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六話

 龍族を掌握して一安心したことで中等部へ入学した。残念ながら闇理だけ二つ下なので初等部になるのだが、本人は仲間外れな意識があるらしくご機嫌斜めになり、入学時にはぶすくれていた。中等部が寮生で初等部は自宅通学で、さらに一緒にいられないという点もあるからかもしれない。今のところ闇理と李理は良いライバル関係を築き、切磋琢磨頑張り刺激し合い高め合っている。このごろはタッグを組み夜理に二対一で挑んではボコられ、どこが駄目だったのか反省会を開いているのを見たときは笑ってしまった。案外、この二人は将来くっつくような気がする。

 恋愛事は置いといて、中等部はさざらしの家と同じような魔窟だった。入学したばかりのころ、肌に刺さる露骨な視線には様々な感情が読み取れた。初等部で見なかったから誰かしらといった好奇心と九の龍の妖魔と隣を独占しているので嫉妬を買い、欠片も強く見えないので憐みを、可愛いなぁとこの手で汚してしまいたいという恋情というか色欲、弱いから九の隣は相応しくないと言う殺意。

 予想していたが学園は弱肉強食で能力の高さ、強さこそが全てで弱い者は軽んじられる。通う生徒達が普通の人間でない上に近代兵器すら凌駕する力を持っているので仕方ないことだが、九の中で歴代最高と言われている夜理の傍に桃理がいるのが気に食わない者は多い。といっても、夜理こそが桃理にべったりしているのだが、夜理信者によると桃理が嫌がる夜理に纏わりついているように見えるらしい。そこからはべったべたな王道展開が待っていた。教科書が隠されたり上履き入れに入れられた手紙に仕込まれた剃刀の刃、机にマジックで悪口を書かれたり、バケツで水をかけられたり、体操服を盗まれたり、階段から突き落とされそうになったり、挙げていけば切りがなくて危うく桃理の腹筋が崩壊しそうになってしまい、顔を両手で隠して俯いていたのが泣いているように見えたのか、夜理が全て相手を捻じ伏せて生まれてきたことを後悔させて一時期不登校者が相次いだ。それ以来、学園内の暗黙の了解ができ、桃理に要らぬちょっかいをかけて夜理を怒らす馬鹿者はいなくなった。

 入学当時は王道的な苛めのせいで周囲が慌ただしかったため様々なことを見落としていたが、ある程度余裕を持てるようになると桃理の目には色々な物が映るようになってくる。

 その一つが自分の姿だ。薄々そうではないかと感じていたが、確信したのは髪をツインテールに結いリボンを巻いたときだった。制服を高等部の物に変えたらどこかで見たことがあるよう姿で、唸りながら口を開けば独特の口調が流れ出てくるのだからピンとくるどころではない。丸分かりだ。

 桃理の容姿は特徴的で、中学生になっても伸びない身長にぺったんこで成長見込みのない胸。目はパッチリと大きく、マシュマロのようなふっくらとした頬、手はぷにぷにとしていて幼さを強調している。どこもかしこもミニマムサイズで、あどけなく純粋そうな顔立ち。フリルがたっぷりついた甘いロリータファッションが似合いそうな桃理は、ゲームキャラの一人と似ているというかまんまの姿である。気付けないほうがおかしいのだが、分からなかったのは無理のないことで、ゲームでは名前が出てこなかったからだ。

 ただのモブと思うかもしれないが龍と竜系のキャラに影響を与えるキーキャラクター。彼女の会話に失敗すると、龍と竜系のキャラのフラグが圧し折られて攻略不可能になる。場合によっては即デットエンドへと繋がり、例えどんなに相手の好感度が高くても無駄な抵抗になるので、ぶっちゃけ生前嫌いなキャラだった。

 嫌なのはそれだけじゃない。彼女の能力自体は気に入ったし活かす努力はしてきたが、変えられないことも多々あるのだ。どんなに努力しても無駄で、結果が見えてこないのは悔しい。身長も胸も諦めはついたが、どうしても譲れないことはある。

「私と夜理は仲の良い友達なの」

 例えそう言いたくても勝手に自動変換されて口調は変えられてしまう。

「桃理ちゃんと夜理ちゃんは、とって~も仲良しさんなんだよ」

 語尾には星とかハートとかそんな記号がつきそうな馬鹿っぽいブリブリの言葉遣いが直せない。容姿的に言ってもおかしくない見た目なのが幸いだが嫌なことに変わりはない。いっそのことロールプレイだと自分を誤魔化しているが、度々自分の痛さに部屋や風呂の時間に鬱になり泣いてしまう。これもそれも全て佐藤美紀のせいだ。……佐藤美紀のせいなんだ。

 桃理の前世、雛子を殺した佐藤美紀。あの電波女が見つからない。夜理が生徒会長になるついでに桃理も副会長になったので、学園のデータベースを使って生徒の情報を見たのだがいない。桃理みたいに転生するんじゃなかったのかと訝しむが、名前が変わったせいで見つからないのかもしれない可能性はある。ただ、逆ハー狙いっぽい女子も見当たらなく、いるのは原作キャラの美形達に憧れて黄色い声を出す女子達のみ。

 せっかく気合入れて中等部から通い出したのに当てが外れたみたいだ。頬を膨らませて唇を尖らせていると、役員で原作の生徒会副会長になる妖狐の二真したながまことが眉を吊り上げる。大方仕事しない桃理に腹を立てているのだろう。

 からかってやろうと口を開こうとしたら、原作の生徒会長になる吸血鬼の一紅夜はじめこうやがケーキを持って現れる。

「きゃ~ん、ケーキ、苺の乗ったケーキだぁ」

 桃理本人としては「やった、苺のショートケーキね」と言いたかった。もう、いいや、自動翻訳にはもう慣れたよと心の中で乾いた笑いをしながら、表では花を飛ばす勢いで喜ぶ。

「紅夜! 貴方はまた、九曜先輩を甘やかして、いい加減にしてくださいよ。九曜先輩も九曜先輩です。もう少し生徒会の一員としての自覚を持っていただきたい。そもそも、なぜ貴方みたいな能力も高くない者が……」

「真ちゃんてばこっあ~い。難しいお話なんてぇ、桃理ちゃんは嫌いなのですよーだ! そゆのは夜理ちゃんにどーぞぉ」

 夜理の名前を出せば真は苦虫を噛んだような表情をしてグッと押し黙る。いくら妖魔達を束ねる上位集団の生徒会役員でも格の差は存在し、現在のヒエラルヒーの頂点は龍族の夜理だ。次点で吸血鬼の紅夜で、それから九尾の真、淫魔の原作キャラ、生徒会補佐達、最後に桃理だろうか。

 プライドの塊のような真は自己にも厳しく、生徒会のメンバーという誇りに負けないよう努力家であり、二という苗字から分かる通り八家の妖魔であり強い。しかし、彼は一度桃理に絡み盛大な失態をやらかした前科者の一人だ。温厚と言うか桃理が関わらなければ沸点の低い夜理を敵に回し、死ななくて良かったねというくらいボッコボコにされたことがある。それ以来、夜理のことが苦手になりなるべく近寄らないようになったのだが、夜理がいないと桃理に絡んできてウザいのでたまにからかってストレス発散させてもらっている。

「そもそもぉ、桃理ちゃんは生徒会に興味ないもん。だ~いしんゆーの夜理ちゃんがどうしてもぉってお願いするからね、入ってあげたんだよぉ。むぅっ、やっぱり、桃理ちゃん辞めちゃおうっかなぁ? 真ちゃんが意地悪言うって夜理ちゃんに喋っちゃお~」

「なっ?! わ、私は正論を言ったまでで、どうして九先輩が出てくるのですか!」

「ぶぅーぶぅー、桃理ちゃんを生徒会に誘ったのは夜理ちゃんだも~ん」

「えー、桃理先輩が辞めるんやったら俺も辞めるよ。ってか、何、可愛い女の子苛めてるん? 二って酷い奴やな」

 桃理を守るように抱きついてくるのは、原作の庶務になる淫魔の四灯魅あずまとうみだ。男嫌いで根っからの女好きだから味方してくれるし悪乗りもしてくれるので、お礼にと抱きつくとデレデレした表情で頭を撫でてくれる。淫魔というゲーム定番のエロ担当のフェロモン系美形だが、今はかなり残念な感じになっていた。声もエロくてエセっぽい関西弁なのも萌えると孕むーなどと生前は黄色い声を上げたものだが、いや、今も声にクラクラ魅せられるものの鼻の下を伸ばす姿には正直引く。内心、ロリコンではないかと疑っている。

「何ですか、私が悪いって。寝言は」

「もう、皆喧嘩をしちゃダメだよ。はい、桃理先輩どうぞ。熱いので気をつけて飲んでください」

「やぁん、紅夜ちゃんってば誰かさんと違って気が利くぅ! 桃理ちゃん、ミルクティーだぁい好きなの」

「可愛ぇなぁ、桃理先輩は。今日は九先輩おらんし、むっさい男ばっかの中で一輪の可憐な花やなぁ」

「こんなちんちくりんのどこが可憐な花ですって」

 鼻で笑う真を桃理は身長差のため上目遣いで睨みつけてから夜理に告げ口することに決定した。ゲームではありな性格でも実際真みたいなキャラはイラッとする。せいぜい夜理にボッコボコにされればいいのにと桃理は酷いことを考えながらミルクティーを飲む。

「真君、お口にチャックしてね」

 桃理の苛つきを感じてか、紅夜がにっこりと笑いながら唇の前で親指と人差し指をつけて横に引く動作をする。おっとりとした口調だが、どこか冷たく聞こえているのは目が笑っていないせいだろうか。普段は黒い目が赤く光っていることから怒っているのが窺える。身の危険を感じたのかぶっすりとした表情で真はそっぽを向き大人しく黙った。おっとりしていていつもニコニコしている紅夜も中々怖いらしい。


生徒会メンバー登場です。

高等部で会長になる吸血鬼の一紅夜に副会長の九尾の二真、庶務の淫魔の四灯魅。

書記の三は高等部からなので、今回は出てきていません。

ちなみに、副会長はもう一人いてライバル兼攻略相手の女子です。


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