決断
今回ちょっと短いです。
「あんた、何で1次審査勝っちゃったの?」
俺は今、姉貴に説教されていた。
どうして怒られてるかって?
そんなの簡単、さっき姉貴が言ったじゃないか。
1次審査勝っちまったんだよ、ちくしょう。
しかも誰から見ても俺の大活躍でな。
だって、仕方ないじゃん?
桜内さんと同じチームになったのにワザと負ける訳にはいかないじゃんか。
「これにはさ、色々深い事情があって」
「気変わりしたとでも言うの?あんたがアイドルになりたいってなら別にいいんだけど、父さんや母さんには何て言うつもりなのよ?」
「いや、俺は別にアイドルになりたい訳じゃなくて」
俺はどうしてドッヂーボールを頑張ったのか説明する。
「ふーん、じゃあ、あんたその桜内って娘のために頑張ったんだ?」
「まぁ………そういう事かな」
「それって、ヤバいわよ」
「なぜ?」
「だって、最終審査まではずっと同じチームでやるんだもの」
「……………マジで?」
「ええ、マジで」
姉貴がきっぱりと言った瞬間、俺はその場で固まった。
だって、それってやばいじゃん?
桜内さんに協力しようと思うと、最終審査まで行かなくちゃいけない訳だ。
どう考えても俺の精神が持たねぇよ。
もともと1回戦で負ける気だったからまだ耐えれたけど、長時間女装なんて耐えれる気がしない。
そりゃ知り合いに見られてもばれないとは思うけど、実は俺、女装にトラウマがあるんだ。
思い出すのも嫌だから、どんなのかは聞かないでくれ。
とにかく、俺はここでどちらか選択しなけりゃいけない訳だ。
自分の為に桜内さんを犠牲にするか、桜内さんのために自分を犠牲にするか。
ここで漫画の主人公とかだったら迷わず後者を選択するんだろうけど、あいにく俺にはそんなの無理だ。
いやさ、考えても見ろよ。
自分が俺と同じ状況だとして、こんなの耐えれるか?
当事者として言っておくが、絶対無理だぞ。
「そうそう、これだけ言っておくけど、男であるためには男を捨てなくちゃいけない。昔父さんが言ってたわ。私の言いたい事はそれだけ。後は自分で考えなさいね」
姉貴は意味ありげにそう言うと、ひらひらと手を振ってどっかに行ってしまった。
1人になり、もう1度よく考えてみる。
『男であるためには男を捨てなくちゃいけない』
この言葉、丁度今の俺に当てはまる。
男としてのプライドを捨てずに非紳士的行為をするか、男としてのプライドを捨てて紳士的行為をするか。
どっちを選べばいいかは分かってる。
「ここで逃げるのは男じゃねぇよな」
どうせ外見で男になるのは無理なんだ。
だったらせめて内面だけでも男でいてやる。
絶対最終審査まで行ってやろうじゃないか。
最終審査まで行って、そこで落ちればいいんだ。
桜内さんと出会っちまったのは不運だったかもしれない。
彼女と出会わなければこんな事にならなかったんだから。
でも、出会っちまったもんはしょうがない。
最後まで力の限り協力してやろう。
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