それがあなたの幸せとしても
ヨシノとリリアンの話を妄想してみた次第。うまく動かせてる自信はないけど雰囲気でおねがいします・*・:≡( ε:)
「私がひきとります」
彼の肩にそっと置かれたのは、真珠のように白い女の手だった。紫乃が不思議に思って女を見上げると、彼女はエメラルドのような瞳でまっすぐに、たくさんの大人達を見据えて今度こそハッキリと言う。
「私がこの子をひきとります。私が育てます。私に任せて下さい」
すべての反対意見をはねつける、ハンドベルのように美しいが力強い声。
たくさんの大人達が人形のように現実感のない1人の女に気圧されている様子を眺めていた紫乃は、そのまま女の――花神楽高校校長、リリアン・マクニールの保護下に入ることが決定した。
◇
「いやぁ、校長先生はすごい人だねー! 俺、まさか校長先生と一緒に暮らすことになるなんて思わなかったよー」
「リリアンでいいよ」
「はにゃ?」
紫乃が首を傾げると、彼の分の荷物をリビングのテーブルに置いた女もつられて首を傾げる。
「学校じゃまあ、校長先生でいいけど、家では名前で呼んでよ。一緒に暮らすんだからさ。堅苦しいでしょ?」
「リリアンって呼べばいいの?」
「できればそのほうが嬉しいね」
紫乃は少し考え込んだあと、ニコリと笑った。
「わかったよー、リリアン!」
彼の答えに満足したのか、名前を呼ばれた女がますます嬉しそうに笑う。紫乃はつられてニコニコと笑ったが、彼女がなぜ嬉しそうなのかはまったくわからなかった。
リリアンはそんな紫乃の内面がわかっているのかいないのか、笑顔のまま部屋の間取りを説明していく。
「奥の洋室が今日からお前の部屋な。タンスとかはもう用意してあるから洋服とか整理しちゃって。奥が風呂とトイレと洗面台。合い鍵はコレな。なんか質問ある?」
「ないでーす!」
「じゃあ、わかんないことがあったらその都度聞いてね」
「はぁーい」
紫乃が荷物を持って部屋に向う。途中で女が
「紫乃」
と声をかけてきた。
「なにー?」
振り向くと、ふんわりとした笑みを浮かべた女が紫乃をみていた。こんな笑い方をする人間だったかなと疑問に思う。
第一印象はもっとハイテンションな感じだと思っていたけれど。
「今はわからなくてもいいから、いつか、私がなんで、アンタに名前を呼ばれて嬉しかったのか、わかってくれたら嬉しい」
「んー、わかるように努力するね!」
「うん」
女の手がおもむろに、紫乃の頭をくしゃりと撫でた。思わず片目を瞑った紫乃が、目の前にある女の笑顔をみて目を瞬かせる。
褒められたのかな?
自分を引き取り育てると言った女の行動が、たまによくわからない。そもそもなぜ自分を引き取るといったのかすらも紫乃にはよくわからなかった。
「君が今幸せでも、明日に光があったとしても、私はもっと幸せになって欲しいし、もっと光に溢れた方向に行って欲しい」
いつかのように肩に手を置かれた。女の顔から笑みが消えて、真剣な表情をしている。張り詰めてさえいた。
「……お前には、わからないことが多すぎる。わかってなきゃいけないことすら、まだわかってないんだ」
紫乃には意味がわからない。リリアンが、紫乃の部屋だという場所のドアを開ける。
「いいか紫乃、そっちに行っちゃいけない。私は、お前をそっちに行かせたくない」
「……部屋に入ったらだめなの?」
紫乃が首を傾げると、リリアンがため息をついて笑った。
「今はまだ、わからなくていいよ。ごめんね引き留めて。荷物、整理しちゃって」
◇
翌日、紫乃は195cmの巨体を誇る西野隆弘に呼び止められた。
「おい、ヨシノ」
慣れ親しんだあだ名で呼ばれた紫乃が振り返って笑みを返す。
「隆弘クンだー! どうしたの?」
紫乃よりかなり背の高い彼は、紫乃の笑顔をみて複雑そうな表情を浮かべた。
「お前、校長と一緒に住んでんだろ?」
「うん、そうだよー!」
「どうだった?」
「なにが?」
紫乃が首を傾げると、隆弘が低く呻って頭を掻く。
「なんでもいいんだが……いや、ほら、料理美味かったとか、テレビ何みたとか」
「あー! そうか、隆弘クンは校長が好きだったんだっけ!」
紫乃が笑顔で指摘すると、男は開き直ったように胸を張った。好きな人のことを知りたいのだろうと判断して、彼は面白い友人になんとか有益な情報を提供しようと思考を巡らせる。
そして、思いついた。
「あ、そうだ! 家にいるときはリリアンって呼べって言われたよ!」
直後、西野隆弘が廊下に崩れ落ちたのは言うまでもない。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおお!」
彼の悔しさと羨望と嫉妬と安心が入り交じった絶叫が、紫乃に性格に理解されることはなかったのだけれども。
「はっ、そうだこれからはヨシノと同じ年ごろの男子代表としてリリアンの子育て相談にのれるんじゃねぇのか!」
暫くして廊下に這いつくばったまま顔をあげた隆弘に、背後からテオの
「ポジティブシンキングすぎるだろタカちゃん!」
というツッコミが降ってきた。
紫乃は彼らのやりとりをみて楽しそうに笑い、花神楽高校の1日が、今日も始まる。




