変な喫茶店
喫茶店内に入ると、とりあえず見渡してみる。
内装は洒落た感じで、壁紙はピンク。
言うまでもなく客は全員女性で、居心地の悪い事この上ない。
まぁ、皆俺のことを男だと思ってないだろうから、こんな居心地の悪さ感じる必要無いんだけどな。
「わぁ、いいお店ですね。座りましょう」
少女ははしゃぎながら俺の腕を引っ張る。
「うわっ、と」
俺はいきなり腕を引っ張られて一瞬転びそうになるが、何とか体制を立て直す。
そのまま引っ張られるままに店の中に入っていって、俺と少女はカウンター席に座った。
「………!?」
いや、ちょっと待て。
何かおかしなのが目に入ったんだが、俺の見間違い………じゃ、ないよな?
どうして、どうしてこんな洒落た喫茶店にサングラスかけたハゲ頭のおっさんがいるんだ?
あまりにもこの店の雰囲気に合ってないだろ。
「おや、お客様。ワタシの顔に何か付いていますか?」
「え、いや、別に………」
しまった、知らない内におっさんの方をじっと見てしまった。
だって、仕方ないだろ?
壁紙ピンクで客も女性しかいない店にサングラスかけたハゲ頭のおっさんってミスマッチすぎるじゃないか。
しかも今俺のことをお客様って言ったから、この人この喫茶店のマスターだろ。
どんだけ趣味悪いんだよ。
「では、注文がお決まりしだいお呼びください」
マスターはそう言ってお辞儀をすると、店の奥に消えていった。
「………すごいマスターさんでしたね」
「はい、見た瞬間吹き出すかと思いましたよ」
マスターには悪いけど、多分初めてこの店に来た人皆驚くんじゃないか?
「好きな物頼んでくださいね。私が払いますから」
「いえ、そんなの悪いですよ」
「本を取ってもらったお礼ですから、遠慮しないでください」
「別に遠慮してる訳ではないですけど………」
女性に払ってもらうのは男として気が引けるんだよな。
いくらお礼だからって、こういう時は男が払うのが筋ってもんだろう。
まぁ、それ以前に少女は俺の事を男だとは思ってないだろうから、早いとこ男だってこと伝えなきゃな。
「やっぱりこういうのは男が払うべきでしょう」
「えっ?男の人なんて、どこにいるんですか?」
「目の前にいるじゃないですか」
俺は人差し指で自分の顔を指しながら言う。
「そんな、冗談ですよね?えーっと………?」
少女は多分俺の名前を言おうとしたんだろうけど、まだ自己紹介をしてないから言えるはずもない。
「芹沢です」
「あ、ありがとうございます。芹沢さん、女の方ですよね?」
「いえ、だから、男です。ちなみに、オカマでもありませんよ」
俺がそう言うと、少女は驚いた表情で俺の身体を上から下までじっと見てくる。
まぁ、当然の反応だな。
「でも、その服って女物の服ですよね?ブランドの」
「ブランドかどうかは知りませんけど、父が服屋の社長をやっていますから送られてくるんですよ」
「………そうなんですか。今まで気付かなくてすみませんでした」
少女はそう言うと申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「別にいいですよ。もう慣れてますし」
「いえ、本当にすみませんでした。遅れましたけど、私は桜内愛梨です。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。俺は芹沢梓です」
「……………梓って、やっぱり女性じゃないですか?」
「だから違いますって!」
そりゃ梓なんて名前の男はそういないだろうけどさ。
両親が俺が生まれる前から決めてた名前なんだから仕方ないじゃないか。
先に3連続で女の子産んだからって、今度も女の子だろうとかいう意味不明な理由で名前を決めてて、結局生まれてきたのが俺だったらしい。
一応親父は名前新しく考えようって言ったらしいんだけど、お袋が譲らなかったんだと。
まぁ、一応お袋も生まれる前から名前決めておくのは止めたみたいで、弟が生まれた時は普通の名前をつけたんだけど、その名前が『幸村』ってのはどうかと思う。
時代劇見てて歴史上の偉人の『真田幸村』にちなんだと言う話だ。
「お客さん。男の名前で梓ってのも、また一興ではありませんか」
いつの間にか来てたマスターがいきなり言う。
「この店にカップルが来るのは珍しい。今日のお代、ただにしておきますよ」
マスターはそう言いながらジュースの入ったコップを1つだけ置くと、先が2つに分かれているストローを入れた。
「さぁ、どうぞ。ごゆっくり」
マスターは俺と桜内さんに不適にほほ笑むと、店の奥へと戻って行った。
俺と桜内さんはその後ろ姿をただただ見つめることしかできなった。
誤字脱字があればご指摘お願いします。




