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秘密結社トワイライト

大人の階段は正しく昇れ -コントラクト2スピンオフ・レミの疑問-

作者: 時任雪緒


 1月10日だ。誕生日まであと1週間。18歳まであと1週間。

 18歳になったらやっと吸血鬼になれる。やっと大人になれる。

 やっとみんなと、同じになれる。

 ずっと、大人になりたいと思ってた。

 ミナ様もアンジェロ達も、いつも僕を子供扱いする。



 ずっと、アンジェロ達が羨ましかった。

 男らしくて、長くて太い手足。背が高くて、筋肉のしっかりついた広い背中。

 みんな、一生懸命で、わははと豪快に笑って、明るくて、色気があった。

 僕も早くそんな風になりたいって思ってた。


 小さい頃はアンジェロが一緒に眠ってくれた。

 ジュリオ様がお勉強を教えたりしてくれた。

 ミナ様にもよく抱っこされた。


 泣いたことだってあった。

 ミナ様の柔らかい胸で。

 アンジェロのかたい胸で。


 だけど、あと1週間。

 僕も大きくなった。アンジェロより背も高くなった。

 もう、僕も大人なんだ。

 だから、吸血鬼になるまでずっと我慢してたけど、やっとほんとの大人になれるんだ。


 アンジェロに言った。

 もうミナ様の事は諦めるって。

 だってしょうがないじゃないか。

 アンジェロは魂を売り渡した。ミナ様の為に。

 気づいてしまったんだから、しょうがないじゃないか。

 アンジェロがミナ様を好きだって。

 アンジェロはミナ様を思って、触れることも話すこともできないのに、ただ見つめるだけしかできないのに。

 僕が出しゃばったことなんか出来るわけないだろ。

 僕は、そんなカッコ悪い大人になんかなりたくなかった。

 だから、諦めるって言ったんだ。


 だけど、今まで何度、この頭の中で、夢の中で、紫色の瞳の視線の先で。

 今まで何度心の中で、ミナ様を。


 わかってる。ミナ様は僕を男としてはみていない。

 わかってる。ミナ様は僕を大人としてはみていない。

 わかってる。そんなことは、わかっているんだ。

 だから、もう諦めるって決めたんだ。


 決めたのに。


 どうしてクリスがミナ様を求めるのか。

 どうしてアンジェロじゃないの。

 アンジェロならって思ったから、僕は諦める気にもなれたのに。

 どうしてアンジェロは他の女を求めるのか。

 ミナ様を好きなら、ミナ様だけを見てほしいのに。

 どうして僕の思いを、みんなが踏みにじるの。

 僕はただ、アンジェロやミナ様、みんなに、幸せになってほしいだけなのに。

 



「出かけてくる」


 アンジェロが出かける。クリスティアーノとジョヴァンニとレミが見送った。

 ミナはクラウディオと出かけている。工場の夜景を見に行くのだと言って。

 レミももう17歳だ。さすがにわかってる。

「また、女のとこ?」

「だろうな」

 溜息を吐きながら、クリスティアーノが答えた。

 クリスティアーノは知っている。

 レミも知っている。

 ジョヴァンニだってわかってる。

 アンジェロがミナを好きなこと。そして手に入ることはないこと。

 レミはまだ17歳だ。まだわからない。

「なんで、女のとこに行くの?」

 好きなら、好きな人だけを追い求めればいいのに。自分はそうしているのに。

 アンジェロにもそうしてほしいのに、アンジェロには女がいる。抱くだけの都合のいい女がたくさんいて。


 抱いて、服を着る。女はベッドで微睡んで、少し淋しそうにアンジェロを見上げる。

 それを醒めた目で見降ろして。



   Good-bye


 それで終わり。


   See-you


 そんな事、言ったことはない。


   I love you


 今までの人生で、一度も言ったことはない。



 ウソでも女は言って欲しそう。言わないのも誠意だ。

 ベッドに金をばら撒いて、まるで娼婦だとでもいう様に。

 それで終わりだ。


 同じ女と関係を持ち続けるのは面倒くさい。一夜限り一度限りが楽だ。

 中にはスキモノの女もいたりはする。そういうあとくされのない女は、便利な排泄口だ。

 啼かせるだけ啼かせて、アンジェロが果てる頃には女はぐちゃぐちゃになっている。

 激しすぎて女は正気を保っていられない。


 激しい、行為が。激しい、葛藤と憤りが。

 あぁ、目障りだ。

 褐色の肌。

 うるさい。

 ミナの声はこんな声じゃない。

 目を瞑る。

 女の口を塞ぐ。

 黒い髪。指を絡ませる。

 体と、髪だけで構わない。

 他は必要ない。何もいらない。

 後は自分の、想像力だけ。

 ただの自慰の道具。


 だけど、無我夢中で腰を振る。

 バカみたいだ、と思う。

 虚しい、と思う。

 やってらんねぇ、と思う。

 だけど、こうする以外には、何も。

 

 あぁ、誰か、俺を殺してくれたらいいのに。 



「アイツは死ぬんだろ」

 クリスティアーノが言った。

「関係、あるの?」

「なくはないんじゃない」

 ジョヴァンニが言った。



 魂を売った。愛した。心の底から。

 死んでもいい。好きだから。心の底から。

 だけど覚えてない。忘れられてしまった。それでも愛してる。

 愛してるとは言えない。許されないから。それでも愛してる。

 愛されない。きっと一生。それでも愛してる。

 傍にいたい。ずっと一生。それでも自分は死んでしまう。

 愛しているのに、話すことも触れることもできない。もう友達にも戻れない。

 愛しているのに、魂を売ったのに、忘れられてミナが幸せになったら死ぬ。

 本望だ。幸せだ。それでいい。

 言い聞かせる。

 だけど耐えられない。

 死んでもいいから本当は、ほしいのに。

 いや、手に入らなくてもいい、傍にいたい。ずっと。だけど死ぬ。

 だけど、構わない。忘れられたまま死んだって。愛しているから。




 Really?



それは、まごう事なき葛藤。



「けど、本当に好きなら、他の女に行く?」

「逃げ道くらい、あってもいいだろ」

「無垢だねレミ。それは、幻想」

 感情なんかなくたって、ソウイウコトは誰とでもできる。

 レミはまだ子供だから、わからない。子供の頃の幻想を引きずっている。


「・・・・・そんなに、いいもの?」

「そりゃな」

 自嘲するようにクリスティアーノが言った。

「その時はね」

 少し目を伏せて、ジョヴァンニが言った。

「本当は、よくないの?」

「悪くはねぇよ。けど、空しいな」

「空しいけど、その時だけでも頭フッ飛ばせるなら、それに縋りたいこともあるよ」

「・・・・・大人は、かわいそうだ」

 素直にレミはそう思った。ずっと大人になりたいと思っていたけど、そんな手段に逃避することが、酷く悲しく思った。


「大人ねぇ。男が、かな」

「だね。女はまた違うみたいだし」

「そうなの?」

「女が性衝動に逃避する場合は、また違った理由だな」

「なに?」

「さぁな」

 からかわれた。大人に子供だと見下されたと思った。

 さぁな、と言ったクリスにはわかってる。ミナ様が自分に逃げた理由。

 知ってて、利用してる。アンジェロを裏切って。最低だ。

「可哀想だよなぁ、男は」

「可哀想かもね、大人は」

「知らなきゃ、よかった?」

「ハッハッハ、知らなきゃ、もっとブッ壊れてたかも」

 ちょっと勇気を出して聞いてみた。

「セックスって気持ちいい?」

「そうだなぁ」

 少し宙を仰いで答える。

「惚れた女とするセックスは、最高だ」

 それは、ミナ様が? 聞いてみたくなったけど、引っ込めた。さすがに。

 まだ、クリスがミナ様を好きなだけ、マシだ。

 アンジェロが他の女と寝る理由と同じなら、殴ってる。絶対許さない。

「それ以外は?」

「普通にいいかな」

「どう違うの?」

「精神的な問題かな?」

「だな。誰とでもヤレるけど、惚れた女は別格だ。心が満たされて、心ごとイけるから」

 クリスはその充足感を知ってる。じゃあアンジェロは?

「アンジェロは満たされてないの?」

「だから、いつも手当たり次第なんだろ。誰でも同じだから。ミナ以外はな」

 アンジェロが知ったら、どうなるんだろう。それを、その充足を。僕も知らないけど。

 知ってほしいような気がしてきた。

「もし・・・・・ミナ様とできたら?」

 その問いに、クリスティアーノは煙草の煙を吹きながら、首を上に向けて吹き出す。

「アイツ、バカだから。満足して、もっと足りなくなって、死ぬのが嫌になるんだろ」

 答えに、思わず吹き出した。

「なんだ、じゃぁ二人くっつけちゃおうよ」

「ハッハッハ、そうだなぁ」

 死んでもいいと思っているなら、死にたくないと思えるようにしたらいい。

 満たされない思いを満たしてあげたい。

「衝動は、満たされたら落ち着く?」 

「それは、幻想だ」


 きっと、加速する。



   衝動



「レミももう少しで大人になるね」

「うん」

「反面教師しなよ? 好きな子に好きって言えないのは、不幸なことだから」

 アンジェロを見ていればわかる。

「好きな子ができたら、ちゃんと言いなよ」

「で、ヤラせてもらえ」

「僕はミナ様しか好きじゃない」

「じゃぁお前、一生童貞だ」

「なんでそーなるのさ!」

「だって、ミナとアンジェロくっつけたいんだろ」

 ぐぅ、と喉が詰まった。

「最初は誰でもいいんじゃねーの。筆おろしは適当で」

 ムカついた。

 立ち上がった。

 大声を出した。

「クリスと一緒にしないでよ! 僕はそんな大人になりたくないんだよ! 好きな子にしかそういうことしたくないし、好きなら好きってちゃんと言って大事にするし! ふざけんな! みんな腐ってる下種野郎! ミナ様が好きなら好きってちゃんと言って、ミナ様にも好きになってもらって、大事に抱けばいいだろ! なんでそれができないんだよ! 男のくせに惚れた女もまともに抱けないクズ野郎! ちゃんとタマついてんのかバカが!」

 一思いに叫んだら、ジョヴァンニがパチパチと拍手。

「レミ、いい男になったねー、本当」

「カッコイイ、お前」

「うるさいっ! バカ! 大人ぶって余裕かましやがって! バカ死ね!」

 その場から走って出て行ったら、後ろの方でジョヴァンニが

「子供だなぁ」

 と言っているのが聞こえた。

 ムカつく。


 幻想だって、いいだろ。

 好きな子に好きだと言って、好きになってもらってセックスをする。

 それって、普通じゃないのかよ。

 なんでそんなことが、この屋敷の大人たちはできないんだ。

 絶対、こんな大人にはなりたくない。


 



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