文理戦争
「「ふざけるなっ!!」」
放課後。
夕日でオレンジ色に光る教室の中、二人の絶叫がこだました。
私の前で、八島 優一と坂本 真紀が双方とも、一歩も引かない剣幕でにらみ合っている。
ちなみにもう教室には私たち三人しか残っていない。
私、内村 八千代はそんな二人を交互に見たあと、
ハア・・・
一回、ため息をついた。
また始まったよ・・・
心の中でそうつぶやく。
私たち三人は幼い頃からの遊んでいた、幼馴染だ。
元々家が近い、ということもあって幼稚園の頃から私たち三人は仲良く遊んでいた。
それは高校に入っても変わらない───はずだった。
いや、断じて仲が悪くなった、というわけではない。
今でも三人、仲良くやっているつもりだ。
それにこの二人、付き合っているのだ。つまりは、恋人同士。
普段はとても仲が良い。
───ただ『あること』についての話になると、二人は大ゲンカを始めるのだ。
その『あること』とは・・・
まあ、二人の会話を聞いていこう。
「分かってないっ! 真紀はなーんにも分かってない!!」
「分かってないのは優君でしょ!?」
「ちがう!! 俺は分かった上で否定してるんだ!」
「嘘! 絶対分かってないよ! 文学の素晴らしさを!」
「お前こそ、なぜこの理学の素晴らしさが分からないんだ!?」
「「あー、もう!! 分かってない!!!」」
はい、この二人のけんかの原因がお分かりいただけただろうか。
八島優一。
得意教科は数学、科学、物理、生物、そしてなぜか、習っていない地学まで。
苦手教科は古典、現代文、英語、日本史。
完全な理系男子である。
坂本真紀。
得意教科は古典、現代文、英語、日本史、そしてこちらもなぜか、習っていない世界史まで。
もちろん苦手教科は数学、科学、生物。(物理は文系では習わない)
完全な文系少女である。
普通の人なら「え? そんなことで・・・?」とお思いになるだろう。
現に私も思っている。
だがこの二人。
自分の得意教科が「愛してしまうくらい大好き」なのだ!
そんな二人の言い分を聞いてみよう。
「真紀、文学と理学の違いが分かるか? 文学は言語、歴史、法律・・・所詮人間が、この二、三千年の間で作ったものだ! だが理学は地球、いや、この世界の始まりから・・・つまり! 何兆年の間に、自然によって作られたものなんだ! 理学は世界が創ったもの、法則、それらを解き明かそうとしてるんだ! それに比べ文学は人が作ったものを人が解き明かしているに過ぎないっ!! どう見ても理学の方がロマンがあるだろ!?」
「ロマンなんか知らないよ! 人間って何で意志を通じ合ってるの? 言葉でしょ!? 歴史だって、優君、「古きをたずねて新きを知る」って言葉知らないの? 歴史から、人が犯した過ちを学んで、もう二度と繰り返さないようになるんでしょ! 文学が今の世の中を作っているんだよ!」
「今の世の中は科学があったから、ここまで発達してこれたんだよ! 言葉なんて、しゃべれれば通じるだろ!? 小学校までで充分だ」
「小学校レベルの語彙で足りると思ってんの? あー、だから優君の語彙力って、小学生レベルなんだー。あー、納得。それに、それを言うなら数学こそ小学校までで充分でしょ! 三角関数? 微分積分? 何に使うのよ、そんなもん!! 将来絶対使わないよ」
「はあ!? それを言うなら古典こそ、将来絶対使わないだろ!?」
「何言ってるのよ。昔の作品を読むことも大切でしょ? 「更級日記」でも読んでみて。私、絶対菅原孝標女さんと気が合うと思うの! 本が読みたいからって薬師仏を彫るなんてそうそう出来ないわ」
「誰だよ!? ってか、それって日記だろ? そんなもの、読む気にならないね」
「なによ! 日記文学だっておもしろいのに!! じゃあ、「竹取物語」は? あれもおもしろいよ」
「え? 「竹取物語」って、最後にかぐや姫が月に帰っていくやつだろ? 俺もそんぐらいなら読んだことあるけど」
「クスクス・・・そんな幼稚園児が読むような絵本の話が本物の「竹取物語」だと思ってんの? 全然違うわよ。優君は、「竹取物語」の百分の一、いや、一万分の一も理解してないよ!」
「あーいいですよー。理解できなくても死なないし。それじゃあ真紀。「水中毒」って知ってるか? 水を飲み続けると、死ぬんだぜ?」
「え!? うそ・・・」
「いや、ホントだって。水分を取りすぎると血中のナトリウムイオン濃度が下がって、脳や心臓、筋肉が動かなくなって来るんだ。実際に死亡事故も起きてる。いいか? 古典は知らなくても死なないが、科学は知らないと死ぬことだってあるんだぞ!? どう見ても科学の方が大事だろ」
「うっ・・・ちなみにどれくらい飲んだら死んじゃうの?」
「一気に10リットルぐらい」
「そんなに飲むわけないでしょ!? バカ!!」
「なんだとお!?」
「なによ!?」
・・・・・・と、こんな感じだ。
もう一度言っておこう。
二人は本当に仲が良い、のだ。
今日だって本当は「テスト前だから皆で残って勉強しよう」と真紀が提案してきたのだ。
それが途中で(予想はしていたが)こんなことになってしまった。
───本当は二人とも、お互いのことが大好きなのだろう。
自分の大好きな人に、自分の大好きなことを知って欲しい。理解して欲しい。認めて欲しい。
そういった思いが強すぎて、二人はケンカしているんだろうなあ、と思う。
だからこの行動も、愛ある行為に最近は見えてしまい、ほほえましく見ている自分がいる。
・・・・・・さて、ここらへんで止めに入るか。
「はいはい、二人とも。ケンカしないの。ほら、もうすぐ下校時間だから・・・」
私がそういうと、二人とも私のほうをじっと見つめ始めた。
なんだなんだ・・・なんか、いやな予感しかしない。
「なっ・・・なに・・・? 二人とも」
「やっちゃんはさあ・・・・」
「・・・どっちなんだよ」
「え・・・っと、・・・どっちって?」
「「文系と理系、どっちが好き!?」」
「えっ、ええええええ~?」
「もちろん文系だよね? 一緒に本の貸し借りもしてるし」
「何言ってんだ、もちろん理系だろ!? 何だってお前、理系クラスじゃないか!」
「え、えっと~・・・」
私は理系も文系もどっちも普通だ。
特に好きでもないし嫌いでもない。理系クラスに入っているのだって気まぐれだ。
でもそんなこと言っても、今の二人が納得するはずがない。
「えっと~・・・芸術、かな・・・?」
私が少し考えてそういうと、二人とも顔を見合わせて・・・
もう一回私を見て・・・
「クスッ」
笑った。
ちょっと待て! 何だ今の笑いは!?
「ちょっと、二人とも。今バカにしたでしょ!?」
「いや・・・」
「別に・・・」
「も~! 頭きたー!」
私がそういうと、二人が笑って逃げ出した。
───やっぱ、なんだかんだで息が合ってるよなあ、あの二人は。
そう思うと、私も笑ってしまい、そんな二人をいつまでも見続けていたい、と思ってしまうのだ。
「あっ、ちょっと! 荷物忘れてるよー! 戻ってこーい!!」
そう言って私も二人の後を追いかけ、走り出した。
はい、また勢いの短編です^^
ちょっと会話が多いかもしれませんが、しぐさよりも二人の主張を楽しんで欲しい! と思ってあえてこういう書き方でいきました。
恋愛小説じゃない!と思った方、すいませんでした。
本当はもっと深くするつもりでしたが、私の体力が尽きてしまいました(オイ)
さて、それはさておき、皆さんは文系、理系、どっち派ですか?
私は理系の人間です。
国語、英語、大の苦手です。(じゃあなぜ小説書いてる)
でもそんなある日、クラスの男子が「俺は数学さえ出来ればもうそれでいい」という発言をしていました。
これをLove文系! の皆さんが聞けばどう思うんだろうな~とか想像してこの作品が出来ました。
やはり、文系には文系の、理系には理系の、好きな理由があると思うんです。
皆さんももしよろしければ理系、文系、どちらが好きか教えてくれませんか?
出来れば理由も描いてくださると面白い(?)です。
もちろん、理科が嫌いだからーなんてのでもかまいません!
ちなみに私が理系が好きなのは八島くんとほぼ同じ理由です^^(だから何で小説描いてる)。