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止まり木の魔術師  作者: 成果


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8/14

祈りが願う未来

魔導の主へ祈りを捧げようと、静かに目を閉じた、その直前だった。


「お隣、失礼してもいいかしら?」


聞き覚えのある声に、思わず目を開ける。


隣に立っていたのはノアだった。

今日は非番らしく、いつものフードも制服も身につけていない。淡い色合いのワンピースに身を包んだ姿は、酒場で見る彼女とも、夜の任務で見た彼女とも違って見えた。


正直、少しだけ面食らった。


「……後をつけていたのか?」


「私は教会の人間よ?」


ノアは首をかしげ、何でもないことのように言う。


「休日にお祈りに来て、そんなにおかしいかしら?」


そう言われると、言い返せない。


「……いや。いい心がけだな」


「でしょう?」


ノアは満足そうに微笑んだ。


「あなたも、ちゃんと祈りに来てるじゃない。感心感心」


「当たり前だ。日々、善行を心がけている」


胸を張って言うと、ノアはくすっと笑った。


「さっきの子、お友達?」


「ああ。リナだ。前に話しただろ。幼馴染が修道女見習いをしてるって」


「あの子がそうなのね。明るくて元気そうだったわ」


一拍置いてから、ノアが意味ありげに続ける。


「それに、クッキーでお家に誘うなんて、なかなかやり手じゃない」


「誤解されると困るから先に言っておくが、俺とリナにそういう関係はない」


即座に否定する。


「あら、そうなの?」


「ああ。リナは俺の兄――ルーク兄さんに、もう十年以上も想いを寄せてる」


「へえ……」


ノアは少し驚いたように目を細めた。


「それが、そのお兄さんが送ってきたクッキーってわけね。それ、王都でもすごく人気よ。よく手に入れられたわね」


「そうなのか。ノアは王都から来てるから詳しいんだな」


そこで、ふと気づく。


「……というかノア。俺たちの話、全部聞いてただろ。何が『休日に祈りに来てもおかしくない』だ」


「あはは」


ノアは悪びれもせず、小さく笑った。


「正解」


「まったく……」


呆れながらも、不思議と嫌な気はしなかった。


ひとしきり話した後、改めて魔導の主へ祈りを捧げる。

静かな時間が流れ、祈りを終えた俺たちは並んで教会を後にした。


「そういえば」


歩きながら、ノアが思い出したように言う。


「さっきの司祭、ずいぶん古風な言い回しをしていたわね」


「エルグ司祭のことか?」


「あの人、別れ際に『聖架の元に(・・・・・)、魔導の導きがあらんことを』って言ってたでしょ?」


「ああ。いつもああだが……おかしいのか?」


「少しね」


ノアは顎に指を当てる。


「その言い回し、昔はよく使われていたの。でも今は『聖架の元に』って部分は省かれることが多いわ」


「そうなのか?」


「ええ。知ってるかもだけど、昔は王家より教会の権力が強かった時代があったのよ。でも今は力関係が均衡しているでしょう?」


「……まあ、そうだな」


「だから、『聖架の元に』なんて教会第一主義とも取れる表現は、自然と使われなくなったの。今は頭を取り除いて、『魔導の導きがあらんことを』だけが主流ね」


「へえ……」


「ちょっと時代遅れのおじいちゃん、って感じかしら」


軽く肩をすくめる。


「まあ、気にするほどのことでもないわ」


「……そうか」


それ以上、深く考えることはなかった。


やがて、我が家と『狩人の止まり木』への分かれ道に差し掛かる。


「もう少ししたらリナが家に来るんだが、ノアも来るか? あのクッキー、王都でも人気なんだろ?」


「遠慮しておくわ」


ノアは首を振った。


「今夜はナナミさんに料理を教えてもらう約束なの。それに、せっかくのお兄さんのクッキーだもの。私が食べたらリナさんが可哀想でしょ?」


「そうか」


少し残念な気もしたが、仕方ない。


「じゃあ一緒に帰れるのはここまでだ。この道をまっすぐ行けば『止まり木』だ。近道を使おうとするなよ」


指で示すと、


「分かってるわよ、それくらい!」


ノアは少し顔を赤らめて反論した。


「ああ、大丈夫そうだな。また明日」


「ええ、また明日」


互いに別れの言葉を告げ、俺たちはそれぞれの岐路についた。


監視する側と、される側。

複雑な関係ではあるが――。


それでも、ノアとのこうした何気ない会話を、俺が楽しんでいるのは確かだった。


だからこそ、この連続事件の犯人が見つかれば、すべてが終わるということに、ほんの少しだけ、寂しさを覚えてしまったのかもしれない。

しばらく毎日お昼の12時更新予定です。

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