1 悪夢
1 悪夢
……
村に残っていた数人の大人たちの叫び声。
…何を慌てているんだろう。
「……事故だ…事故だって!」
…事故?
そしてみんなが僕に駆け寄る。
…どうしてそんな顔をしているの?ぼくが何かあったの…?
「…………!!!」
…何、なんだって?聞こえない。
「…イコル、お前の父さんが…!!!」
父さんが、何か?
…………………え?
ロケット発射の事故で、死んだ?
ま、まさか。だって父さんと僕、あさって宇宙に行くって約束したんだよ?
準備だって…もう家の中片付いたんだよ?
母さん達はもう宇宙だよ? 父さんと一緒に行くんだ。
「イコル!!お前の父さんは、」
…なんで、父さんが…? 嘘だよ…嘘だよ嘘だよ……
…ありえないよ。
……父さん、
僕を、独りにしないでよ………
「……ル…コル…イコル!?」
誰かの呼ぶ声に、僕は目覚めた。
「………リア?」
僕の目の前には、少女が立っていた。白い肌に緑の瞳、腰まで伸ばした茶髪に、袖のない白いワンピース。
リアは、少し心配そうな顔で僕を見ていた。
「…リア、どうかした?」
「うなされていたけど。嫌な夢でも見たの?」
僕は、リアの言葉で自分が汗で濡れているのに気がついた。そして、どんな夢を見ていたか少し考えた。
「……大丈夫だよ。昔の夢を見ただけ。…シーグは?」
僕はもう一人の同居人の行方を聞いた。シーグは僕の従兄弟の少年で、僕とリアと同じ13歳。シーグもリアも僕の家で住んでいる。僕の父さんと、リアの母さん、シーグの父さんと母さんが今年の初めにロケット発射の事故に巻き込まれて死んでからずっと一緒に。
「タダイマ〜」
扉が開き、シーグが帰って来た。褐色の肌に青い瞳。肩まである銀髪は後ろで束ねていて、白いシャツとボロボロの短パン姿。背はリアよりも少し大きいくらい。
「お帰り、シーグ。…何処行ってたの?」
「何処って…花見てきたんだ。それ以外に何がある?」
シーグは呆れ顔を僕に向け、言った。僕は苦笑してみせ、バネのいかれたベッドからゆっくりと降りた。
「行って来ます」
僕は木の扉を開け、外へ出た。目の前に広がるのは、緑一色の丘と、青く澄み渡った空。近くには、足首までしか水かさのない小川も流れている。
そんな見慣れた風景を特に気にせず、僕は人気のない通りを裸足で歩く。履きなれているブーツを手にもって。自分の肌で、直に土を踏みしめていたいから。こんな事ができるのは、もう5日間しか残されていなかったから。
行く先は1つ。いつも朝起きてすぐに家を出て向かう場所。父さんの眠る、墓地へ……。