2 墓場
2 墓場
この場所は、この地で死んだ人々が眠る場所だ。簡単な土盛りの上に、墓標として木の十字が刺さっている物がずらりと並んでいる。僕の父さんは、右の列の手前から6番目に眠っている。供え物らしいものは持ち手のとれたマグカップの水だけ。僕はそんな父の墓前にしゃがみ込んだ。
「……」
何も言わずに、目を閉じる。ただそれだけ。
父さん、僕は生きてます。
それだけを伝えるために毎日やってくる。
しばらくして、僕はしゃがんだまま目を開き、空を仰ぐ。
月が、大きく浮かんでいた。
いつか本で見た月は、真珠のように白く小さく輝いていた。
でも、今空にある月は、ただの石の塊だった。バケモノみたいに浮かんでいる。
そしてアレは、8日後にこの星とぶつかる。
そうなると僕らは死んでしまう。
だから、みんなは宇宙へ行った。僕らは5日後の最後のロケットで、この星を離れる。
でも、僕には気がかりな事がある。
1つはリアの事。リアには、身寄りが1人もいない。シーグは僕の従兄弟なので、一緒に暮らすという事も難しくはない。でも、リアはそうじゃない。宇宙へ行ったところで出迎えはなしだ。そういう子供は、警察隊という軍事集団の青年隊に入れられるか、孤児院に入れられるかのどちらかの道しかない。リアは警察隊を毛嫌いしている。だから、残された道は孤児院しかない。何年か前の戦争で、孤児院は子供たちで溢れかえっている事は誰でも知っている。寝場所も食料も奪い合い。…というのを、聞いたことがある。そんな所へ、リアが行くのは心配だった。それに、リアはいつも勝気だけど本当はとても弱い女の子だという事を、僕は知っている。そんな状況下でリアは、やっていけるだろうか。
もう1つは、花のことだ。この星には、1000年に一度だけ咲くという花がある。そして、今年はそれを見ることができる年だった。今はまだ固い蕾が閉ざされたままだ。父さんの研究結果では、それが開くのは多分6日後。つまり、ロケットの最終便が行ってしまったギリギリ後だ。僕は、父さんが研究していた花にとても興味があった。だから、宇宙へ行くのをギリギリまで延ばした。もしかしたら、開花が早まって見る事が出来るかもしれないからと思って。リアとシーグは、そんな僕のワガママに黙って付き合ってくれている。2人も、花には興味があるらしい。
「ずっと止まっていてくれればいいのに」
僕は、空に浮かぶ月を見て呟き、すっと立ち上がった。そして、裸足で土の感触を確かめるように、ゆっくり歩き出した。