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月が落ちる、その前に―――――――
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僕が生まれたその年、一般人に宇宙が開放された。当時は、お金が必要だったので、行ける人も移住する人もほとんどいなかった。僕の家族は、それ以前の問題でてんてこ舞いだったので、行けなかった。
僕が4歳になったその年、妹が生まれた。嬉しかったけど、僕に噛み付いたり舐めたりするので少し嫌だった。少しだけ妹のお守りをすることができた。
妹はリーシャという名前になった。リーシャは春に咲く小さくてかわいい白い花の名前だ。かわいい妹にぴったりだと思ったけど、じいちゃんは農作業をしていてよくむしり取ってしまう。リーシャ草は雑草らしい。
僕が6歳になった年、僕は学校へ行き始めた。成績は中の上。まあまあだった。くねくねした気持ち悪い男の子が一番だったのがいやだったので、たくさん勉強した。そうしたら次は僕が一番になった。くねくねの男の子は三番だった。二番は眼鏡をかけた女の子だったはずだ。
僕が7歳になった年、宇宙へ移住する人たちのためのロケットの運行が無料になった。
何故かは分からなかったけれど、妹も僕もまだ小さいので家族は行かなかった。
僕が8歳になった年、5年後に月がこの星に落ちてくると発表があった。何で落ちてくるかは分からなかったけれど、このままでは僕らは死んでしまう、という事だけはわかった。学校の友達が、だんだんいなくなっていった。この年、妹が流行病にかかっててんてこ舞いだったので、僕らは宇宙へ移住する余裕はなかった。
僕が10歳になった年、8人しかいないクラスで1番になり、中級学校への特別進学ができるようになった。でも、中級学校には3人しか生徒がいなかった。僕はそこでも1番になったけれど、上級学校へは行けなかった。もうこの星に上級学校はなくなったらしい。
みんな宇宙に行ってしまった。しばらくして、中級学校も宇宙に行ってしまった。僕は学校にいけなくなった。僕の家では農場をやっていて、農場は宇宙に持っていけないので、じいちゃんが宇宙行きを反対していた。僕も行きたくなかった。
僕が12歳になった年、遂にじいちゃんが折れた。折れたというのは骨じゃなくて、意見の事だ。農場は手放すらしい。じいちゃんとばあちゃん、母さんと妹の4人は宇宙に行ってしまった。父さんが仕事の都合でまだ行けないらしいので、僕は父さんと一緒にいくつもりだった。どんどんどんどん月が大きくなってきていた。
そして、僕が13歳になるこの年、月が僕たちの星に落ちる年―――――――