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五話

 宗家に住むようになってから、いつの間にか桃理の苗字が九曜くように変わっていた。両親とも引き離され親戚にも会えず桃理は李理とともに九の家に保護の名目のもとに囚われている。そんなことをいうと聞こえは悪いが、専属の家庭教師がいて勉学は捗るし、欲しい物は何でも手に入る環境で不満はない。唯一の心配は両親だが生きてはいるらしい。当主が言うには会わないという念書を取り交わしているから、二度とまみえることはないそうだ。寂しい気もするが正直助かったという想いもある。

 今世の両親は温かくて子ども想いの善人だ。一緒にいると心地良くてぬるま湯に浸かったというか、眠りにつく前の微睡まどろみ感というか、与えられる愛情は気持ちが良く荒んだ心が癒されるような不思議な効用があった。

 別に前世で家族仲が悪いわけではなかったが、今世の両親が特別な存在すぎたのだろう。しかし、同時に佐藤美紀に対する復讐心が削られていくような恐怖感も味わっている。桃理自身が気づかない押し殺した感情を当主は読み取って、両親と引き離すことにしたのだろう。

 九曜桃理。変わってしまった苗字に戸惑うが、おかげで覚悟を決めることができた。この世界では苗字に着く数字は大きな意味を持つからだ。特に妖魔は数字の前後に何の漢字も入っていないのを一族の宗家と呼び、数字の一から四、飛んで八から十、さらに飛んで万の字を持つ八家は妖魔の中で恐れられ傅かれている。

 桃理達龍族は九の数字を所持していて、宗家を九と書いて『さざらし』と読む。九曜みたいに九の字が入るのは分家と呼ばれ、歴史と血の交配により力を維持しているいわゆる名家だ。基本的に苗字というものは変わらないものであるが、稀に分家出身の者が子を残さずに死したときや、争いにより血筋が絶えたなど様々な事情で家が取り潰されたりする。そこで、功績を上げた者や宗家筋の跡取り以外の男子、先祖返りで分家並の能力を持って生まれた下位の者に与えられる。下から数えたほうが早い桃理の家が、というよりも桃理に九曜の家が与えられ幼くして当主になるのだが、それに違和を感じないものはいないはずだ。当主は今のところ桃理のことを妖魔使いだとは発表していないが、分かる者には一目見ただけで分かるし、感じられない者は後々真実にたどり着けるようになっている。龍の一族にとっての公然の秘密になっているようだ。

 元々、強い妖魔ほど子どもができにくいのだが、妖魔使いがいるだけで子どもが生まれる確率が上がる。つまり、生きているだけで一族の中で強い妖魔が生まれるので、一族の繁栄は約束されているようなものだ。さらに、妖魔使いとの仲が良いほど妖魔の能力が増すというオプションがある。復讐を誓う桃理が目を付けないわけがない。

 積極的に強い人が好きだと屋敷内で吹聴して回ると、彼らはそれだけで修業に精を出すようになった。能力は才能に左右されるが、努力によっても変わる。なぜなら近くに桃理という妖魔使いがいるから、才能の値が引き上げられるのだ。ゲームで言うならばレベル上限が取り払われた状態になっている。

 自分自身で龍の能力を使えないのは残念だが、桃理の代わりに使える者はいくらでもいる。例えば九姉弟とか双子の妹もそうだ。九姉弟は希少な闇属性の能力を持ち主で、攻撃に防御、果ては空間操作までもできる。妹は地属性で防御力が高く、数字付きの出身じゃないものの名家並の強さを持つ。このまま育つならば、チートを通り越してバグになるかもしれない。想像すると楽しくて桃理はつい笑ってしまう。自分は決して強くなれないので育成ゲームをしているような気分だ。

「桃理様、楽しいの?」

 物思いに耽っていたら夜理が袖を引っ張り、現実世界へと引き戻してくれる。おっと、危ない危ないと首を振り、目の前で組手している二人に目を向けた。李理と闇理が組み手をしているが、血という素養の違い、実力差があり過ぎるので闇理が始終有利に進んでいるように見える。ところが、李理は地龍なので防御力が高いのと、毎度受け身を強いられるので自然と防御が上手くなっているのだ。攻撃をもらっているようであまりダメージが通っていないことに闇理も気付いていて、打破しようと頑張っているが倒せないことに苛ついて冷静さを欠いている。ほんの少し前だったら苦戦はしても倒せていたからムキになっているのだろう。良い傾向だ。

 ゲームでは闇理は夜理に対してコンプレックスを抱いている。どんなに努力しても届かず勝てる見込みのない高みの存在。幼いころは自慢の姉だったが大きくなるにつれて目の上のたんこぶになっていく。一族の中でも実力差を見せつけられ陰口を叩かれ息苦しいのに、学園でも目立つ姉の存在に闇理の心が休まる場所はない。極めつけは西洋の竜族に嫁ぐことになるから次期当主の座を降りたことだ。一族の当主は一番強い者がなるから二番手の自分は姉を支えようと補佐になろうと頑張ってきた努力は水の泡になった。さらに比べられため息を吐かれる中、努力しても何も良いことはない、どうでもよいと心を閉ざして無関心になる。

 公式設定から考えると闇理事態普通に天才なのだけど、夜理が凄すぎるという一言に尽きた。比べる対象が規格外の夜理だから心を閉ざしたのではないかというのはプレイヤーの誰しもが考えることで、二次創作ではもしも闇理に幼少時からライバル的存在がいたらとなどというものが多い。このまま李理が闇理のライバルになったら、努力するのを止めず心を閉ざさない可能性が出てくるだろう。そうなれば原作よりもずっと強くなるはずだと桃理は見当をつけた。李理も強くなれるし一石二鳥だと浮かれながら声を上げる。

「みぃんな、強いから楽しぃよぉ。でも、桃理ちゃんはもっともっと楽しくなりたいなぁ」

 ねぇっと夜理へと顔を向ける。

「どうしたらいーと思う?」

 夜理の目が瞬き、考えるように視線を迷わせる。

「ハイハーイ! おまちゅりがたのしーよぉ」

 いつの間にやら李理が駆け寄り、桃理の膝に顔を乗せ腰に手を回す。傷だらけで痛々しいのとは反対に、李理の表情はニコニコと楽しそうだ。髪を撫でてあげると目を細めて気持ち良さそうにするので、甘やかすように繰り返してあげると不満そうに闇理が割り込んでくる。

「とーり様、闇理はぶとーかいが良いです」

「闇理、それを言うなら武道大会でしょ」

 弟の間違いを夜理が直す。舞踏会と聞いて童話のシンデレラを思い出していた桃理は笑って手を叩く。

「面白そーだねぇ」

 龍族限定の武道大会を開き優勝者には豪華賞品をやれば盛り上がるか。桃理自身お金はないが当主にお願いすれば何とかなるだろう。毎年開いていたらお金がかかるだろうし、三年に一回くらいにして強さを競わせる。

 復讐するにあたって戦力アップは大切だ。そろそろ頃合いだろうし、桃理は一族の掌握に入ることに決めた。

 なので、ゲームに出てくる私立零宮学園に通うのは中等部からにしようと思っている。妖魔とか術者が通う学校で幼稚舎から大学部まであり、名前だけ在籍させといて実際に通わないのも校則で認められていた。理由は能力を上手く制御できないで暴走させたらいけないからだ。数字付きも怖いが、八・五家の一桁の暴走なんていったら校舎が全壊するならまだ良いほうで、周囲一帯が蒸発なんてことになったら誰も責任なんて取れない。

 幼稚舎と初等部の期間は龍の一族全体の能力アップと手駒を強くしておきたい。時間はお金じゃ買えないから思い立ったら吉日だ。

――さあ、手駒共私のためだけに強くなるのよ!

 桃理は幼子とは思えない暗い笑みを浮かべ、彼女に惹かれる子ども達は陶酔の表情でこうべを垂れる。全ては主の御心のままに。


妖魔八家は『はじめ』『したなが』『さん』『あずま』『はち』『さざらし』『つじ』『よろず』です。

ついでに、術者五家は『』『ろく』『さとる』『もも』『ちよん』。

全てが攻略対象ですが、皆は出てこないです。

色々キャラは考えてありますが、出番ないので無駄設定も良いとこです。


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