出会いは突然
「それにしても、やることないな」
商店街を1人で適当に歩きながら俺は呟いた。
日曜日はホントに暇だ。
とにかくやることが無いんだよな。
普通の高校生なら日曜日は友達と遊びに行ったりするんだろうけど、あいにく俺にはそんな親しい友人はいない。
しかも今俺は姉貴との2人暮らしだから、家族で出かける事も無い。
ちなみに言っておくが、両親がいない訳じゃないぞ。
俺は自分も合わせて7人家族で、姉3人と弟が1人いる。
姉貴が2年前から1人暮らしをしてて、俺も姉貴の家の近くの高校に通いたかったから住ませてもらってるんだ。
でも、今思えばこれが失敗だったと思う。
俺が通ってた中学には小学校からの付き合いの奴がいっぱいいて、親友もいた。
だけど、高校受験の時、何故か俺は皆とは違う高校を選んじまったんだ。
高校に入学早々顔のことをバカにされて、バカにしてきた奴と大喧嘩。
結局入学式の日に謹慎処分になって、友達の1人だってできなかった。
部活に入ればまだ良かったのかもしれないが、あいにく俺は小中と帰宅部を貫いてきた男だ。
今更やりたい部活なんて無い。
そりゃ最初の頃は少し寂しかったけど、今ではもうすっかり慣れた。
適当にのんびりだらだらと過ごす事の素晴らしさに目覚めちまったからな。
俺の生活に刺激なんていらない。
平凡万歳だ。
「………なんだか考えてて虚しくなってきたな……………本屋でも行くか」
俺はそう呟くと、本屋に向かった。
10分も歩くと本屋に着いた。
この図書館は結構規模が大きく、俺は暇な時よく利用している。
何となく本棚に並んだ本を眺めて、気になったタイトルの本を取ろうとした時だった。
「……………」
隣で何やら一生懸命背伸びをしている少女がいた。
見た感じ歳は俺と同じくらいで、可愛い顔をした長い髪の少女だ。
身長は160㎝ない位だと思うが、本棚の上の方を本を取ろうとしていて手が届いていない。
つま先立ちしてるせいで足がプルプルと震えていて、今にも倒れそうだ。
「う~………えいっ!えいっ!」
何気なく少女を眺めていると、背伸びでは手が届かないと分かったらしく、次はジャンプをしだした。
だけど、ジャンプをしてもあと少し届かない。
「あの、取りましょうか?」
しばらく見てて、ちょっと可哀想になってきたので声をかけてみる。
「ふぇ!?」
すると、少女は声をかけられたことに驚いたのかその場でピョンと飛び跳ねた。
そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど、知らない人に声かけられたらこんなもんだろうか?
「どれが取りたかったんですか?」
「え………えっと、その………い、1番上の緑の表紙の本です」
「ん、分かった。えっと、緑……緑………あった」
緑の表紙の本はすぐに見つかって、俺はその本を取り出す。
本のタイトルは『アイドルになる秘訣』だ。
「はい、これでいいですか?」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
少女に本を渡すと、少女は嬉しそうに笑ってお辞儀をしてきた。
「いえ、困った時はお互い様ですから」
俺もそう言って笑いかける。
「あ、あの、もしよろしければ、お礼させてもらえませんか?」
「そんなのいいですよ」
「それでは私の気が収まりません」
少女の申し出を断ると、少女は笑顔から一転困った顔になる。
そんな顔されると悪い事したみたいな気持になるじゃないか。
「やっぱり………駄目ですか?」
少女の眼には涙が溜まってきている。
……………やっぱり男ってのはバカな生き物だよな。
可愛い娘が相手だと何でも言うとおりにしちまう。
「分かりました」
「本当ですか?ありがとうございます!ここではなんなので、近くに喫茶店がありましたからそこに行きましょう」
少女はさっき泣きかけてたのがウソみたいにはしゃぎ出す。
もしかして、さっきの演技だったんだろうか?
そんな風に思えてくるくらいの豹変ぶりだ。
でも、もしあれが演技だったとしても、これだけ喜んでくれるなら別にいいか。
本を取ってあげただけで可愛い女の子と喫茶店に行けるんだ。
悪くはない。
そんな親父みたいなことを考えながら、俺は少女と一緒に近くの喫茶店に向かった。