IFの話
「たとえばリリアンが交通事故かなんかで、明日死んだとして」
学校の屋上。なんでもないような口調で隆弘が嘯いた。タバコの煙が紫乃の目の前を通り過ぎて行く。
「俺はぜってぇリリアンに会いたいと思うだろうよ」
「うん。隆弘クンリリアンのこと好きなんだもんね!」
笑顔で頷く紫乃は、不謹慎な話題に怒る様子もなくニコニコと話を聞いている。隆弘はまたタバコの煙を吸い込むと、白い煙を空に向って吐き出した。
「そうしたら僕が会わせてあげようか」
紫乃がサラリと提案してきたのは、ひどくおそろしいものだった。隆弘は慣れているのか諦めているのか眉一つ動かさず、青空に消えていく紫煙を眺めている。
「いや、すぐには会わねぇ」
「どうして?」
「怒られるから」
紫乃がパチパチと瞬きをする。不思議そうな顔だった。
「俺がすぐに会いに行ったらあの女はぜってぇ怒る。俺はただリリアンに会いたいんじゃねぇんだ。感動の再会の後には熱烈なキスが許されるような関係になりたい。なら、怒られるようなことはするべきじゃねぇだろ」
「ふーん」
おそらく紫乃は、隆弘の言葉など右から左だろう。ニコニコと相変わらず笑っている。隆弘はそんな友人の表情を確認して、長くなったタバコの灰を地面に落した。
「手段も道のりも、目的によって変わる。俺はな、リリアンが先に逝っちまったら、あの女と2人でやりたかったことを全部1人でやって、もうろくするまで生き抜いて、土産話を両手に余るほど抱えてあの女に会いに逝く。山ほどある土産話を聞かせてやって口説くのさ。ずっと、今すぐ会いたいと思いながら、あいつの喜ぶ顔を夢見ながらな。そうやって走り抜いてやっと俺の目的は達成される」
「やっぱり面白いね隆弘クンは! 見た目によらずロマンチストだし」
隆弘がふん、と鼻を鳴らした。
「なあ、人間なんてめんどくせぇもんなんだ。言ってることと本当に思ってることがちがうなんてザラにある。夢見てることを、ちがう理由で諦めることだっていくらでもある。この例え話だったら、俺は、リリアンにいますぐ会いたいって願い事を、あの女に笑って出迎えてもらいたいって理由で、諦める」
「うん」
「なあ、たとえばリリアンが明日死んで、俺がすぐに会いに行ったら、あの女は絶対に怒るんだ」
「それさっき聞いたよー」
へんなのー、と紫乃がケタケタ笑った。隆弘はタバコをコンクリートに押しつけて消火したあと、ニコニコと笑う友人の頭を乱暴に撫でようとしてやめた。手が力なく戻されて、結局コンクリートの表面を撫でる。
「なんであいつが怒るか、きっとお前はわからねぇんだろうな」
紫乃が笑顔のまま隆弘を見て、首を傾げる。そうしてその直後、やはり満面の笑みで頷いた。
「そうだね!」
隆弘が空を見上げる。途方にくれたような顔で呟いた。
「俺にも、お前にも、誰にだってな、手持ちのメダルを全部使い切らなきゃならねぇ義務ってもんが、あるんだよ」
ヨシノはやはり、不思議そうに首を傾げた。




