無自覚トラブルメイカー(ヴァレさんと隆弘)
学パロでヴァレさんと隆弘の絡み的なアレとおもって
「くっそ眠ぃ」
バラバラと本のページを捲り、300ページの本を5分で読み終えた隆弘は疲れた目を手で覆い軽いため息をついた。昨日夜更かししすぎたのが原因だろう。確かにテオにゲームで負けたのは悔しかったが、だからといって格闘ゲームを朝の3時まで練習したのは自分でもおかしかったと思う。図書館はひとけもないし静かなので眠気がことさら襲ってくる気がした。背伸びをして椅子を鳴らすと、カウンターに座っていた図書委員長のシギが隆弘を見てくる。
静かにしなければいけないと思うと、不思議と肩がこるものだ。
目当ての本は読み終わったし次の授業は屋上でサボろうかと考えていると、背後から控えめに声がかかる。
「あ、あの……」
隆弘が振り向くと、茶色の長い髪をハーフアップにして右側のサイドだけ三つ編みにした1年生が立っていた。確かテオがなにか言っていた気がする。性別がよくわからないとかなんとか。ヴァレンタインという名前だったと思うが、あっているだろうか。
「なんだよ」
尋ねると、ヴァレンタインは少し脅えたように肩を揺らした。強面でガタイの良い隆弘はよく初対面の人間に脅えられることがある。
「あ、あの、すいません、その本、読まないなら、貸してもらえますか……?」
「ああ。いいぜ」
隆弘が本を差し出すと、ヴァレンタインがホッとため息をつく。目当ては本だったようだ。肩の荷が下りたとでも言いたげなヴァレンタインに、なにをそんなに緊張することがあるのかと内心首を傾げつつ、隆弘が
「ああ」
と思い出した様に呟く。
「ただその翻訳、出来がイマイチだぜ」
その時のヴァレンタインは、まるで目の前に宇宙人が現れたかのような、心底驚いた顔をしていた。
◇
「お楽しみのところ悪ぃんだがよ」
フィリップモリスの煙が路地裏を漂い空に消えていく。隆弘が見据えた先には5人ほど他校の生徒がいて、壁際にヴァレンタインが立っていた。カツアゲかイジメのように見える。まあ多分そうだろうと辺りをつけて、隆弘はまたタバコの煙を吸い込んだ。
「テメェらうちの学校の奴になんか用か?」
恐らくヴァレンタインと同じ高校1年生の五人組は、隆弘が軽く睨みつけただけでビクリと肩を揺らし脅えたように後ずさる。これを見つけたのが風紀員の白井祐未あたりだったら警告も威嚇もなくリーダー格の後頭部に鉄パイプがぶち込まれていただろうから、脅えるのではなく感謝してほしいものだ。
隆弘が首を傾げて、もう一度尋ねる。
「場合によっちゃあ、容赦しねぇぞ?」
5人が5人、弾かれたように逃げ出した。隆弘は面倒なので追うつもりもない。ヴァレンタインは5人をぼんやり見送ったあと、隆弘の目を見てあわてて頭をさげた。
「あ、ありがとうございます!」
「別に通りかかっただけだぜ」
図書館で会話をした翌日にこうなるというのも、悪意というか偶然というか、妙なものを感じる。隆弘が眉をひそめて頭を掻いた。力加減がわからないのでこの手の人間は苦手だ。そういえばテオが、ヴァレンタインはいつもツァオと一緒にいる的な発言をしていたが、そのツァオとやらは一緒ではないのだろうか。
同じ学年の連中でさえ顔と名前の一致しない人間が何人かいる隆弘にとって、他の学年の生徒などあやふやもいいところである。生徒全員のキャラがやたら濃いと言われる花神楽でさえこうなのだから、普通の人間と相対した時果たして存在を認識できるのだろうかと、隆弘は自分の将来が少し不安だった。
まあそんなことはどうでもいい話だ。
今後目の前の生き物にどう対処しようか苦慮した隆弘は、とりあえず現状を把握しにかかることにした。
「あー……よく絡まれんのか?」
「い、いえ、今回はたまたま……いつも、ツァオくんがいるから……」
「今日はいねぇのか」
「も、もうすぐ来ると思うんですけど、待ち合わせで」
どうやら相方を待っている間にからまれたらしい。タバコの煙を吐き出した隆弘の視界に、サッと一瞬横切る影があったが見なかったことにした。メガネをかけた男の影だった気がする。それとさっきからテオの弟ーーといってさしつかえないだろうーーとその仲間2人がチラチラ視界に入ってくるが、目の前の生き物はそんなに要注意人物なのだろうか。
しばらく思案した隆弘は、大通りからバタバタと慌ただしい足音が聞こえてくるのを察知してもう一度タバコの煙を吐き出した。
「……連れとはなるべく離れねぇほうがいいぞ」
「? あ、はい……そうですね。また絡まれたら困りますから……」
「……そうだな」
足音が近づいてくる。ヴァレンタインが隆弘の背後を見て笑顔を浮かべた。
「あ、ツァオくん!」
どうやら連れが来たらしい。合流すれば(絡んできた五人組に対しても、さっきから視界を横切る不穏な影に対しても)安全だろうと判断した隆弘がヴァレンタインから離れる。
正直、なにを勘違いしたのか背中から敵意を感じるので、これ以上面倒なことは避けたいし、顔見知りの犯罪歴など知りたくもないというのが本音である。
「じゃあな」
「あ、ありがとうございました!」
とにかく視界に映り込んできた影の記憶を消そうとやっきになりつつ、隆弘はヴァレンタインの言葉に片手をあげて答え、その場を後にしたのだった。




