奇妙な試作品
「……………ふぅ、どうしよう………」
俺は紙袋とにらめっこしながら呟いた。
多分、はたから見たらすんごい変人に見えるだろうな。
それは自分でも分かってるんだけど、どうしてもこう言わずにはいられないんだ。
どうしてこんなことになってるかって?
まぁ、普通は想像もつかないだろう。
俺が悩んでいるのはこの紙袋の中身のせいだ。
この紙袋、『一応着替えなさい』とか言われて姉貴から渡された物なんだけど、とんでもない物が入っていた。
まず1つ目はふりふりのいっぱい付いた青色のワンピース。
これは100歩譲ってまだ分かる。
そりゃあアイドルオーディションの衣装だもん。
形だけとはいえ一応ちゃんとした物着なきゃいけないからな。
んで、2つ目は指輪やネックレスとかアクセサリー類。
これもまぁ、特に問題は無い。
問題なのは3つ目だ。
なんか厳重に包装されてて、『何だろう?』って思ったんだよ。
箱を開けて、紙を取って、エアクッションを取ったらさ、何が入ってたと思う?
おっぱいだよ、おっぱい。
本物は見たことないけど、多分これ本物と遜色無いんじゃない?
弾力なんかもう人肌とほとんど一緒で、今の技術ってこんなにも進歩したもんだと感心したさ。
一緒に入ってた紙には何やら色々書いてあって、とりあえずこれが試作品で、名前は『エアバスト』って言うのが分かった。
他には時速80キロで走る車から手を出した時と同じ感触とか書いてあるけど、それはどうでもいい。
付け方は専用の接着剤を塗って張るだけらしいんだけど、男としてこれを付けるのはどうなのよ?
これ付けたらもう俺が俺じゃ無くなる気がするんだが、気のせいか?
「あ、あの、芹沢さん、さっきから難しい顔してどうしたんですか?」
「えっ?俺そんな顔してました?」
しまった、あまりにも中身にショックを受けすぎて周りのことを気にしていなかった。
慌てて近くにある鏡で顔を確認すると、ふむ、確かにいつもの顔じゃないな。
「すみません、ちょっと、これを付けるかどうかで悩んでて」
俺はそう言うと、エアバストを桜内さんに渡す。
桜内さんにはもう全部話してあるから問題ないだろう。
桜内さんは初め驚いた顔でそれを見つめていたが、少しすると意を決した様に手に取った。
押したり摘まんだりして色々興味深そうに弄りだす。
男の俺には分からないけど、やっぱり女子はこういうのに興味があるんだろうか?
俺は胸の大きさは気にしないけど、学校では大きい胸が好きな奴も多いからな。
女子はそんなことも気にしなきゃいけないんだから、ホント男で良かったと思うよ。
「あの、これ、何なんですか?それと、どうやって手に入れたんですか?」
「えっと、とりあえず『エアバスト』って言うらしいですよ。まだ試作品らしいですけどね。姉が持ってきたので、詳細はよく分かりません」
「そうなんですか………残念です………」
「ん?何か言いました?」
最後の方小さくてよく聞こえなかったな。
「ふぇ?あ、いえ、何でもないです………」
「………?」
何て言ったか気になるけど、本人が言いたくないなら仕方ないか。
それよりも、今はこれを付けるか付けないかだな。
俺的には付けたくないけど、付けないで男だってばれても困るし、難しいところだ。
「それで、どうした方がいいと思います?」
「そうですねぇ」
桜井さんは唇に人差し指を当て、可愛らしく考える。
この動作って不細工がやると気持ち悪いけど、やっぱり可愛い子がやると様になるな。
………どうでもいいか、そんなこと。
「一応付けておいた方がいいんじゃないですか?ばれてしまっては元も子もないですから」
「そうですか………分かりました。じゃあ、付けます」
どうせいつも女物の服を着てるんだ。
これくらい気合いで何とかしてやる。
俺はそう決めると、更衣室に入った。
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