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6 告白


6 告白


ロケットの最終便の発射まで後4日になった日、僕はリアとシーグがキスをしている現場を見てしまった。それは、父さんが死んでからずっと抑えていた、僕の様々な感情を剥き出しにさせた。怒りや嫉妬、焦りや孤独は、僕の心に大きな穴を開けていった。

そして僕は、次の日のお昼過ぎにベッドの上で目を覚ます前までの事を全く覚えていない。いつ家に戻ったのか、その時の自分がどんな様子だったのか、結局ご飯は食べたのか、二人とは話をしたのか………僕には分からなかった。


「……イコル…イコル?」

突然、リアの顔が僕を覗いた。

「ぅわ!」

僕は驚いて、椅子ごとひっくり返ってしまった。

「きゃ!」

リアの小さな悲鳴の後に、僕は後頭部を思いきりぶつけてしまった。

「おいイコル…大丈夫かよ」

僕の上から、シーグの声が降ってきた。

「イコル…大丈夫? 立てる?」

リアの声も、上から降ってきた。

……見下ロサナイデ……

「…………」

僕は何も言わずに自分で起き上がった。リアが僕に手を差し出していたけど、わざと知らないフリをした。

「お前、昨日からヘンだぞ?」

……当然ダロ? アンナモノヲ見セ付ケラレテハ……

「…………」

「……イコル? 具合悪いの?」

「……別に大丈夫だよ。花のことを考えてたんだ。心配しないで」

僕は無理やり笑って、嘘をついてみせた。自分で自分が、とても奇妙に思えた。そんな僕を見て、シーグは何かを考えているように、眉根を寄せた。

「イコル、ちょっといいか?」

突然シーグが、僕の腕を掴んだ。シーグの手は酷く汗ばんでいて、また力強かった。

「なに?」

「……話があるんだ、二人だけの」

僕は胸の奥から湧き上がる不安を押し殺して、頷いた。

「花の丘に行こう」

そう言って、僕らはリアを家に残して丘へ向かった。シーグはずっと腕を掴んで離さなかった。


丘へ着くとすぐ、シーグは僕の腕を離して、座ってくれと言った。僕はそれに従った。

「話って何?」

僕は平静を装いながら、シーグに問いかけた。シーグは拳を硬く握って俯いた。

「あのさ……」

シーグは、ぽつりぽつりと話し始めた。

「俺たちもうすぐ、この星離れるんだよな」

「うん」

「この星離れたら、俺はお前と一緒に暮らすんだよな」

「そうだね」

僕は敢えて、淡白に返事をした。

「でもさ、さすがにリアはそうじゃないだろ? 血は繋がってないからさ。アイツ、宇宙へ行っても誰も身寄りいないんだよな」

「……うん」

「この間の大人も言っていたけど、リアは孤児院に入れられることになるんだろ。リア、耐えられるかな」

「そうだね。リア、本当は寂しがりやなのに強がりだからね」

「そう!」

突然、シーグは声の調子を高くした。

「そう、アイツは寂しがりやなんだ。この間、リア俺に言ってたんだ。本当は宇宙に行くのが怖い。それならこの星に残っていたい。でも死にたくないって」

シーグはひと息で言って、少しむせて咳をした。

「俺、リアを守りたい」

そういった横顔には決意が満ち溢れていた。僕は次第に焦りを感じた。身体中から汗が噴き出た。まるで、天敵と対峙する小動物のように……

「ぼ……僕だって」

「そういうんじゃないんだ。俺は、リアを守りたい。一人の男として」

僕は、シーグの言ったことが聞き取れなかった。そして聞き返す前に

「俺はリアが好きなんだ。愛してるんだ!」

告白されてしまった。僕の身体は、電流でも流されたかのように大きく震えた。そして、あの二人のキスを見たときと同じ衝動が、胸を衝いた。

「俺、昨日、それ言ったんだ。つい勢いで、言っちまったんだ」

シーグは耳まで真っ赤にしていた。対する僕は自分が青ざめているような気がした。

「そしたらリア、泣いちゃって、顔ぐしゃぐしゃにして、それがすごく、かわいくて……」

第二の爆撃の予感に、僕は身を硬くした。

「俺、アイツを抱きしめて、キスしたんだ」

再び、ドンと衝かれた。

「何度も、何度も………」

シーグは手を握ったり緩めたりを繰り返している。僕はそれを呆然と見つめた。

「俺、それからの事あんまし覚えてなくて」

聞キタクナイ、

「あんまりうまく言えないんだけど……」

聞キタクナイヨ、シーグ。ヤメテ、

「あのさ……その後さ……」

聞キタクナイ、ヤメテヤメテヤメテ!!!!

「気がついたら、俺もアイツも裸だった」

「………………」

「リアもさ、泣きながら笑ってて、恥ずかしいねって……」

僕は今、どんな顔をしているだろう…………

「俺、18歳になったらリアと結婚するんだ。リアと約束したんだ」

泣いているかな? 笑っているかな?

「……イコル?」

シーグはようやく、僕に気づいた。

「…………もうやめて」

僕はようやく言葉を発することが出来た。でもその声は、虫の鳴き声のようだった。

「イコル?」

「もうやめて……」

僕の視界が、一気に涙で滲んだ。

「イコル、どうしたん……」

「やめてくれよおぉッ!!!!」

声と一緒に、涙と唾が飛んだ。

「…………イコル」

「もう、聞きたくない」

シーグは立ち上がって、僕を見下ろした。

「お前……まさかお前も、リアの事……」

僕は、何も言わなかった。正直、何も考えていなかった。

「そうなのか……?」

シーグはよろよろとその場に座り込んだ。

「そうなのか……ごめんな、気づけなくて。……俺、お前の家族失格だわ」

そう言って、一人溜息をついている。

コイツ、何ヲ勘違イシテルンダロウ……

「辛かったよな、よく話聞いてくれたな。俺がお前からこんな話聞いてたら、きっとお前のことぶん殴ってた。……ありがとう」

そう言って、シーグは頭を垂れた。

アリガトウ? 何ヲ勘違イシテルンダ……

「構わないよ、シーグ。シーグは僕の大切な家族だよ。これからはリアとも家族になれるんだね、僕嬉しいよ」

僕の口からは、ひどく優しい声が出た。別人が喋っているような感覚だった。

何故なら僕の中ではこの言葉と全く逆の感情がぐちゃぐちゃと蠢いているからだ。

「イコル……」

シーグは僕の言葉に涙ぐんだ。

「ありがとう……ありがとうイコル」

「うん、構わないよシーグ」

僕は立ち上がり、一人歩いていった。

「イコル、どこ行くんだ?」

「父さんの所。リアが家族になるんだ。報告しなきゃ」

僕はシーグに背を向け、墓場へ向かった。

蠢く感情は、歩いているうちに僕の優しい感情をゆっくり飲み込んでいった。

「……死んでしまえ……」

僕の口からは、もうそれしか出てこなかった。


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