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十話

 足をブラブラさせながらスプーンで生クリームを掬い口に入れる。キャラメルソースと絡み合い絶妙なハーモニーを醸し出し、今度はバナナを巻き込んで食べるがあまりの美味しさにスプーンが止まることはない。今回のパフェは当たりだなんて桃理は締まらない表情でありつく。

「桃理様」

「ふぁむんん?」

「抹茶も美味しいですよ。どうぞ、お食べください」

 食事中に話しかけられ名残惜しげに呑み込み、差し出されたスプーンにえいやとかぶりつく。ふんわりとした甘さが口の中に広がっていき美味しい。甘いほうが好みだからキャラメルを選んだが、抹茶は抹茶で美味しく次はこっちを頼んでも良いかもしれない。心の中でメモしながらも手は休めない。

「うま、うまぁ~。夜理ちゃん、ありがとー」

「桃理様が喜んでいただけたら十分です。最近、落ち込んだり苛々していることが多かったようなので」

「あにゃにゃにゃにゃ、見破られちゃったぞぉ。さっすがぁ、大しんゆーの夜理ちゃん」

 おどけた調子で拍手すると僅かに夜理の表情が柔らかくなる。

 夜理の言う通り、桃理は佐藤美紀が見つからなくて腹を立て落ち込んで機嫌が悪い。誓路により学園内にいることが分かって積極的に動いているのに成果が上がらなくて悔しくて地団太を踏むことばっかりだった。

 何よりも一番怪しんでいた相手であるゲーム主人公の万町陽菜が白っぽいのだ。自分を支持する手駒達を使って調べ、自身の目でも観察した結果奇怪な行動は見当たらない。原作通りの人格らしく妖魔達、特に鬼を必要以上に避けていて、逆ハーを望むような痛い子ではないよう映る。

 攻略キャラと出会っては心底嫌そうな表情をし、自分の能力を消せる能力者を捜そうと学園内を歩き回っていて、陽菜は表情が顔に出るタイプなので見ていて面白い。仲が良い異性は夜理の婚約者である生徒会の書記、竜の三爽志さんそうしくらいだ。まだまだ、恋愛というよりも友情寄りで、それなりに仲の良い先輩後輩といった感じで進展はない。

 ゲームでは龍と竜は一定の好感度に達すると、陽菜は桃理と接触することになっている。そろそろ、一度目の接触をしてもおかしくないくらいの好感度だ。登場場所はランダムになっていたので、陽菜の行動ルートの一つ図書室で待ち伏せしておいた。

 図書室は普通の書物から妖魔や術者に関する物も多く置いている。ほとんどが触り程度の物だが相手がどんな種族なのかが把握できるくらいで、一般生徒が閲覧できない禁書もあるのだが難しすぎて借りる者など見たこともない。陽菜が通っている理由は自身の能力を消せるような能力があるのかを知るためで、もっとも、妖魔関係を拒否してきたので素人に毛が生えた程度の知識しかないので、触り程度でも参考にはなるのだろう。

 ドアの開閉の音が聞こえ、桃理はスプーンを置いて立ち上がった。実は、桃理達が食事をしている場所は、図書室のカウンターに繋がっている小部屋だ。主に図書委員の休憩所になっている。

「待ち人が来たのですか?」

「ういうい。んじゃ、夜理ちゃん、桃理ちゃんは出陣なのだぁ」

「分かりました。では、桃理様お先に失礼致します」

 パフェを二つ持った夜理の体が影に沈んでいく。完全に頭まで飲み込むと夜理の影は小さくなっていき跡形もなく消える。影を使った空間移動。闇理もできるが姉の夜理には敵わない。

 図書室のカウンターに繋がっているドアを開くと、真っ直ぐ歩いてきた陽菜と視線が交わる。

「ハロハロ、万町陽菜ちゃん」

 フルネームで名前を呼ぶと警戒するように目が鋭く細まる。毛を逆立てた猫みたいで可愛い。あらかじめ人払いしておいたから、図書室にいるのは桃理と陽菜だけだ。

「貴女、誰?」

「むむ、失礼な子なんだー。ピコピコーン、グットアイディアが降りてきたんだよ。陽菜ちゃんは先輩って呼ぶべきだねん」

 小首を傾げ頬に手を当ててから悩むポーズをし、今まさに思いついたかのように手を叩く。不信感は増しているようだが上履きの色を見て上級生だと気付いたらしく、顔と胸と身長を何度も往復されるように見られ、こんなちっちゃい子が自分よりも年上って驚く表情が面白い。

――桃理、誰かが見てる――

 ふいに頭の中で李理の声が届く。桃理は気配を探るように頼み、目の前にいる陽菜に集中する。

「さてさて、陽菜ちゃんは、最近ね、爽志ちゃんとラッブラブだよね。もしかして、爽志ちゃんの彼女さんになりたいって思ってるのかにゃ?」

「……爽志ちゃんって誰ですか?」

 桃理は目を瞬かせジィッと陽菜を見上げた。眉を寄せ口をへの字に曲げ、表情を歪める姿に嘘は吐いていないようだ。何気にベストチョイスなのが凄い。さすが、ゲーム主人公。

「やれやれ、だね。爽志ちゃんは生徒会書記様の三爽志ちゃんだよ。知らないってゆーのはどの口かにゃ」

「ああ、三先輩ですか。全く知りませんでした」

 わきわきと手を動かしていると陽菜はあっさりと答える。まるで興味ないですといった態度に、何だか爽志に憐憫の情を抱いてしまう。

「ふぅん、陽菜ちゃんってやっぱり変な子ぉ」

 しみじみとした風にセリフを吐き、陽菜の一挙一動を見逃さないように視線は逸らさない。

「貴女に言われたくないです」

「むむっ、陽菜ちゃんのイケずー。ほらほら~、先輩なんだよぉ。せ・ん・ぱ・い~」

 さんはいっと手を叩き急かすように言うと諦めたように陽菜は先輩と呟く。棒読みなのが丸分かりだが、ゲーム通りの反応は感慨深いものがある。

――桃理、相手を見つけた。そこの女に似た少女だ――

 気分を良くしていると、李理が報告してくれる。陽菜に似た少女は十中八九、双子の妹月菜だろう。ゲームでは陽菜の最大のライバルだからこちらを見ていてもおかしくはないので桃理はゲーム通りの行動を取る。

「よぉく、できましたぁ。花丸ちゃんをあげちゃうんだよ!」

 制服の裾を引っ張ると嫌そうにしながらも身を屈めてくれる。もっともっととしゃがむ位まで低くさせると、満足げに陽菜の頭を撫でてあげると、石のように固まり動かなくなった。と思えば、瞬間的に耳から顔を赤くさせ、内心テンパってるんだなぁと見透かす。

 妖魔使いだからか傅かれることはあっても、頭を撫でられることはないのだろう。桃理も家族以外の大人からされたことはなく、彼らは恐れ多いと感じているらしくこちらから触れると感極まった態度で大げさに喜ぶ。慣れてないのだろうと微笑ましさに、さらに撫でていると違和に気付く。

 桃理は妖魔といっても妖魔使いなので基本スペックは人間に近い。確信を持って妹に尋ねると肯定される。どういうことだと混乱していると、陽菜がハッと顔を上げて月菜のいる方角を睨む。

「ねぇ、陽菜ちゃん。どしたのかにゃ、それ?」

「えっ? それとは」

「包帯グルグルぅ。分かった、分かっちゃったのだよ、明智君。桃理ちゃんにはキラッとお見通しなのだ! 他の子と喧嘩しちゃう悪い子さんはどーしてくれよぉ」

 しゃがんだ陽菜の制服から白い包帯が覗いていたことを指摘すると顔色が悪くなる。視線を彷徨わせてから、真っ直ぐと桃理の目を見るも揺らぐ。動揺しているのが丸分かりだ。

「ち、違います。これは、その、タンスにぶつかっちゃって」

「ぬぬ? 陽菜ちゃんってば、ドジっ子さんなのなの?」

 苦しい言い訳だが桃理は納得したフリをしてあげた。ドジっ子の称号に陽菜は口元を引き攣らせるが、早口によく物にぶつかるのでと言い訳をする。明らかな嘘が意味するのは何だろうか。

 隠そうとするからには理由があるはずだ。好きな人を庇うため、もしくは脅されて相手が言えない。他には言うと自分にとって不利になる。または、全ては桃理の勘違いで、単に喧嘩をして怪我をしただけ。どれが正解か分からない。

 ゲームではなかったことが起きると怖くなる。ちょっとしたミスにより、取り返しのつかないようなことになって佐藤美紀に復讐できなくなったら、自分の生きていた年数は全て無駄になってしまう。そんなのは嫌だ。

 詳しく根掘り葉掘り陽菜に聞きたいところだが、出会ったばかりの相手に踏み込み過ぎると嫌われてしまう。陽菜とはもう少し仲良くなりたいので、好感度マイナスにならないように質問は避けて会話を打ち切る。

「あやや、お昼休み、もう終わっちゃうぅ。まったねぇん、陽菜ちゃん」

 語尾にハートマークをつけるように砂糖を吐きそうなほど甘い口調で陽菜の名を呼び、図書室のドアを潜り廊下へと出た。陽菜に聞けないなら別の相手に喋ってもらえば良い。ルームメイトの百目鬼どうめきゆなか、陽菜の初恋相手の生徒会顧問万剛司よろずつよし。聞きやすいのはゆなだが陽菜の態度から隠している可能性が高く、桃理の発言で詰め寄り喧嘩をして不和になってしまう未来が想像できる。ならば、ここは教師である剛司にしておこう。常日頃過保護な剛司相手だったら怪我を知っていても不思議はなく、案外気付いて知らないフリをしているのもしれない。

 剛司は苗字から分かる通り、妖魔八家のうちの一つ鬼の宗家の者だ。さらに、陽菜の初恋の相手で能力を厭う切っ掛けになった人物である。プレイヤーからは陽菜廚のストーカー野郎、十歳以上離れているからロリコン、エッチの最中やたらと舐めまくるので変態性職者、むしろこいつ病んでねぇかと好き放題言われていた。まあ、何だかんだ言われる一方で人気も高く、ファンによる投票では上のほうだったはずだ。



「しつれーしまーす」

 小さくノックしてから職員室のドアを開くと、書類に目を通しながら箸を銜える剛司がいた。陽菜が来たのなら素早く箸を抜き、身嗜みを軽く整え即座に笑顔を浮かべるが桃理なので気付きもしない。他の教師は多少の違いはあっても息を呑み行動を見守って自分の害にならないよう目を光らせているのに、本当に陽菜以外興味ないんだと分かるとおきれを通り越しておかしくなる。

「おっじゃま~なのですぅ。剛司せんせぇってさ、万町陽菜ちゃんの親戚だっ」

「陽菜がどうかしたか?」

 まだ言い切ってないのに、陽菜の名に剛司が素早く反応する。

「桃理ちゃんね、陽菜ちゃんに会ったんですけど~、とぉっても面白い子で花丸あげたいですぅ」

「……気に入ったのか?」

「ういうい。嘘吐きなれてないのにぃ、頑張っちゃてるとことかね、すっごぉいおかしかったですよぉ」

 内緒話するように耳打ちする。

「タンスにぶつかったドジっ子を装ってたんですけど、桃理ちゃんにはバレバレだったんですよぉ。包帯巻いてたとこがね、タンスにぶつけるのむっずかしーもん。それにね、目がキョロロロって泳いでてね、血の臭いからもっと他の場所にもあるんじゃないかにゃっと、桃理ちゃんは推測しちゃってるんですよーだ」

 知ってますかの言葉を出す前に剛司は立ち上がり、駆け出して行ってしまう。さすが忠犬ストーカー野郎。夜理達みたいに自分とこの妖魔使い至上主義みたいだ。

 この件、桃理も気になるから調べてみよう。鬼が出るか蛇が出るか、原作の違いはどんな影響を与えるのか。最悪なことになる前に対処できるよう知っておきたい。自分の手駒達にお願いをして陽菜の怪我のことを調べさせようと桃理は職員室を後にした。


ゲーム主人公陽菜と接触。

ゲーム中の会話もこんなもんで、桃理は名乗らずに先輩と呼ばせます。

他キャラとの接触もないので、名前は明かされませんでした。

プレイヤー達からはロリ先輩やぶりっ子、ウザドラ先輩(ウザいドラゴン系統の好感度に左右する先輩)などと呼ばれていたり。


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