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学パロ短編集  作者: 都神
学パロSS
3/22

ANGEL EYES

君はリリーを知っているか(http://ncode.syosetu.com/n7753bx/)学パロネタで隆弘(18)→リリアン(32)

きっかけ的な話。

「おい隆弘、それなんだ」


 晴れ渡る空の下、隆弘が屋上でダラダラと過ごしていたら突然クラスメイトのテオ・マクニールが現れて彼の横に放置されたポストカードを指差した。

 

「今年のクリスマスに親戚が送ってきた」


「ふーん」


 緑の目を持った金髪の天使が穏やかな笑みを浮かべ、白百合を持っているさまが描かれていた。聖母マリアに受胎告知をおこなったとされる、大天使ガブリエル。ポストカードの端にはクリスマスのメッセージが書き込まれていた。

 テオはしばらくポストカードを眺めていたが、やがてフェンスに寄りかかった隆弘に目を向ける。

 

「いまさらなんでこんなもん持ってきたんだ。季節外れにもほどがあるぞ」


「ああ、似てるなと思って」


「なにに?」


「天使の目が、俺に」


「とんだナルシストでござる」


 テオが眉をしかめると隆弘が彼の頭を軽く叩く。前につんのめってあやうくこけそうになったテオは床に両手をついてなんとか怪我を回避した。

 隆弘がポケットからタバコを取りだし、火を付ける。

 

「それと、全体的にアイツに似てる」


 テオが首を傾げた。


「アイツ?」


 隆弘は答えない。テオがポストカードに再び目線をやり、しばらくした後合点がいったとでもいうように

 

「ああ」


 と頷いた。

 

「リリアンか。すっぴんの配色はたしかにこんな感じだな」


「配色とかいうな。顔立ちとか似てるじゃねぇか」


「これならどっちかっていうとジュリアンのほうが似てる」


 隆弘の片眉がピクリと跳ね上がる。テオはなんでもないことのように、ヘラヘラと笑っていた。

 

「リリアンの見かけはこんなに優しくない。それは隆弘の惚れた弱みってやつだ」


 補正がかかってるんだ、とテオに言われた隆弘は顔をしかめタバコの煙を吐き出した。

 テオがニヤニヤ笑う。隆弘の隣に腰掛け、フェンスに寄りかかった。

 

「ところで今更だが聞いて良いか」


「なんだ」


「お前なんでリリアンに惚れてんの?」


 隆弘がタバコの煙を吸い込んで思いきり咽せる。テオは相変わらずニヤニヤと笑っていた。しばらく咽せこんでいた隆弘は、やがてゆっくりと呼吸を整え恨めしそうにテオを見る。

 

「それを今、俺に聞くのか」


「納得の行く理由だったら全身全霊を持って応援してやらんこともない」


「いい。お前に応援されると逆に失敗しそうだ。幸運値F-野郎が」


「ひどいでござる」


 呼吸を完全に落着けた隆弘があらためてタバコの火を吐き出した。テオは黙って隣に座っている。こういう時の空気の読み方が血族揃って妙に長けているのが隆弘は気にくわなかった。

 

「13歳までイギリスにいたんだが、親父の仕事の関係でどうしても日本にいかなきゃならくなってよ。俺はもうイートンに入学が決まってたから、残ったほうがいいって話も出たんだが、お袋が許可しなくてな。俺も別にどうしてもイートンに入りてぇわけじゃねぇから、大人しく日本に来たんだ」


「どうりで不良の癖に成績がいいと思ったでござるよ。好成績の理由は家庭教師だけではござらんな?」


「まあ俺の生まれ持った才知とたゆまぬ努力の成果ってやつだな」


「お前なんかキャラのつめこみすぎで死ねばいいのに」


「そしてこの恵まれた容姿も相まって俺は不幸にも周囲にねたまれる人生を送らなければならなくなったわけだ。恵まれすぎた人間の辛い所だな」


「お前本当1回死ね」


 隆弘が口の片端を歪めて笑う。

 そのまま男は横に落ちていた天使のポストカードを拾い上げる。

 

「まあ別に最初からねたまれてたわけでもねぇし、全員にねたまれてたワケでもねぇんだがな」


 ◇


 西野隆弘は帰国子女だ。父親の仕事の都合で日本に来たのは13歳の頃。それまではイギリスで暮らしていた。父親が日本人で、母親がイギリス人。そのため彼の髪は黒で目の色はグリーンだった。

 当初のクラスメイトは日本の生活に不慣れな隆弘に色々世話を焼いてくれる人間とからかってくる人間半々だったと記憶しているが、大半がからかてくる人間に変化したきっかけはたしか――1人の女子生徒の発言だった。

 

「隆弘くんの目って不思議な色ね。ステキ」


 まず2人の仲をからかう男子生徒が増えた。クラスで男子に人気のある女子だとかなんとかで、やっかみ半分。あとの半分は単純におもしろがって。

 隆弘は知らなかったのだが、女子生徒は女子生徒で女にいじめを受けていたらしい。

 中学2年の春、やたらつっかかってくる男子数人を相手に喧嘩をした。当時からガタイの良かった隆弘が旧校舎の廊下で相手を全員ぶちのめし――偶然目撃した女子生徒が言った言葉が、彼を畏怖の対象へと変化させた。

 

 

「隆弘くんの、目が……赤かったの」


 血みたいに。

 

 その日雨が降って、雷が鳴っていたことは――隆弘も、覚えている。

 

 その日から、隆弘は女が嫌いになった。

 

 ◇

 

 中学2年の冬、隆弘の身長は既に180cmの大台を越えていた。イートン校のカレッジャー試験をパスし、尚かつそれを蹴って日本にやってきた彼は成績も良く、いろいろな意味で目立っていた。縦の繋がりで噂が広まり、高校生にまで『生意気な奴がいる』と言われる始末。町を歩いて絡まれることも多く、周囲の人間には先の騒動で畏怖されていることもあり、この頃の彼は名実共に、完全なる不良少年と化していたのだ。

 

 だから喧嘩を売ってきた高校生をボコボコにするくらいは日常茶飯事であり、彼はその日も3人の不良相手に路地裏で大立ち回りを披露していた。

 

「おい、もう終わりか? 口ほどにもねぇな」


 隆弘が革靴の先で腹を蹴りつけバカにしたような笑みを浮かべる。血まみれで腫れ上がった顔が彼を見て脅えていた。もう一度相手の腹を蹴って隆弘が吐き捨てる。

 

「あー、テメェなんでからんできたんだっけか? わりぃな、忘れちまったぜ」


 隆弘が足を動かす度にガツン、ガツンと重い音が響く。

 

「まあなんでもいいか。なあ? そう思うよな? そうだろ?」

 

 くの字に折れ曲がった男の身体が揺れて口から笑い袋のような音が出ていた。

 

「重要なのは、テメェらが喧嘩売って、俺が買って、テメェらが負けた。この3つだ」


 隆弘の目が冷たい笑みを宿したまま地べたに転がる男3人を見下ろす。

 

「なあ? もうちょっと痛い目見とくか?」


 男の1人がヒッ、と情けない声を出した。這いずって逃げだそうとしたので隆弘が男の汚れた背中に足を乗せる。

 

「逃げるんじゃねぇよ。そっちが売ってきた喧嘩だろ?」


 アリを潰して遊ぶ子供のような笑顔で歌うように囁く。

 隆弘の背後から女の声がした。

 

「だからってそれはちょっとやりすぎじゃないかなぁ?」


 隆弘が背後を振り向く。ショッキングピンクのロングツインテールで赤いセルフレームのメガネをかけた女が立っていた。髪はウィッグだろう。花柄のマキシワンピースに太い革製のベルトをつけている。大きなバッグを持って悠然と立つ姿は一見で年齢が判断できなかった。彼女は口にタバコを咥え、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべたまま隆弘に近づく。横に並ぶと180cmを越える隆弘と同じような背丈だった。思った以上に背が高い。

 女がタバコを右手で持ち、煙を吐き出す。

 

「それ以上やったら危ないから、やめなさい」


 隆弘が睨んでも女はニヤニヤ笑ったままだ。

 

「別にテメェには関係ねぇだろ、ひっこんでろババァ」


「イヤン。ハッキリ言われるとオバサン傷ついちゃうワ」


 女がタバコを携帯灰皿に押し込む。煙が残り香だけを残してふわりと空気中に散った。肩を竦めた女が脅えた様子はない。隆弘は眉をひそめて彼女に向き直った。

 

「ナメてんのか? 別に女だからって容赦はしねぇぞ。男漁りならよそでやりやがれ」


 女の表情が初めて固まった。しかしそれも一瞬のことで、またすぐにヘラヘラと薄ら笑いを浮かべる。

 

「ヤダ、モテすぎちゃって困ってる系? 羨ましいねぇ。オバさんはこの年になってもまだモテ期がこなくてね」


「テメェの話になんざ興味はねぇ。怪我したくなかったら失せろ」


「若い子は血気盛んだねぇ」


 女の腕が隆弘の肩を掴んだ。彼がその手を振り払うよりも早く女が隆弘に接近してきて、そのままグイッ、と後ろに引っ張られた。いつのまにか相手と自分の場所が入れ替わる。身体がバランスを崩している間に足を軽く蹴られ、気づけば尻もちをついていた。

 ピンクのツインテールが風をはらんでふわりと広がり、女は薄ら笑いを浮かべたまま倒れている男3人を見下ろしている。

 

「さて、校長先生のご到着だよン! 諸君らこの子になにか言う事は? それと、3人とも一週間停学ね」


 この時隆弘は、派手な格好をした女が地元の高校――花神楽高等学校の学校長なのだと、初めて知った。

 隆弘が地面に座り込んだまま茫然としていると、女はピンク色の髪を乱暴に掻き上げ、隆弘に右手を差し出す。

 

「立てる? ごめんね。喧嘩のお話詳しく聞かせて貰ってもいいかな?」


 未だ状況が上手く把握できない隆弘に、彼女は先程までの薄ら笑いを引っ込めゆるやかで優しげな笑みを浮かべてみせる。

 

「大丈夫だよ。今回の喧嘩はあの3人が先だから、君のことは、私がちゃんと守るからね」

 

 ◇

 

 正体不明・国籍不明・意味不明。

 隆弘が花神楽高等学校の学校長について調べた結果、わかったのはこの3つの言葉だった。

 名前は後藤花子。女。年齢は不詳。そもそも名前が本名であるかさえ生徒の間では疑問視されているという。喫煙者で銘柄はラッキーストライク。破天荒。髪と目の色は日替わりでとらえどころがないものの、なかなかのやり手。

 

 隆弘の喧嘩を仲裁して以降、彼女はことあるごとに隆弘に話し掛けてきた。他の女と違って隆弘を口説いたりする気は無いようで、隆弘はからまれたらとりあえず話を聞くようになっていた。

 

「女の子嫌いなの?」


 ある日後藤にそう尋ねられた時があった。放課後に近くのファミレスへ連れ込まれドリンクバーを奢られ、なんでもないような調子でふっと聞かれた。隆弘は鼻を鳴らして答える。

 

「別に。うっとうしいだけだ」


「そうなの? モテすぎるのも悩みがあるのねー?」


 試すように顔をのぞき込まれて隆弘は言葉に詰まった。女が常日頃浮かべている薄ら笑いはこちらの手の内をすべて見透かしているという意思表示のような気がする。

 後藤が穏やかな口調で言葉を続けた。

 

「西野は去年、学校で喧嘩騒ぎ起こしてるよね」


「……それがどうした」


「目が赤かったって言われたらしいじゃない」


「……それが、どうした」


 隆弘の機嫌が急降下する。触れられたくない話題だ。クラスメイトの女が言った言葉のせいで、未だに隆弘は一部の人間から悪魔扱いされている。人間の目の色が変化するなんてありえないのに、今でもまれに目が赤くなったなどと噂される始末だ。

 

 女は嫌いだ。かといって男も好きではない。

 

 とにかく隆弘は、自分を好奇の目でみてくる人間全員が嫌いだった。

 後藤は眉をひそめた隆弘を見ても脅えない。そのあたりは評価してやってもいいと思っていた。

 

「日本にも『目の色を変える』ってことわざがあるでしょう」


「ああ」


 リリアンがドリンクバーの紅茶にミルクを垂らし、スプーンでかき混ぜる。カチャカチャと音が響いた。


「ヒトの瞳孔っていうのは光に反応して大きさを調整させるんだけど、そうなると虹彩の色彩が凝集したり拡散したりするのね。感情の動きでも瞳孔の大きさが変化することがあって、それでたとえば怒った時とかに、目の色がすこし変化する人がいるの」


「……なにがいいたい?」


「日付調べたんだけど、その日雷が鳴ってたでしょ? 人間の瞳孔は怒ると開くのね。その時虹彩の色素も拡散するから目の色が薄く見えるの。グリーンはイエローをベースにブルーが入ってるから、黄色っぽく見えるはずなんだけど、瞳孔が開いてるところにさらに雷が鳴っちゃったから、『赤目現象』を起こしちゃったんだと思うのね。カメラのフラッシュがあたって目が赤くなるやつ。西野ってちょくちょくそういうのなっちゃうんじゃない?」


「……ああ」


「だから、西野の目はその時実際にまわりには赤く見えてたと思うの。だけどそれは、偶然が重なった自然現象なんだよ」

 隆弘がコーラを飲む。口の中で泡が弾けた。

 

「……あんた、なんでそんなこと知ってんだ?」


 後藤が赤いセルフレームのメガネを取る。目は美しい琥珀色で、ローマ数字で時計の文字盤が描かれていた。人差し指で左目に触れた後藤がゆっくりとカラーコンタクトを外すと、そこから彼女本来の瞳が現れる。

 

 大粒のエメラルドが、室内の光を吸収してキラキラと輝いていた。

 

「私もたまに、そういうことがあるからだよ」


 ◇

 

「いっとくが目の色が同じだからホレたわけじゃねぇぞ。ただ、今考えたらきっかけはそれだったって話だ」


 屋上のフェンスにもたれかかった隆弘が照れくさそうに不機嫌そうに吐き捨てた。口にはフィリップモリスをくわえている。

 黙って友人の話を聞いていたテオ・マクニールはガラス細工のように繊細で美しい顔にからかいをたぶんに含んだ笑みを浮かべた。

 

「なるほど。それで気になって、この学校に入ってから花ちゃんのダメ人間っぷりを見てさらに深みにハマったってワケだな?」


 隆弘が軽くテオの頭を小突く。

 

「からかうんじゃねぇよ」


「否定をしないということは図星でござるな。甘酸っぱい青春でござる」


「密室に二人っきりでいて手ぇ出さなかったからって理由で相手に惚れた奴に言われたくねぇ。女子か」


「おいまて、それはいわない約束だろうが」


「しらねぇな」


 美しい天使がポストカードの中で笑っている。隆弘はこの笑みを見る度に、あの日コンタクトを外した後藤花子――リリアン・マクニールを思い出すのだ。

 すべてを許し、すべてを受け入れてくれる。

 テオは補正といっていたが、あの時確かに隆弘はリリアンに許され、受け入れられたのだ。

 

 悪魔だの不良だのと好き放題言われる『西野隆弘』を、その原因となった根幹を、理路整然とした口調でなんでもないことに変えてしまった。

 あの時はじめて『特別』でなくなった隆弘にとって、彼女は確かに天使であったのだ。

 そして『特別』でなくなった隆弘は、今あの天使の『特別』になるために、足掻いている。

 長い道のりは障害だらけで願望が叶う確立はかぎりなく低いけれど、それでも諦めるつもりなどさらさらなかった。

 

 空が青い。

 

 もう一度タバコの煙を吐き出した隆弘は、ポストカードをポケットにしまい床に寝転がった。

 

「次の授業、俺はサボるぜ」


 テオが苦笑してため息をつく。


「花ちゃんが怒り狂って放送かけるぞ」


「ソレが狙いだ」


 学校中にけたたましく天使の怒鳴り声が響くまで、あと30分――

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