サイレント・サイレント
花神楽高校の図書委員長はたいていいつも図書室で本を読んでいる。ライターことライラ・タイタニアもたいがい図書室に引きこもっているほうだが、それにしてもシギ・ロードのヒキコモリっぷりは度を超していた。しかしほとんど喋らない。定例会議の時にふたことみこと発する程度だ。声を発する暇があるなら活字を追うといった感じで、活字中毒揃いの図書委員の中でも重度の活字中毒者と言えた。
「キヒヒッ、委員長ぉ? 先日提出した新刊候補一覧には目を通してくださいましたかしらぁ?」
先ほどまでミス・マープルを読んでいたシギが顔を上げた。彼はライターと目を合わせると横に置いてあったファイルからプリントを一枚取り出しライターのほうへ押しつける。プリントを受け取ったライターは紙片に委員長の署名がしてあることを確認し、今度はこれを司書のロッソへ見せに行く算段をつけた。プリントを何気なく見ているあいだに、とある一冊に赤いシルシがついているのに気づく。自分がシギへプリントを渡した時はつけていなかったのでおそらくシギがつけたものだろう。
「まあ。委員長は坂口安吾がお好きでいらっしゃいますの?」
シギが一瞬目線をライターに向けた。すぐ目を逸らす。返答を受けたライターは軽く肩を竦めた。
「特にそういうわけでもないんですのねぇ。活字ならなんでもいいというのもいかがなものかと思いますわぁ」
まさか広辞苑なんて読んでいらっしゃらないでしょうね。
ライターが冗談めかしていうと、シギの眉間に微かなシワができる。
「冗談ですわよぉ。本気になさらないで」
すぐいつもの無表情に戻ったシギが本のページをめくる。2秒ほどその姿を見ていたライターは
「邪魔してごめんあそばせぇ」
という言葉とともに潔くその場を去った。
水を打ったような静寂の中、シギが本のページを捲る音だけが稀に響く。
図書館は今日も静かだった。




