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受けるの?オーディション

サブタイトル考えるのって難しいですね。

「着きましたよ」

「あ、ありがとう………ございました………」

俺と桜内さんは満身創痍になりながらもマスターにお礼を言い、車から降りる。

車に乗ってこんなに疲れたのって初めてじゃないだろうか?

そりゃマスターも気を利かせてくれて急いだんだろうけどさ、いくらなんでも運転荒すぎるだろ。

隣で桜内さんは失神寸前になってるし、俺だって怖くて目を開けていられなかったんだよな。

速度メーターは見てないけど、多分100キロは出てたと思う。

もしそこまで出てなかったとしても、警察に見つかったら確実に捕まる速度だったのは間違いない。

まぁ、何にせよ1時には間にあったし、事故にも遭わなかったから結果オーライなんだけど、もう2度とマスターの車には乗りたくないな。

「大丈夫ですか?桜内さん」

「は、はい。まだちょっと足がふらつきますけど」

………それって大丈夫じゃ無いじゃん。

1人で立てないみたいだから手を差しだす。

「あ、ありがとうございます」

桜内さんは俺の手を掴むと、何とか立ちあがった。

足はまだ明らかに震えていて、手を離したら一瞬で崩れ落ちるだろう。

「では、お客さん。幸運を祈って店で中継を見ていますよ」

マスターはダンディな声で言うと、サングラスをキラリと光らせてから車で颯爽と去って行った。

多分、サングラスの奥ではウインクとかしてたんだろうな。

俺と桜内さんは車が見えなくなるまで茫然と見送っていた。

「っと、こんなことしてる場合じゃない。早く受付に行きましょう」

「あ、そうですね」

幸いマスターのおかげで時間に少し余裕は出来たがそれも数分。

俺達は急いで受付に向かった。

受付は分かり安く大きな看板があるのですぐに見つかる。

どうやらまだ受付は終了いていないようだ。

「す、すみません。う、受付ってまだ大丈夫ですか?」

息を切らしながら桜内さんが聞く。

「あっ、君たち参加希望者!?」

タオルを海賊巻きにした男性はこっちに気付くと、ハイテンションで聞き返してくる。

「いや、俺はちが………」

「いやぁ、ぎりぎりだよ。後1分で受付終了するとこだったじゃないか。さ、2人とも付いて来て」

「きゃっ!」

「うわっ!?」

男性は人の話しも聞かずに俺達の腕を引っ張って走り出す。

さっき『付いて来て』って言ったじゃんか!

どうして腕を引っ張る必要があるんだよ。

「ちょ、ま………」

『まってください』って言いたいんだけど、すごい勢いで走るもんだからなかなか言えない。

結局何も言えないまま待機室に着いてしまい、数字の書かれたプレートを渡された。

「それ、無くさないようにしてね。じゃあ、係の人呼んでくるから少しここで待ってて」

そう言うと男性は鼻歌を歌いながら去って行ってしまう。

少しでもいいから人の話し聞いてほしかったな。

「芹沢さん、どうします?女の子に間違われてしまいましたけど」

「そうですね。別の人が来たら事情を話しますよ」

いくらなんでも連続で人の話しを聞かない人が来る事も無いだろう。

もし男だと信じてもらえなくても、最悪の場合ズボン脱げば一発だからな。

心配は無いだろうと思ってたんだけどさ。

まさか、よりにもよってこの人が来るとは思わないじゃない?

「……………」

「……………」

「姉貴、どうしてここにいるの?」

俺の目の前にいるのは姉貴こと芹沢里奈。

桜内さんには何かしら理由を付けて席を外してもらっていた。

「それは私のセリフだと思うんだけど、違ったかしら?」

「いえ、あなた様の仰る通りでございます」

そりゃまあね、姉貴が勤めてる事務所のアイドルオーディションだもん。

姉貴がいるのが普通で、俺がいるのが可笑しいんだよな。

分かってる。

分かってるけどさ、元はと言えばそっちのミスじゃない?

俺の性別も確認しないでここまで連れてきちゃってさ。

そりゃ何も言わなかった俺も悪いっちゃ悪いけど、9対1くらいの割合であっちが悪いと思うよ、俺は。

「あんたがアイドルになりたいっていう気持ちはよ~く分かったわ。そりゃその美貌ですもの。生かしたいって考えるのが普通よね。だけど、普通は姉が勤めてる事務所のオーディション受けるかしら?少なくとも私は受けないわね」

「別にアイドルになりたくて来たんじゃないし」

「じゃあ何でここに来たのよ?」

「それは………」

俺はどうしてこうなったのかを掻い摘んで説明する。

「………ふーん、じゃあ、あんたはその()の付き添いで来たってワケね?」

「そう、分かったら早く俺の参加取り消してくれよ」

テレビで中継もされるらしいし、こんなのに出てもし知り合いに見られたりしたらもうやってられないしな。

こう考えたらここで姉貴に会えたのは幸運だったかもしれない。

「えーとね、それ、無理だわ」

前言撤回。

ナンノヤクニモタタナイジャンカ。

「何で無理なんだよ!?」

「だって、あんた連れてきた人鈴木さんって言うんだけど、あの人めちゃくちゃでね。あんたが男だって知ったら余計におもしろがって絶対辞退させてくれないわ。それどころか、オーディション前から合格出しちゃう可能性もあるわね」

「マジですか?」

「ええ、大マジ。とにかく普通にオーディション受けて落ちるしかないわね。まぁ、追い打ちかける様で悪いけどさ、あの人今『すごい美人さん2人キター!!!』ってはしゃいでるから、あんたが合格する可能性が高いってのが現状なんだけど、そこは自分で何とかしなさい。一応私も努力するけど、あの人より権力下だからほとんど何もできないわ。じゃあ、私の言えることはそれだけだから」

姉貴はそう言うと、俺の肩をポンと叩いてからすたすたと歩いて行く。

「こりゃ、ヤバい事になったな」

俺はそう呟くだけで精いっぱいだった。

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