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学パロ短編集  作者: 都神
SSS
22/22

VSジュリアン

ジュリアンとSSSのB&Sチームのお話。Sチームというか、セイルさんですが……

 白いワンピースドレスを着た女が夜の街を歩いていた。ピンクやオレンジ、赤やブルーのネオンライトが街を照らしている。闇とネオンのスポットライトが道に不思議なストライプを描いていた。キラキラと輝く女の金髪だけが健康的な太陽の光を思い起こさせる。

 繁華街には場違いな、健康的な魅力を持つ女だった。聖なる魅力といっても良いだろう。ステンドグラスに描かれた聖母マリアのような印象を見る者に与える。なだらかな身体のラインはふっくらと柔らかそうで、彼女を照らした瞬間不健康なネオンライトは健やかな月明かりに変わってしまう。

 繁華街よりも湖の畔や教会の祭壇が似合いそうだ。

 太陽の光のようなやわらかい金髪も、深緑の木々を思わせる緑の瞳も、月明かりのような白い肌も、人類が抱え込んだ全ての罪を許して受け止めるために産まれてきたような穏やかさがあった。

 

 もっともそれは、外見だけの話なのだが。

 

「ジュリアン・マクニールだな?」


 背後から声をかけられた女が立ち止まる。彼女が振り返ると、険しい顔つきの男が2人、女を睨みつけるように立っていた。

 

「すこし話がある。ついてきてもらおう」


 女がニコリと笑みを浮かべる。ユリの花が咲いたような、華やかで穏やかな笑みだった。

 真っ赤なルージュをひいた口元が動き、ハンドベルように澄んだ美しい声が響く。

 

「お断りよぉ」


 女の細い足が男の首に叩きつけられる。グギャッ、と妙な音がして男が倒れた。

 もう1人の男が拳銃を抜くも、それより早く女がホルスターからコルト・ガバメントを引き抜き、引き金を引く。

 バンッ、とパイプテーブルが床にたたきつけられたような音がする。

 男の肘から下が吹っ飛んだ。

 

「ぎゃぁあああああああああああああああぁあああっ!」


 悲鳴が響く。繁華街にたむろしていた人間が悲鳴をあげながらさっと波のように引いていった。

 白い服を真っ赤な返り血で汚した女は、血と同じくらい真っ赤なルージュの口元を笑みの形に歪めたまま、笑い声をあげる。

 

「ふふ、うふふふふふ、ふふっ、あはははははははははははははははは!!」


 まるで聖人のような風体に、返り血と男2人の死体は驚くほど似合わない。

 ハンドベルの声色が大聖堂の鐘のような音量になり、ひとけのなくなった繁華街にいつまでも大きく響いていた。

 

 ◇

 

「斉賀、四課がジュリアン・マクニールを逃がしたよ」


 携帯末端の弄っていた直樹が声を上げると、彼の上司である斉賀が暢気な声をあげた。

 

「あーやっちゃったかぁー……しょうがない、僕らも動こう。リアトリス、準備はいい?」


 名前を呼ばれた女が、明るい笑顔でオーダーメイドの三節棍を振り回す。


「いつでもおっけーですよぅ!」


 直樹が耳元のイヤホンを固定して、なにか話している。30秒ほどで顔をあげた彼は斉賀を見た。

 

「瑠美から連絡があった。あっちも準備OKだってさ」


 リアトリスが部屋から飛び出す。斉賀もその後を追って、2人同時に車に乗り込んだ。運転席はリアトリスだ。斉賀に運転させてはいけないと彼らは勤務3日目にして3人で誓い合った。

 ミニクーパーが猛スピードで公道を走っていく。直樹はひとつため息をついて、自分も愛用のクルーザーバイク、ワルキューレのエンジンをかける。

 

 ◇

 

 斉賀とリアトリスが到着した頃には、現場が目を疑うほどの大惨事になっていた。人はすでに非難しているが、公道にクレーターかと思うほどの大穴がたくさん開いている。

 車から降りた斉賀が苦笑とともに呟いた。

 

「ここ本当に日本?」


 リアトリスもふぇーと間抜けな感嘆の声をあげる。


「空襲でもあったですかー?」


 彼らの目の前に1人の女が降ってくる。良く見知った同僚――基本的に足で情報収集を行う、両国瑠美だ。

 彼女は今から狩りを行う豹のような前傾姿勢で地面に着地し、ギリリと激しく歯軋りしてみせる。左手には全長1.2Mを記録する大型自動小、ブローイングM1918――通称B.A.R.を持っていた。重量8.8kg。2Lペットボトル4本強の重さである。

 ところで彼女は、どこから振ってきたのだろうか。

 

「あぁあああんのアマァアアァアア! ナメてんじゃねぇですよド変態脳膜炎ビッチがぁああああぁあッ!」


 リアトリスが肩を竦めた。

 

「ダメですねぇーキレてますよ、コレ」


 大きく足を開いた瑠美がB.A.R.を構えて腰を落し、ズガンズガンとゴジラが歩くような轟音を響かせた。公道にまた大穴があく。

 看板の壊れた居酒屋の屋上に立っていた人影が踊るように飛び降りて瑠美の弾丸を回避する。

 バゴンッ、と音がしてネオンの看板が完全に外れ、公道に落下した。

 

「うふふふふふふふふふふふふっ! あたらしい仲間がきたのね! いいわよいらっしゃい! 遊んであげるわっ!」


 声を上げたのは聖母マリアのような外見の女だった。白いワンピースがとてつもなく似合う。彼女以上に清楚な服装の似合う女はこの世にいないだろうと思えるほどだ。

 ただし全身に飛び散る赤黒い返り血が印象の全てを台無しにしていた。普通の人間なら、きっと傷ついてボロボロになった人間を看取っていたためにあのような姿になったのだと思うほど美しく優しげな容姿をしている。

 斉賀がリアトリスを見て笑った。

 

「あれがジュリアン・マクニールだ。早く捕まえよう」


 斉賀がS&WのM29を二挺構えると、リアトリスも花の意匠が凝らしてある三節棍を構えた。折りたたみ式ナイフのような形状の先端から、シャキンと鋭い音をさせて刃が飛び出し、三節棍が槍へと早変わりする。

 

「たしかに残業はごめんですぅ」


 バゴンバゴンと音をたてて瑠美がクレーターを量産している。その間を縫うようにして斉賀とリアトリスがジュリアンに近づいた。ジュリアンは踊るように軽やかなステップで彼らの攻撃を避け、手に持ったナイフを斉賀めがけて投げつけた。斉賀は倒立後転で攻撃を躱し、投擲のフォームで隙だらけのジュリアンをリアトリスの三節棍が狙う。ジュリアンはコルト・ガバメントの腹で三節棍の軌道をそらして見せた。

 そのままコルトの弾丸を放たれたリアトリスは、上体を反らして弾丸を避けた後、地面に槍をつきたて走り込んだスピードを無理やり殺した。 瑠美がイライラした様子で怒号をあげる。

 

「チョコマカするんじゃねぇですよ! こっちが撃てねぇじゃねぇですか!」


 リアトリスも負けじと言葉をかえす。

 

「一発も当たってないじゃないですかぁ!」


「リアトリスだって至近距離なのに攻撃あたってないじゃねぇですかっ!」


 斉賀がポキポキと首をならして

 

「2人とも元気だなぁ」


 と場違いな言葉を発する。

 ジュリアンがクスクスと笑みを零す。

 

「元気な子たちねぇ。うらやましいわぁ」


 リアトリスと瑠美が同時にジュリアンを睨む。斉賀が

 

「女って怖いなぁ」


 とまた場違いな発言をした。

 遠くからバイクの音が聞こえてくる。一番最初に気づいたのは斉賀だ。瑠美はB.A.R.の轟音が耳元で鳴っているからか気づいた様子はない。ジュリアンと攻防を繰り広げているリアトリスも同様で、その間にもバイクの排気音が近づいてくる。

 ひとけのない公道を走ってきたのは青いワルキューレルーンに乗った直樹だ。

 

「リアトリスっ! どいて!」


 背後からの声に気づいてリアトリスが飛び退く。一瞬判断が遅れたジュリアンが、ワルキューレルーンの車体にぶつかり身体をくの字に折り曲げ有る。

 赤いルージュの口元から低いうめき声が漏れた。

 

「ぐうぅっ!」


 ガガガガガガガガガッ、という音と煙を吐き出したワルキューレルーンが穴だらけの公道に黒いタイヤ痕を残して急停止する。ジュリアンはワルキューレのさらに先の公道に、人形のような軽さで何度か地面に打ち付けられて飛び跳ねたあと、蹴られた空き缶のようにゴロゴロと転がってから止まった。

 斉賀が笑顔のまま首を傾げる。

 

「かっこいいなぁ、それ。僕もやりたい」


 直樹が斉賀のほうを身もせずに答える。


「斉賀は運転センスないから無理」


「ひどい! 一応これでも君らの上司なんだけど!」


 リアトリスがケタケタと笑った。

 

「上司だから忠告してやってるんですよぉ~」


 斉賀が納得いかないと言いたげな顔をするが、リアトリスも直樹も瑠美も無視した。

 瑠美がB.A.R.を地面に転がったジュリアンに向け、狙いを定める。

 

「じゃあ、とっととあのクソビッチ拘束しちまいましょうよ」


 その瞬間、地面に伏したジュリアンが真っ赤な口元で笑ったのを斉賀は確かに見た。

 蜘蛛が巣にかかった獲物を見た時笑みを浮かべるとすればきっと同じような表情なのだろう。

 彼女の手に黒いボールのような――手榴弾が握られていることに気づいた斉賀が珍しく声をあらげる。

 

「みんな伏せて!」


 その場に、それこそ空襲のような大きな爆音が響いた。

 

 ◇

 

 手榴弾を用いて斉賀たちから逃げおおせたジュリアンは負傷した身体を引きずって裏路地を歩いていた。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。右肩が脱臼してアバラが2、3本折れているので逃げる道は吟味しなくてはいけない。

 壁に寄りかかってズルリズルリと歩みを進める姿はそれでも美しさを失わず、事情を知らない人間なら見た瞬間手をさしのべたくなるだろう。ゴルゴダの丘へ登るキリストのように敬虔で、一枚の宗教画のように清らかだ。儚い花が枯れる瞬間を擬人化したような女の背後から1人の男が声をかけてくる。

 

「ジュリアン・マクニールだな?」


 一見するとくたびれた会社員のような生真面目そうな男だ。多少神経質そうな目つきをしている。ここでジュリアンの名前を確認するということは恐らく刑事だろう。周囲に何人か人間の気配がする。

 囲まれていた。

 

 圧倒的危機を目の前にして、傷だらけの身体で、ジュリアンが笑う。

 

「『フォーカード』のセイルさんかしら。噂はかねがね聞いているわぁ」


 男の眉がピクリと跳ね上がる。

 

「機密情報を、なぜ一介の犯罪者でしかないお前が知っている」


 あら、とジュリアンが笑って見せた。


「国家機密なんて、流出するためにあるようなものよぉ」


「……お前に機密を売った人間の名前も、聞く必要があるようだ」


 男がスーツの下からスプリングフィールドXDを取りだしリリアンに向ける。

 右肩を押さえたまま壁にもたれたジュリアンは、銃口を真っ直ぐ見据えて赤いルージュの笑みを深くした。

 

「イイ男ねぇ。今日びなかなかお目にかかれないわぁ」


 セイルが不機嫌そうに眉をひそめる。

 

「そういう冗談は好かない」


「あらぁ、私は本気よぉ?」


「私はお断りだ」


 撃鉄を起こす音がする。周囲に隠れている人間も臨戦態勢に入った。

 圧倒的窮地。

 ジュリアンはもう一度、深く、深く、笑って見せた。

作中登場の銃とか車とかバイクとか

・コルト・ガバメント(http://ja.wikipedia.org/wiki/M1911 )

・ミニクーパー(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B_%28BMC%29)

・ワルキューレルーン(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%B3)

・B.A.R.(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0M1918%E8%87%AA%E5%8B%95%E5%B0%8F%E9%8A%83)

・S&W M29(http://ja.wikipedia.org/wiki/S%26W_M29)

・スプリングフィールドXD(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89XD)

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