シガレット・フレグランス
「なんのにおいですか」
黒髪の女が突然顔を近付けてきたので隆弘は眉を顰めた。これがいつもの黄色い声をあげている生徒なら距離を取って近寄るなと一喝しているところだ。
「香水だよ。お嬢様は知らねぇだろ。てめぇの騎士はそんなタイプじゃあねぇからな」
皮肉めいた隆弘の言葉に少女――サイサリスは首を傾げる。うまく通じなかったようで、テオが横でわざとらしく
「ぷぎゃー!」
と隆弘を指差して笑った。隆弘は彼の小枝のような人差し指を掴んで力を込める。テオが即座に指を押さえて床をのたうち回った。
「香水? つけてるのですか」
「生憎体臭がキツいタチでね」
床をのたうちまわるテオがなにか言いたそうに口を開いたので、余計なことをいう前に軽く足で小突く。白い小枝が力尽きたようにぐったりと寝そべった。
隆弘が呆れた様にもやしを見ていると横のサイサリスが首を傾げたまま呟く。
「……ちがうようなきがします」
「あ?」
隆弘がそちらを向く。睨み付けるようにしてみたが女はまったく動揺していなかった。
「香水とはすこしちがう気がします」
「テメェ香水の匂いなんて知らねぇだろ。だいたい、種類で全然香りが違うんだよ」
「なにかが燃えるにおいです」
「……は?」
「貴方のそれはなにかが燃えるにおいがまじっています」
ピタリ、と隆弘の動きが止まった。
「深夜霧先生とにています。たばこですか?」
無遠慮に無神経に無警戒に放たれた言葉は意外にも的を得たものだ。1秒間動きを止めていた隆弘は、やがてニヤリと笑って目の前の女を見る。
「鼻が利くじゃあねぇか。お嬢様」
「はあ、ありがとうございます」
サイサリスはペコリと頭を下げたが、一部始終を目撃した生徒達の話では事業に勘づかれたヤクザの顔をしていたと言われ、西野隆弘に香水とタバコの話を振ったら港で魚の餌にされると――一週間程度学校中で話題になった。