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────雫が、ぽたりと落ちた。
落ちた雫が水面に触れたところから、陽の光をまとった環が順々に広がっていく。
今度は違う場所に雫がこぼれた。そして、また新たな波紋を描く。
何度も繰り返されるそれに、心が癒される。
(私は、この季節が好きだ)
掌を頭の上で合わせ体を伸ばす。背筋が伸びて、とても気持ちがいい。
手を下しながら、胸いっぱいに空気を含む。
ふわりと香る雨や土の匂い。植物の香り。雨が降った後の少しだけひんやりした空気のおいしさに自然と顔がほころんだ。
まわりを見渡せば、紫陽花の葉はきらきらと輝いていて、花も青紫色がより鮮やかに深い色合いになっている。
雨は惠みだ。雨が降ると植物も生き物もその恩恵を受け、人知れず輝きだす。その生き生きとした姿を見ると、思わず顔の筋肉が緩んでしまう。
雨雲のひと時の休憩。とても居心地のいい時間。またしばらくしたら雨が降り出すのだろうが、それもまた待ち遠しい。
そんな清らかな空気の中に、凛とした声が響く。
「命の連鎖、魂の連鎖、意思の連鎖。全ては途絶えることなく、永遠に紡がれ続ける。この身がいつ滅びようとも、また新しい命が芽生え、魂が宿る。私の想いを受け継ぎ、それからさらに自分なりの考えを導き出すのだ」
そして。
そう言い、なぜか嬉しそうに笑う彼女は、ここに存在するなによりも綺麗で、まぶしい。
(彼女は、気高い)
ふいに伸ばしてしまった手を、私はそっと引き戻した。