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Dream Lap  作者: 薪村 夕陽
1/1

プロローグ

 格好は制服。手には食材が入った買い物袋。場所は人通りの少ない裏通り。

 俺は全力で走っていた。

「はぁ…はっ…はぁ…はぁ…」

 いや、好きで走っているのではなく、黒服の不審者どもに追いかけられているのだ。

「はっ…はぁ、くそっ!」

 今日は朝から最悪だ。

 裏通りならではの障害物を避けながら、道を何度も左右に曲がりながら走る。

 どうする?どうする?体は逃げながら頭で考えるが、思考がまとまらない。

 そのまま、次に左に曲がったタイミングだった。

 まず、認識出来たのは視界が埋まるほどの強烈な光。

 目を庇おうと腕を上げる間もなく、次に来たのは鼓膜を突き破りそうな巨大な爆音だった。

 その爆音はほぼゼロ距離で聞こえた。

 視界は頼りにならないが、音までの距離と肌にピリピリ来る感じ、本能でマズイ、と。

 さっきまで混乱していた頭が驚く程、素早く回った。

 裏通りは狭く、回避行動を取ることも出来ない。

 後ろに退くことも、前方に走っている状態じゃままならない。

 マズイ、これが単純な爆発でも確実に巻き込まれて死ぬ。

 やっぱ、今日は最悪だと思いだし始めて。


 あれ?これって走馬灯?





 瞬間、これは夢だと気づく。

 明確な差違に気付いたのではなく直感的なものだが、確かにこれは夢だと感じた。

 俺は今、レンガでできた街道の上を歩いていた。

 前方には、何だろう、ドレスのような晴れやかな衣装に身を包んだ、体格から言っておそらく、女性が周りに手を振りながら歩いている。

 手を振っている左右を見ると、夢だからだろうか、うまく顔が判別できない人々がたくさん並んでこちらに手を振ったり、笑顔を向けている。

 ボーっとその様を眺めていると、右横に俺とほぼ同じ速さで歩いている人がいることに気づく。

 なぜ、今まで気づかなかったのかと、そちらを向く。

 そちらを向こうとすると、相手も同時にこちらを向いて…。



 目覚めは最悪だった。

 夢は中途半端なところで終わるし、いつも通りのこの頭痛。

 まぁ、頭痛はしばらくすれば治まるので気にしないようにしておこう。

 寝起きと軽い頭痛でボーっとする頭を起こし、ベッドから這い出る。そのまま、ベッド脇の目覚ましを見ると、普段起きる時間よりも1時間以上も早い時間をさしていた。

「あー…最悪だ…。」

 とりあえず、二度寝したい気分を抑え、服を寝巻きから制服に着替える。

 俺は一条 翔真。年は高校2年の17才だ。早生まれだから、夏休み前の今で既に年齢は上がっていた。

 着替え終わって台所に向かい、冷蔵庫を漁り適当に朝飯を作る。

 1人暮らしを始めてから大分経つため、料理は最低限はできるようになった。

 時計を見ると、学校に行くために家を出るには、まだ早い。

 何をしようかと迷い、二度寝は論外、テレビは見る気なし、本は持ってない、マンガゲームは没頭してしまって時間を忘れてしまいそうだから今は出来ない。

 結局、何もする当てがなく早めに家を出ることにした。


 アパートの外に出て鍵をかける。

 道路に出て空を仰ぐと、日は出てるが微妙な曇り空だった。

 適当にコンビニでも寄ってくか、と考えながら学校への道を歩く。

 いつもの頭痛はほぼ治まっていた。

 いつもの、というのは、この頭痛が俺の超能力の副作用だからだ。

 昔ではあり得なかった超能力という存在は、この世界、この時代では技術であり、才能だ。

 ある種空想上のものだと思われていた、幾つかの存在が1世紀以上前に認識された。

 そのうちの1つが超能力だ。

 超能力は多種多様、大まかな分類もあるが、それこそ千差万別の種類がある。

 例えば、念動力(サイコキネシス)には、空気や水、火など動かせるものが違ったりする。

 そんな中、俺の超能力は、予知能力だ。

 それだけ聞くと、とても良さそうな能力に見えるが、実はそうでもない。

 基本的には予知能力は、未来の1場面をランダムなタイミングで無作為に見れる。

 要するに自由に使えるものではないのだ。

 まぁ、稀に自分の好きなタイミングで予知を使える能力者もいるのだが、それはよほど能力が強力な場合か、視るタイミングの直後しか見れなかったりするらしい。

 コンビニに近づいてきたところで思考を一旦やめる。

 少し大きめの通りに出て右に曲がると、先の方に車が数台固まって止まっているのが見える。しかも、そのうち1台は警察車両だ。

 通り道のため近くを通り過ぎようとして、警察がいる脇道に目をやったのが間違いだった。

「っ…!」

 そこには当然ながら、テープで立ち入りが禁止され、シートで現場が見えないようにされていた。

 しかし、人が中に入ると同時に少しの風のいたずらによって、中が見えてしまった。

 飛び散った赤黒い液体。膝から下のみの足の肉片。肩から下がなく目には生気がない人間だったもの。

 見えたのは一瞬だったが、脳裏に焼き付いて離れない。

 あれは超能力者かもう1つの可能性のどちらかだろう。

 もう1つの可能性。

 妖怪。

 妖、人外、UMAなど色々な名前で呼ばれている生物だ。

 代表的なところで、吸血鬼、狼男などと言ったものだが…。

 伝承と違うところもあるが、能力のイメージとしては一般的に変わらないらしい。

 俺は、コンビニに寄る気も失せ、吐き気を抑えながら、学校に向かうことにした。



 随分早くに学校に着いてしまった。

 普段、登校する30分以上前だ。

 部活の朝練でもあるのか、ちらほらと生徒を見かける。

 校舎に入り、自分の教室に向かうと先客がいた。

 教室窓際一番後方の1つ前の席。黒髪の男子生徒が机に、突っ伏していた。

 俺は後方入り口すぐの自分の席に鞄を置くと、男子生徒に近づいて声をかけることにした。

「おい。早いな、優人。」

 寝てるかと思ったが予想に反して起きていたようで、頭を上げるとこちらを向いて少し驚いた顔をした。

「そっちこそ早いじゃないか、翔真。おはよう。」

 優しそうな少し童顔の顔で笑いながら、神谷 優人は挨拶してきた。

「寝てんのかと思ったが、起きてたんだな。」

「あ、あぁ。ちょっと考え事してたんだ。」

 目を逸らしながら優人気まずそうに言う。

 訝しげに顔を眺めると、目の下に隈があるのに気づく。

「何か悩みでもあるのか?」

 考え事、隈ができるほど寝ていない、その2つで思い付いたことを聞いてみると、優人は再び少し驚きを見せた。

「いや、ちょっと人付き合いでね。何とかなると思うから、大丈夫だよ。」

 人付き合いでピーンとくる。

「なるほど。季節外れの転校生組か。」

 ニヤニヤ笑いながら、からかい口調で言う。

 マンガみたいな話だが、このクラスには、5月頃に1人、6月頃に1人と中途半端な時期に二人も転校生が来ていた。

 その二人は、この優人とクラスのある女子に、転校してすぐに(悪い意味ではないと信じたいが)絡んでいた。

 困ったような顔をした優人の肩を軽く叩く。

「ははっ。それなら相談にのるから話してみ。」

 幸い、時間は余っていた。

 それから、他のクラスメイトが登校してくるまで優人の話を聞いていた。

 そのおかげで、ホームルームが始まる頃には、朝からの気分の悪さはかなり良くなっていた。


 夕陽が沈みこむ直前、俺は家に帰りついた。

 帰り道の途中、朝の事件現場はまだシートで遮られていた。

 学校の荷物を置き、冷蔵庫を覗く。

「げっ。」

 朝は若干ボーッとしていたのもあり気づかなかったが、食材があまり残っていない。

 冷蔵庫を閉めて頭を軽く掻きながらため息を1つ。

「しゃーねー。買いに行くか…。」

 帰ってすぐに、また家を出る羽目になった。


 コンビニで弁当を買う方法もあったが、家に食べ物がないのは変わらないので少しだけ買いだめしようと、スーパーに買い物に行き、その帰り。

 買い物袋を提げて帰る途中、ふと朝の夢を思い出す。

 あれは予知だったはずだが、あの風景に見覚えがない。

 ただの夢ではないのは、予知のあと特有の頭痛があったため間違いない。

 そんなことを考えて、前をしっかり見ていなかったのが災いした。

 帰り道の中、人通りが一番少ない裏通り。

 そこで人とぶつかった。

「いつっ!」

「あいたっ!」

 可愛らしい女子の声。

 ぶつかった俺は倒れこそしなかったが、少しよろける。

 相手は、しりもちをついていた。

 咄嗟に相手を見るが…。見覚えがある。

 確か、隣のクラスのやつだったか?

「あいたた…。」

 その女子はしりもちをついたままの体勢でツインテールの頭をふるふる振っていた。

 ちなみにズボンだったので、マンガお約束のチラリはなかった。

 別に残念じゃないぞ。

「っと、すまん。大丈夫か?」

 言いつつ、起き上がらせようと手を差し出す。

 相手は、俺に気づくと躊躇なく手を取って起き上がる。

「いやいや、こっちこそごめん。急いでたもので。」

 そいつが、手を離そうとした時だった。

「いたぞ、あそこだ!」

 通りの先。曲がり角から出てきた黒服の不審者たちが、こちらを指差して叫んだ。

「マズッ…。それじゃ、ごめんね。」

 女子は黒服に気づくと、それだけ言い残して黒服から逃げるように走って行ってしまう。

 つーか、足速いな。

 それより…。

 黒服たちを確認しようとしたら、黒服の1人が俺を指差して

「あいつもあの女の仲間だ。あの男も捕獲しろ!」

 と、訳の分からんことを叫んだ。


 はぁ!?俺?!


 一瞬、思考が停止してしまった。

 訳の分からん不審者にクラスメイトが追われていて。

 俺も捕まえられそうになっている…と。

 えーと…、とりあえず…。

「逃げる!」

 走り出した。全力で。

「逃げたぞ!男の捕獲はチームデルタだ!」

 黒服たちは結構な大人数だった。

 あれを撒く必要があるのか。

 とりあえず、常套手段として曲がり角を曲がる。

 幸か不幸か、ここは裏通りで結構いりくんでいる。

 とりあえず、右に左に曲がるのを繰り返しながら人通りの多い所を目指す。


 しばらく走り続けて、大通りが近くなったときに気づく。

 今朝の事件現場が近いと。

「チッ。」

 舌打ちして、現場から遠ざかるように右に曲がる。

 次は、左に曲がろうと考えながら走り続ける。

 そして、左に曲がった後だった。



 あぁ…、走馬灯も終わったか。


 体が風に煽られ、浮き上がる。

 そのまま後方に飛ばされる。

 裏通りは狭い。壁にぶつけられるのかと、気持ちだけでも身構えるが。

 ぶつからない。

 浮遊感だけが続く。

 視界は目を瞑っていても真っ白。

 徐々に浮遊感が消えていく。

 そして…。



 ドタッ、と、しりもちをつく。

「いつつ…。」

 視界が少しずつ戻ってきて、目を開ける。

 時間は夜なので周りは当然暗い。

 足元はレンガの地面。周りはコンクリートの壁ではなく、石か何かでできた建物。

 まるで、RPGの町のような景色が広がっていた。

 現実では全く見覚えのない景色だった。

「…は…?」

 当然、呆然としてしまう。

 俺は、買い物帰りに謎の黒服に追われて、何か分からない爆発に巻き込まれて…。

 んで、次の瞬間、ここにいた…と。

 いや…。



「…ここ、どこ…?」

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