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翌朝、私は日が登る前に目が覚めた
いや・・・本当は寝付けなかっただけ
慣れない場所、これから先の不安、硬いベッド、埃っぽい部屋
さらには奉公先がマフィアの屋敷だなんて言われたのだ。精神的にも不安定になってしまう
「はぁ・・・まだはやいな」
サイドテーブルの上に置いてある時計を見れば、まだ4時半
私はベッドから起き上がり、顔を洗う事にした
幸いにも、部屋の中に鏡と洗面台が設置されていた
顔を洗い、鏡で自分の顔を確認する
何だか、疲れた顔になってるわね・・・
クマもできてる
ぐぅぅ
「そういえば、昨日から何も食べていないや・・・」
とは言え、腹の虫は素直だった
キッチンに行けば、何かもらえるかしら?
真新しいメイド服に袖を通し、身だしなみを整える
鏡に向かえば、そこには裕福な家庭の子どもではない
使用人の私が写っていた
めげそうな気持ちを落ち着かせるために、ロケットを握りしめてる
「・・・よし」
仕事中邪魔にならないよう服の中にロケットを入れた
最後に長い髪をポニーテールにし、お気に入りの赤いリボンでキュッと結ぶ
それと同時に気合いを入れ、キッチンへと向かった
「・・・おはようございます・・・」
そっとキッチンの中を見渡したけど誰もいない
厨房の時計をみれば、まだ5時を回ったばかりだった
早かったかな・・・
「オウ。早いな、嬢ちゃん」
「!!」
誰も居ないと思って油断していたら、奥の部屋からジェンさんが出てきた
「あ、おはようございます!今日からここで・・・」
「おー、知ってるぞ。ロザリーだな。よろしく」
昨日酔っ払ってシンク寝ていたジェンさん
昨日の印象とは少し変わって、よく見るとダンディな男性だった
ぐぅぅ
「あ・・・」
再び鳴る私のお腹。しかも大きな音で恥ずかしい・・・
「ハッハッハ!腹が減ってるのか。よし、朝飯を用意してやろう!」
気前良くそう言うと、ジェンさんは意気揚々と朝食を作りはじめた
トースターにパンを入れ、フライパンをコンロに乗せる
片手に卵を2個持ったと思えば、そのまま器用に割ってみせた
キビキビと手際良く動くその姿は、まさにプロのシェフ
昨日かなり飲んでたように見えたけど、二日酔いとかしないのかな?
そんなジェンさんを眺めていたらただ立っているのも居心地気がしてきた
「あの、何か手伝いましょうか?」
「おー?そうか。なら、そこの食器洗ってくれるか?」
ジェンさんが顎で指す方をみれば、山のような食器
うわぁ・・・
昨日のうちに片付けないんだ
まぁ、そんな事を言っても仕方ない
これも私の仕事なんだから
私は袖を捲り、山盛りの食器を洗い始めた
食器を洗いはじめて少しした頃、キッチンに焼いたパンのいい香りが広がっていた
その匂いに誘われるかのように、リリアンさんが起きてきた
「あ、もうジェンがご飯作ってる!」
「おはよう、リリー。今朝は早起きだな」
「おはようございます。リリアンさん」
早朝だというのに、目がパッチリと覚めてる上にハキハキとした喋り方のリリアンさん
目覚めはいい方なのかな?
「あー、そのリリアンさんってのやめて。みんなリリーって呼んでんの。あんたもそう呼んでよ」
「はい。わかりました」
「敬語も無しなし!歳も変わんなさそうだしさー」
「・・・そうね。ありがとう・・・気が楽だわ」
私の言葉に満足そうな笑みを浮かべると、リリーはどかっと椅子に腰掛た
よく見ると、厨房の中に作業台とは別のテーブルと椅子があった
たぶん、使用人用の食卓なんだろう
再び食器洗いに戻ろうとしたときだ
「さぁ!朝飯が出来たぞ」
元気のいいジェンさんの声が厨房に響く
「やっと朝ごはんー!」
待ちきれないと言わんばかりに、リリーが焼きたてのパンにかぶりつく
お行儀がだいぶ良くない
いただきますも言わないし、パンの粉がボロボロ落ちている
唖然とそんなリリーを見ていたら、ジェンさんにお前も早く食べろとせかされてしまった
私は紅茶を用意してから、静かにリリーの向かいに腰掛けた
こんな気さくなジェンさんと、大雑把で私と歳の変わらないリリー
この二人はただの使用人?それとも組員?
「・・・・・」
信用すべきか、このまま心を開いてもいいのか
これからの彼らへの接し方を考え込んでしまう
「・・・・・」
スープをズルズル音をたてながら飲むリリーを横目に、私は静かに食事をするのであった




