晴天エゴイスト
・晴天エゴイスト
真っ青に晴れ渡った空を見て国語の授業がバカらしくなった隆弘は3時限目をフケて屋上にあがることにした。屋上ならタバコを吸っても問題あるまいと判断して(生徒指導の番犬様は鼻が利く)ポケットに忍ばせていたショートピースを1本取り出して火をつけた。
給水塔の上で昼寝でもするか。
軽い気持ちで屋上の扉をあけた隆弘はそこで意外な先客を見つける。
「奈月か」
「……西野隆弘?」
性別不明のピンク髪、奈月がフェンスにもたれかかる形で座っていた。
「てめぇもサボりか。たいがい保健室にいるもんだと聞いてたが」
「保健室だと追い出されるから」
「ほう」
眼下の校庭に目をやると体育の授業をしていた。いつまでも見ているとそれこそめざとい番犬に見つかりかねないのですぐに視線を外す。
「まあお互い様だな」
言って奈月のほうに顔を向けると距離を取られているようで嫌な顔をされた。
「タバコの煙がくるよ。臭いが付いたらどうするの」
「てめぇがこんなもん吸ったらブッ倒れることくらい学校の誰だって知ってんだろ」
「疑われるのが嫌なんじゃなくて、臭いが付くのがいやなんだよ」
それにそんなの吸ってたら本当にバレるよ。と心底嫌そうな顔で言われてたので隆弘は新鮮な気持ちになった。
「そこまで毛嫌いされたのは初めてだぜ」
「喫煙者しか周りにいなかったんだろ。気長な自殺だか気長な心中だかしらないけどご苦労なことだね」
「気長な断食してるてめぇにだけはいわれたくねぇな」
ククッ、と喉の奥で笑って見せると奈月がますます眉を顰めた。
「案外おしゃべりなんだね。物静かなタイプだと思ってたよ」
「お姫様は物静かな男がお好きかい? 女は騒がしいほうが好みみたいだが」
軽口を叩くと睨まれる。隆弘は肩を竦めて給水塔の上へ避難することにした。
「そう恐い顔するんじゃあねぇよ。せっかくの晴天だ。お互い気分良く行こうぜ」
隆弘が奈月の前を通り過ぎる。奈月がなにかに気付いたようにふっと顔をあげた。
「なにこれ」
給水塔に登る直前奈月の声がしたので隆弘は振り返る。
「あ?」
「タバコの臭いじゃない」
「あぁ」
タバコの煙を吐き出して、隆弘はまた喉の奥でククッ、と笑って見せた。
「フカすとバレちまうだろ、臭いで」
「……香水もよくないんじゃないの」
「香水だってのは解るのか。生憎体臭がキツいタチでね」
それが香水を指摘されたときの常套句だとわかったのか、奈月はひとつため息をついて興味を失ったかのように寝転んだ。
真っ青な空に下に、体育の授業の喧噪だけが響いている。
給水塔に登った隆弘は視界の隅で奈月が寝転んでいるのを捉え、自分も寝転んで空を見上げた。




