街では掻っ払いは当たり前のこと
貧困な差が激しい為に、子供のスリや泥棒は当たり前だ
私は特に気に留める事もなく買い物を続けた
いつも通り荷馬車で屋敷に戻り、厨房へ入る
今日はこの後大広間の掃除だったかしら
箒を持ち、大広間へ向かう。するとそこに見知った影が見えた
あれは・・・マイクさんにユリウスさん?
どことなく険悪な雰囲気が漂っているようにも感じるが、何かを話しているのか離れていてよく聞こえない
「・・・・工場・・・・・・ダイヤ・・
で・・・・」
ダイヤ・・・?
父が宝石商だった為に、その単語がやけに気になった
すると、私に気がついたのかユリウスさんが振り返る
「やぁ、ロザリー」
私を振り返ったその顔は、話している時に感じた険悪な雰囲気は全く無くなっていた
気のせいだったのかな?
「こんにちは、ユリウスさん」
私がユリウスさんに挨拶をすると、マイクさんがすかさず間に入ってきた
「ロザリー!すぐに厨房に戻れ」
ユリウスさんを隠すように、私の目の前にマイクさんが立ちふさがる
「気にするな、マイク。このお嬢さんと私は知り合いだ」
そんなマイクさんに、ユリウスさんは穏やかに言い、マイクさんを後ろに下がらせた
マイクさんは、かなり納得のいかなさそうな顔をしているけど・・・
「買い出しか?」
私の抱えている買い物かごに目をやり、そう尋ねてくる
「はい。あの・・・さっき」
ダイヤと言う単語が気になり、思い切って尋ねてみる。しかし
「マイク、手伝ってやれ。それではまた、ロザリー」
そう言うと、ユリウスさんは私たちに背を向けてどこかに行ってしまった
「・・・・・あの、私はこれで・・・」
微妙な空気が流れていたので、私はその場を立ち去ろうとした
すると、マイクさんが何も言わずに抱えていた買い物かごを奪う
「ユリウスの言いつけだ・・・」
そう言って足早に厨房へ向かうマイクさんを慌てて追いかける
なんだか、まずい場面に遭遇しちゃったかな・・・?
ユリウスさんはいつも通りに接してくれたけど、マイクさんのあの態度はなんだかおかしかった
うぅん・・・今度リリーに聞いてみようかしら
歩くペースの速いマイクさんを小走りで追いながら、私は厨房へと戻った




