八話
とうとう、桃理は最終学年の三年生になった。龍と竜以外にも支持者を増やし、自分ができる限りでは最高の環境を整えたと胸を張れる。原作通りに生徒会や風紀委員は攻略対象達が着き、彼らとの距離はそこそこ良いと思う。相変わらず真には嫌われているが、今更仲良くと言われても難しかったので目を瞑ろう。
高校の二年間で佐藤美紀が現れないことに焦りが生まれてきたが、よく考えると転生にしろトリップにしろ、原作が始まってから出て来るのではないか。むしろ、原作が始まった時点で出て来ないとかありえない。逃したら逆ハー展開ができなくなってしまう可能性が出てくるので、今年こそ現れるのを桃理は確信している。
鼻歌を歌いながら廊下をスキップしていると、外の美しい景色に目を取られ止まった。桜が咲き乱れ花弁が舞っていて幻想的な光景に懐かしさを感じ、ゲームのスチルに似ているなと思い当たると窓に張りつき待ち人を望む。
桃理はゲーム主人公である万町陽菜が佐藤美紀ではないかと疑っている。一応、原作キャラは男も女も調べてみたが、逆ハー展開を狙うような痛い子はいなかった。よって、彼らは佐藤美紀ではないと決めつけているが、原作キャラでも調べられない人物はいるのだ。
万町陽菜と彼女の双子の妹である月菜の二人だ。彼女達は学園に所属していたものの通学はしておらず、鬼の総本山から出て来ないのでハッキリとしたことは分からなかった。露骨な調べかたをして陽菜の初恋の人である生徒会の顧問、万剛司に目を着けられても嫌だし、残念ながら後回しになっている。白黒つけないうちは対立しないほうが良いが陽菜にはいずれ接触するつもりだ。原作通りにしていれば敵にしても味方にしても問題ないと考えていると、お目当ての人物の視界に移り食い入るように外を見る。
「見ぃつけたぁ」
両手で窓を叩きつけ鼻先が触れるくらいくっつけた先には、ゲーム主人公の万町陽菜が桜の木の下で何かを決意するように校舎を睨みつけている。さすが主人公、絵になる美しさだ。顔自体は中の上か上の下ぐらいだが、纏っている空気が他の人間とは違う。選ばれた人間と言うべきか、主人公補正なのかは分からない。
本物でも偽物でも徹底的に調べてやる。そして、もしも佐藤美紀だとしたら、ようやく願いが成就して終わる。
脳内シミュレートして絶望して悔しがる佐藤美紀を嘲笑う自分を思い描き甘い痺れに悦に入る。永かった復讐の始まりに桃理は笑いが止められないほど歓喜した。
――さあ、原作通り物語を始めましょう。
今回も短いです。
でも、ようやく原作が開始しました。
復讐相手も近いうちに登場します。