9
洗濯物を終わらせ、倉庫整理も終わった頃にはもう夕方になっていた
お昼食べ損ねちゃったな・・・
食事はしっかりと与えてくれるジェンさん
きっと心配しているだろうな
泥だらけになったエプロンを叩き、大きく背伸びをする
「んんー!はぁ・・・体力もつかな・・・」
高い塀の向こうに見える夕日を見つめていると、だんだんと切ない気持ちになってきた
お父様は大丈夫だろうか?
意識は戻ったのかな?体の具合は?
ユイナは元気かしら?風邪はひいてない?
姉さんは・・・?
「姉さん・・・」
「何を泣いてるんだい?お嬢さん」
急に後ろから声をかけられ、振り向くと昼に見た男性が立っていた
細められた目は鋭く、心の中を見透かされそうだ
いつの間に・・・
「え・・・泣いてなんか・・・」
そういいつつも、目のあたりに手をやってしまう
すると、濡れた感触がした
「・・・そんな・・・」
いつの間に、泣いてたの・・・?
自分でも気付かないうちに、涙が流れていたなんて・・・
とっさに男性に背を向け、目を擦りながら涙を拭いた
「今更慌てて隠すことはないだろ?故郷を思い出してないていたのか?」
鋭い目つきをしていた割に、優しい声でそう聞いてくる男性
「べ、別に・・・」
確かに、家族の事は思い出していた
でも、この見知らぬ男性に話す必要はない
「それより、あなた誰なの?まだあった事のない使用人の方?」
涙を見られた恥ずかしさからか、つい強い口調になってしまう
「・・・あぁ。私もこの屋敷で働いている。君とは初対面だな」
ようやく気持ちも落ち着き、チラッと男性を見る
やや長い黒髪で、緑がかった瞳が美しい
どこか気品もあり、使用人には見えない
「そう・・・私は最近この屋敷にきたロザリーです。あなたは?」
「私はユリウスだ」
「ユリウス・・・さん」
「ユリウスで構わない。何か辛いことがあれば、遠慮なく私に相談するといい」
そう言うと、ユリウスさん・・・ユリウスは屋敷の中へ入っていった
新しく出会った使用人のユリウス
落ち着いて、気品のある男性
私はあまり男性と接した事はないが、あんなに落ち着いた人は初めてだ
どこか不思議な雰囲気もあって、少し気になる人
私みたいな雑用の使用人にしては、身なりが綺麗だ
庭師やシェフにはとても見えない
家庭教師や執事かしら?
でも、執事ならマイクさんがいるはず
二人いるのかしら
「それにしても・・・・変な人」
ユリウスが去っていった方向をもう一度だけ振り返る
「・・・・お腹すいたな」
洗濯カゴを抱え、私も屋敷の中へと入った




