毒を食らわば皿まで
キスの日コラボ スイレンさんとアレックス
スイレンは何十、何百という写真の海に溺れていた。自分で溺れたいと思ったので溺れていた。
花神楽高校の生徒である少女の写真だ。どの写真の少女もレンズの方向を向いていないから隠し撮りであることは想像に容易い。見る人間が見ればすぐさまストーカーとして訴えられ翌日には新聞沙汰にもなりそうな勢いである。しかし本人にとっては幸い、周囲にとっては不幸なことにスイレンという男はそんなヘマをする人間ではなかった。
今日も印刷するに相応しい写真の選別作業をしていると不意に職員室の扉が開いた。
夕日で血の色に染まった空間へひとりの男が入ってくる。
「やあスイレン。また写真の整理かい?」
「……ええ、そうですよ」
ピリリ、と空気に緊張が走る。先日実は恋敵だと発覚したアレックス・ラドフォードという体育教師だった。お互いに目線で牽制しあい殺気をぶつけ合う。これまた本人たちにとっては幸い、周囲にとっては不幸なことに、彼らはちょっとやそっとのことで動じたりしない人間だ。張り詰めた空気も寒気を感じるような殺気も周囲に被害が及ぶだけである。息苦しいとか寒気がするとかいって保健室を訪れる生徒や教師が増える、といった具合に。
「しかしまあ、よくそれだけ集められたものだね」
「ひやかしなら帰れ」
スイレンの頭から特大のネコが剥がれ落ちた。偶然廊下を通りかかったテオ・マクニールはこの時『ぶにゃー!』という謎の野太い雄叫びを聞いている。曰く、『喰われるかと思った』そうである。
「まさか。敵情視察さ」
ピリリ、とまた緊張感が増した。
「簡単にくれてやると思うなよ」
「こちらも簡単にあげるつもりはないし、君が簡単に譲ってくれるとは思っていない」
アレックスが一歩、スイレンに近づいた。
「でもね、私は……思いついたんだ」
スイレンがパソコンから目をそらす。写真の海に溺れている最中のスイレンとしては驚愕の行動である。意外すぎて明日はおそらく槍が降る。
アレックスはスイレンを見て笑顔を浮かべた。目は笑っていない。
「我ながら名案だよ」
座っているスイレンにアレックスが覆い被さる。抵抗する暇もなく、というか、なにをするか予想できてしまったからこそ予想外すぎてなにもできず、スイレンは硬直した。
口づけされたのだ。男に。恋敵に。軽くではあったが。
「何を――」
殺す気で睨み付ける。アレックスは笑っていた。今度は目も。心底楽しそうに、猟犬のような目で笑っていた。
「彼女だけでは手に入らないなら、いっそ君ごと喰ってしまえばいい」
アレックスも殺す気で笑っていた。それでもスイレンに口付ける。喰らうという。この男、実は相当頭がおかしいなとスイレンは思った。
「やれるものならやってみろ」