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学パロ短編集  作者: 都神
学パロコラボSS
9/22

ゆるやかに。(喫煙トリオとたこ焼きの話)

飲酒トリオとたこ焼きの話。

「おい、たこ焼き器持ってきたぞ」


 ある日の夕方、テオがたこ焼き器を持ってノハの家にやってきた。例の騒動から一ヶ月が経過しようという今、生活が落ち着いて着たので以前から話していた酒盛りをしようという話になったのだ。メゾン・ド・リリーには教師も住んでいるが、そこは細心の注意を払って大人の目につかないよう酒を運ぶつもりだ。

 今まで本を読んでいたノハがふと顔をあげ、玄関にテオを迎えに行く。

 

「いらっしゃい」


 そういって両手が塞がっているテオからたたこ焼きの材料が入ったエコバッグ受け取る。テオはたこ焼き機をもって部屋にあがった。テオが機械を設置している間にノハが台所でタネを作る。

 そうこうしている間にインターホンが鳴り、間を空けずドアが空く。入ってきたのは西野隆弘。両手にドラックストアのビニール袋を二つ持っている。

 

「ビールとチューハイ6本ずつ買ってきたぞ。あとウイスキーと炭酸水」


 たこ焼き機の設置を終えたテオが炬燵に潜り込みながら口を尖らせた。


「ウイスキーはハイボールと水割り固定かよ」


 隆弘がククッ、と喉の奥で笑う。

 

「オン・ザ・ロックとストレートもできるだろ」


「嘘だろ隆弘」


 キッチンに立つノハが振り返った。

 

「いらっしゃい隆弘ーたこ焼き機のスイッチ入れてくれる?」

 

「わかったぜ」


 たこ焼き機に電気が通り、ホットプレートが熱を持ち始める。隆弘が酒を冷蔵庫に入れ始めるがテオは炬燵から動かない。

 

「手伝えよテメェ」

 

「だめだ。おこたが俺がいないと寂しいって」


「そりゃテメェの幻聴だ」

 

 隆弘が冷蔵庫に酒を終い終る頃、ノハがたこ焼きのタネを炬燵に持ってきた。

 

「もうプレート暖まった?」


 テオがプレートの上に手をかざす。

 

「ああ、熱い熱い」


「そう。じゃあ焼こう」


 ノハが器用にプレートへタネを入れていく。ジュウジュウと音がして煙が立ちこめた。

 隆弘が冷蔵庫の前から立ち上がり、換気扇のスイッチを入れる。

 ノハが隆弘を見た。

 

「ありがとう」


「かまわねぇよ。っていうかテオ、お前ちょっと動け」


 隆弘に睨まれたテオが、もごもごと殊更炬燵の中に潜り込む。


「おこたが俺に寂しいって」


 ノハが不思議そうに首を傾げる。


「テオは炬燵と話せるのか?」


 隆弘の口元がひきつる。テオも口元を引きつらせたが、わざとらしく

 

「ソウダヨー」


 と応えた。ノハは疑うでもからかうでもなく、ただ

 

「ふーん」


 と納得してしまう。

 隆弘は一瞬口を開いたが、すぐに口を閉じて黙って焼けたたこ焼きをひっくり返す。

 

「……どんどん焼こうぜ」


 隆弘の言葉にノハがうなずいた。


「そうだね。隆弘たくさん食べそうだから」


「ノハ、俺は」


「テオは小食そう」


 隆弘がククッ、と喉の奥で笑う。


「違いねぇ」


 言って、彼は缶ビールのプルトップを空ける。テオも缶チューハイを空けた。ノハはしばらく悩んだあと、缶ビールを手に取る。

 

「酒って初めてなんだけど、どんな味?」


 テオが首を傾げた。


「ビールはなんだ? 苦い?」


 隆弘が缶ビールを飲みながら言葉を続ける。


「甘くない炭酸」


「ふーん」


 ノハが缶ビールを一口飲んだ。そうして缶をテーブルに置き

 

「ほんとだ。炭酸っぽい」


 と言い、たこ焼きの焼き具合を確認する。テオが炬燵から這いずり出て、冷蔵庫からノハの作ったタマゴサラダを引っ張り出す。それから自分の買ってきたコンビニの餃子とソーセージの五種盛りを引き出し、それを二つの手で器用に持ち炬燵へ戻ってくる。

 ノハは焼けたたこ焼きをひょいひょいと皿に盛りつけていた。

 

「ほら、たこ焼きも焼けたよ」


 テーブルに持ってきたものを並べたテオがわざとらしく両手をあげた。

 

「わーいたべるー!」


 隆弘が灰皿を引き寄せ、煙草に火を付ける。

 ノハが餃子を食べながらテオを見た。

 

「そういえばテオはもう煙草吸わないの?」


 たこ焼きを食べていたテオは少し動きを止めたが、すぐに食事を再開する。


「ああ」


 たこ焼きを咀嚼して飲み下した彼は、口元だけで微かに笑う。

 

「もう良いんだ。吸わなくても」


 隆弘が煙を吐き出す。

 

「そのほうがいいぜ。こんなもん吸わねぇほうがいい」


 ノハが少し驚いた様子で隆弘を見た。


「そうなの? 隆弘いつも吸ってるけど」


 テオが今度こそ声を上げて笑う。

 

「隆弘はもうクセになってるんだ。もう簡単に辞められない」


「ノハも煙草には手ぇつけねぇほうがいいぞ」


「なら隆弘もやめたほうがいいんじゃない?」


 ノハがたこ焼きを一つ口の中に放り込む。

 隆弘は煙草の煙を吸い込み、息を吐き出すとククッ、と笑った。

 

「ああ、校長と付き合えたら辞める」


 テオが笑った。


「少なくとも当分は無理だな」


 炬燵の中からガツンと音がしてテオが仰け反った。どうやら隆弘に足を蹴られたらしい。

 ノハは自分の作ったタマゴサラダを小皿にもりつけ、隆弘とテオの前に置いた。

 

「ガンバってね」


 隆弘がどこか虚空を見た。


「……からかわれるより堪えるぜ……」


 テオがわざとらしく

 

「がんば♪」


 と言った。炬燵の中からまたガツンと音がする。

 ノハがたこ焼きのタネをプレートへ入れ、また焼き始めていた。

 

 最近、三人の間に会話が増えた。

 テオは先の事件から部活に顔を出していないらしい。それでもノハの家へくる頻度が増えたわけではない。隆弘が来る時を見計らってノハの部屋に顔を出す。彼はもうノハの部屋で煙草を吸うことはない。疲れた顔を見せることもない。たまにノハと隆弘に、どこかへ遊びに行こうと言ってくる。

 

「こんど海いこうぜ」


「寝ぼけてんのか今冬だぞ」


「冬の海オツじゃないですかー」


「電車でいくの?」


 ノハが質問すると、隆弘が冗談だろ、と眉をひそめた。テオがニコリと笑う。

 

 三人の関係が少しずつ変っていく。ゆるやかに、穏やかに、だんだんと温度が変化していく。

 まあこれも嫌いじゃないかな、とノハは思った。

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