表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

2 墓場


2 墓場


この場所は、この地で死んだ人々が眠る場所だ。簡単な土盛りの上に、墓標として木の十字が刺さっている物がずらりと並んでいる。僕の父さんは、右の列の手前から6番目に眠っている。供え物らしいものは持ち手のとれたマグカップの水だけ。僕はそんな父の墓前にしゃがみ込んだ。

「……」

何も言わずに、目を閉じる。ただそれだけ。

父さん、僕は生きてます。

それだけを伝えるために毎日やってくる。


しばらくして、僕はしゃがんだまま目を開き、空を仰ぐ。

月が、大きく浮かんでいた。

いつか本で見た月は、真珠のように白く小さく輝いていた。

でも、今空にある月は、ただの石の塊だった。バケモノみたいに浮かんでいる。

そしてアレは、8日後にこの星とぶつかる。

そうなると僕らは死んでしまう。

だから、みんなは宇宙へ行った。僕らは5日後の最後のロケットで、この星を離れる。

でも、僕には気がかりな事がある。

1つはリアの事。リアには、身寄りが1人もいない。シーグは僕の従兄弟なので、一緒に暮らすという事も難しくはない。でも、リアはそうじゃない。宇宙へ行ったところで出迎えはなしだ。そういう子供は、警察隊という軍事集団の青年隊に入れられるか、孤児院に入れられるかのどちらかの道しかない。リアは警察隊を毛嫌いしている。だから、残された道は孤児院しかない。何年か前の戦争で、孤児院は子供たちで溢れかえっている事は誰でも知っている。寝場所も食料も奪い合い。…というのを、聞いたことがある。そんな所へ、リアが行くのは心配だった。それに、リアはいつも勝気だけど本当はとても弱い女の子だという事を、僕は知っている。そんな状況下でリアは、やっていけるだろうか。

もう1つは、花のことだ。この星には、1000年に一度だけ咲くという花がある。そして、今年はそれを見ることができる年だった。今はまだ固い蕾が閉ざされたままだ。父さんの研究結果では、それが開くのは多分6日後。つまり、ロケットの最終便が行ってしまったギリギリ後だ。僕は、父さんが研究していた花にとても興味があった。だから、宇宙へ行くのをギリギリまで延ばした。もしかしたら、開花が早まって見る事が出来るかもしれないからと思って。リアとシーグは、そんな僕のワガママに黙って付き合ってくれている。2人も、花には興味があるらしい。

「ずっと止まっていてくれればいいのに」

僕は、空に浮かぶ月を見て呟き、すっと立ち上がった。そして、裸足で土の感触を確かめるように、ゆっくり歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ