7 独り
7 独り
父さんのお墓の前で、流れる雲と大きな月を見ながら、僕は一人考えていた。
僕は、僕に隠れて抱き合ってキスをしたシーグとリアに対して、激しい憤りを感じた。どうしてだろう……シーグに嫉妬したのか? それなら、僕はリアのことを恋の対称として好きなのだろうか。
確かにリアの事は大事だった。だから恋心がなかったとは言い切れない。でも、僕のリアへの気持ちは恋というよりもむしろ愛だった。それは恋人同士の愛ではなく、家族への愛のようなものだった。そしてシーグの事も、リアと同じように僕にとっては大切な大切な家族だった。
それならどうして、僕はこんなに憤りを感じるのだろう…………
そんなことを延々と考えているうちに、辺りは真っ暗になってしまった。僕は父さんにおやすみを言って、家へ戻った。帰り道はあまり気分がよくなかったけれど、それでも僕は歩いた。家が見え出した頃には、僕は走っていた。
「ただいま」
扉を開けたそこには、シーグとリアがちゃんといた。
「…………あれ」
2人はいたけれど、部屋がひどくすっきりしている。宇宙へ行くためにまとめておいた3人分の荷物がないのだ。部屋にはもう、ベッドとテーブル、椅子が2脚しかない。
「ねぇ」
嫌な汗が流れる。
「ねぇ、荷物どこいったの?」
沈黙。……どちらも答えてはくれない。
「ねぇ、荷物はどこ?」
「宇宙に送ったんだ」
うつむいたまま、シーグが言った。
「なんで?」
「もう気が済んだろ?!」
シーグも怒鳴る。それでも、その目は僕を見ない。
「夢を追いかけるのはいい事だ。でも、それって命を犠牲にしてまでする事か?」
シーグの言葉に、胸が衝かれた。
「あのね、イコル」
椅子に座っていたリアが立ち上がった。その目はやはり僕を見てくれない。
「さっき、警察の、大人たちがきたの。月の落下が早まりそうだから、明日ここを発ちなさいって。だから、それに従って荷物を先に送ってもらったの」
僕の胸の底が、ざわざわと蠢いていた。
「じゃぁ、花は?」
二人ともようやく、僕を見た。
「花はどうするの? この星で最後の夢、一緒に叶えようって約束は?」
僕を見る2人の目は、哀れみに満ちていた。
「まだそんなことを言っているのか」
「イコル、私たちも、大人にならなきゃ」
胸の蠢きは、僕を突き破った。
「大人って……大人になることが、そんなに大切なの? 僕は大人みたいに汚れたくない。キミたちみたいに汚れたくない!!」
それは、言ってはいけないコトバだった。
「………………」
同時に、最も言いたかったコトバだった。
「……そうか」
シーグはそう言ってリアの手を握った。
「じゃぁ、俺たちは行くよ。お前はここで、いつまでも子供のままでいろ」
あ……
「イコル、よく考えて。ロケットは明日、太陽が地平線に沈む瞬間に発射するから」
あぁ……
「行くぞリア。もうこいつに構うことなんかないんだ」
あぁ…………
扉は閉まった。ぱたり。
あぁ。ようやく理解した。
僕はシーグに嫉妬しても、リアに恋してもいなかったんだ。
僕は怒った。
怒ったのは、ただの強がりだったんだ。
本当は、僕はこわかったんだ。
独りになることが。
リアとシーグが、2人だけで何処かへ行ってしまうことが。
寂しかったんだ。
独りになることが。
あの月や、この星のように、独りぼっちになることが。
僕は怖かったんだ。
――――――――― ああぁ、
―――――― ああ、あぁ、
ああああああああぁぁぁぁ!!!!!!