表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫陽花の君  作者:
1/2

1

 ────雫が、ぽたりと落ちた。

落ちた雫が水面に触れたところから、陽の光をまとった環が順々に広がっていく。

 今度は違う場所に雫がこぼれた。そして、また新たな波紋を描く。

 何度も繰り返されるそれに、心が癒される。


(私は、この季節が好きだ)


 掌を頭の上で合わせ体を伸ばす。背筋が伸びて、とても気持ちがいい。

 手を下しながら、胸いっぱいに空気を含む。


 ふわりと香る雨や土の匂い。植物の香り。雨が降った後の少しだけひんやりした空気のおいしさに自然と顔がほころんだ。


 まわりを見渡せば、紫陽花の葉はきらきらと輝いていて、花も青紫色がより鮮やかに深い色合いになっている。


 雨は惠みだ。雨が降ると植物も生き物もその恩恵を受け、人知れず輝きだす。その生き生きとした姿を見ると、思わず顔の筋肉が緩んでしまう。


 雨雲のひと時の休憩。とても居心地のいい時間。またしばらくしたら雨が降り出すのだろうが、それもまた待ち遠しい。


 そんな清らかな空気の中に、凛とした声が響く。


「命の連鎖、魂の連鎖、意思の連鎖。全ては途絶えることなく、永遠に紡がれ続ける。この身がいつ滅びようとも、また新しい命が芽生え、魂が宿る。私の想いを受け継ぎ、それからさらに自分なりの考えを導き出すのだ」


 そして。


 そう言い、なぜか嬉しそうに笑う彼女は、ここに存在するなによりも綺麗で、まぶしい。


(彼女は、気高い)


 ふいに伸ばしてしまった手を、私はそっと引き戻した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ