快適通販生活
「Hi、中年司書さま。新刊候補のプリント確認してくださるかしらぁ」
赤いワンピースを着た少女が威風堂々司書室に入ってきて失礼な発言をした。美しい黒髪を腰あたりまで伸ばし、頭にはリボンのついたカチューシャをつけている。首元のチョーカーには大きめのバラがついており、こちらも赤い。かなり派手で着る人間を選ぶ服装だったがなぜかこの少女――通称ライターにはひどく似合っていた。
「まだ中年って年じゃないぞ……」
ロッソが力なく呟いてもライターは気にしていない様子で特に発言を訂正したりもせずプリントを彼の目の前に突き出す。
「まあ細かいことは良いですわ。速やかに印鑑を押してしかるべき処置をしてくださいまし。早くしないとまた副委員長にドヤされますわよ」
「わわ、それはカンベン!」
突然わたわたと慌てだしたロッソがプリントに目を通し判を押す。購入候補に一通りの許可を貰えたのでこれでライターの仕事は終わりだ。肩の荷が下りた彼女は早速司書室の棚に手を伸ばした。
「キヒヒッ、早急なお仕事さすがですわロッソ司書。チョコレートいただきますわよ」
「えっ、あっ! それ俺がとっといたやつ……」
「毎朝買ってこれるんですから一口くらいくださいなぁ。ケチくさいと嫌われますわよ」
板チョコレートの一列をバキリと折って口に含むと疲れた体が癒されていくようだ。ゆっくりと口の中で転がすように味わってから残りを棚に戻すとすこぶる落ち込んだ顔のロッソと目が合った。
「せっかく楽しみにしてたのにぃー」
「別に全部食べたわけではないですわよ。せいぜい五分の一ですわぁ」
「うぅう……もう食うなよ?」
「わたくしは食べませんけど、これからアメリアがくるかもしれませんからお仕事が終わってから食べるつもりならお早めにどうぞぉ?」
「あぁあああもうぅう!」
ロッソが頭をかきむしりながら手早く残った仕事を片付けにかかる。だいたい今日の仕事量なら本来午前中で終わっていたはずだ。放課後までかかっているのはロッソの自業自得である。これを目撃したのが副委員長のヴィオーラなら目くじらをたてていたことだろう。
「それはわたくしこれで失礼しますわ。ごめんあそばせぇ」
気づかれるか気づかれないかの小さな声でそう言うとライターは司書室を後にした。途中でアメリアとすれ違ったが、アメリアが図書室につくころにロッソの仕事が終わっているのかいないのか、チョコレートは死守できるのか、これから帰るライターには知るよしもなかった。